4作目は大女優グレン・クローズ主演の『天才作家の妻 -40年目の真実-』。描かれるのはノーベル文学賞を受賞した夫と彼を支えてきた妻の物語。そこに衝撃的な真実が隠されていた!夫婦愛の裏に何が……?という物語にザワつく!
毎年この時季になると、アカデミー賞最有力作品!○部門ノミネート!といったニュースが飛び交い、そんなに凄い作品なら見てみようか、ぜひ見てみたい!とそそられる。誰だって世界が注目する映画に興味を抱くものだ。
この『天才作家の妻 -40年目の真実-』、第76回ゴールデン・グローブ賞で主演女優賞を受賞、来たる2月24日(現地時間)に発表となる第91回アカデミー賞主演女優賞にノミネートされるなど話題の映画なのだ。
ただ、40年連れ添った夫婦の話となると……若い世代にしてみたら「これは自分向けの映画だろうか?」「自分が見て楽しめる内容だろうか?」躊躇する人もいるかもしれなくて。もしもそういう理由で『天才作家の妻』をためらっているとしたら、迷わず見てほしい!決して年輩向けの映画ではなく、夫婦という最小単位の家族をベースに、男女の異なる感情、普段は表に出さないような感情が、じわりじわりと浮かび上っていくサスペンスともいえる映画なのだから!
物語は現代文学の巨匠ジョゼフ(ジョナサン・プライス)と妻ジョーン(グレン・クローズ)のもとにノーベル文学賞受賞の吉報が届くところから始まる。授賞式に出るため、米コネチカット州からスウェーデンのストックホルムへ向かう夫婦と彼らの息子。才能ある夫、彼を支える献身的な妻、絵に描いたような夫婦像が映し出されるなかで、彼らを追いかける記者ナサニエル(クリスチャン・スレーター)のジョーンに向けた一方的な質問──「あなたの(書く)意欲はどこから?」「後悔は?」「“作家”は家庭に1人でいい?」によって観客のなかにも夫婦への疑問が生まれる──。この夫婦にどんな秘密があるの?と。
さらに若かりし頃のジョゼフとジョーンのエピソードが差し込まれることで「えっ、もしかして!?」「まさかそんなことって……」疑惑はどんどん大きくなっていく。その煽り方がなんとも絶妙で巧い!これは余談だが、若き日のジョーンを演じている女優アニー・スタークはグレン・クローズの実の娘!
夫婦の間に一体何が起きているのか、何が真実なのか、掴めそうで掴みきれない疑惑の真相をクライマックスまで途切れることなく引っぱっているのはグレン・クローズの名演にほかならない。もちろん夫役のジョナサン・プライスも素晴らしく、ビョルン・ルンゲ監督は「完璧なコンビだった」と2人を称えている。
40年間ともに人生を歩んできた夫婦の絆は深く、夫への変わらない愛も確かにある。でも、妻が時折見せる突き放したような眼差しに「やっぱり何かあるんだ……」とザワザワするのだ。ジョーンが何を考えているのか知りたくて、知りたくて、知りたいという欲求をこれでもかと掻き立ててくるグレン・クローズの演技! 本当に凄い! 特にラストシーンの微笑みは、観客それぞれが妻ジョーンというキャラクターをどう捉えたかによって、その微笑みの意味が変わるような、そんな記憶に残る微笑みで。愛しみにも解放にも見えるあの微笑みは、もの凄くザワつき、爽やかな感動に包まれた。
ひとつ予備知識として持っておいてほしいのは、ジョゼフとジョーンの若い頃、1950年代のアメリカでは、どんなに才能があっても女性は文壇での活躍が難しい時代であったことだ。ジョーンも作家になる夢を持っていたが、そういう時代ゆえ自分の夢は諦め、愛する人の成功に自分の夢を重ねた。しかしそれは愛情があってこそ成り立つものであり、40年の歳月でその愛情がどう変化しているのかも、40年後のジョーンの言動の大きな要因となっている。たとえ夫婦として40年続いていようとも、いや40年も続いたからこそジョーンは抱いてしまった、気づいてしまった、自分の本当の気持ちに……。積もり積もった感情が静かに、でも確実に崩れていく──それはシャーロット・ランプリングの『さざなみ』のラストで感じたザワつきとも似ていた。
この『天才作家の妻』から受け取ったメッセージは、自分自身の選択が今の自分を作っていること、また未来は今の自分によって変えることもできるということ。最後は女性の立場としての意見となってしまったが、そういう意味でも、男性はこの映画をどう捉えたのかを知りたいと思うし、語りたいとも思う。語り合える映画でもあるのだ。語り合うことで、きっと新たなザワつきも得られる気がする。
文:新谷里映
【天才作家の妻 -40年目の真実-】
2019年1月26日(土)より
新宿ピカデリーほか全国公開
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公式WEB: | http://ten-tsuma.jp |
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