7作目は、デンマーク映画『THE GUILTY/ギルティ』。電話からの声と音だけで、誘拐事件を解決する新感覚のサスペンス映画だ。サンダンス映画祭観客賞をはじめ世界中の映画祭で観客賞を受賞している=観客が本当に面白いと認めた映画!いよいよ日本でも公開!
昨年、2018年に日本で公開された映画の本数は、洋画・邦画あわせて1192本(参考:日本映画製作者連盟発表の報道資料)。そのすべてを観ることなんて到底できっこなくて、私個人としての観賞本数は3〜4割。そのなかで「こんな映画は見たことがなかった!」という、もの凄い衝撃作と言える映画は数えるほどだ。『THE GUILTY/ギルティ』は間違いなくその1本に入る映画。すでに2019年のベストに入れたい!と思うくらい面白い!
ワンシチュエーションもののサスペンス映画で、ジャンルとしては決して珍しくはないのだが、「電話からの声と音だけで誘拐事件を解決する」というシンプルな設定から予測不可能な展開へと物語が動いていく、その巻き込まれ感が半端ないのだ。
昨年観た映画のなかで、似たような衝撃作として『search/サーチ』がある。全編PCの画面だけで展開する、今の時代だからこそ描ける新しさのある映画で、こういう描き方があったのかと驚いたのをよく覚えている。今回の『THE GUILTY/ギルティ』の場合は電話がキーアイテム。電話の向こう側で起きている出来事が映像として一切描かれない、視覚的情報が一切ない、というのが大きな特徴だ。
舞台となるのは緊急通報司令室で、主人公はそこで働くオペレーターのアスガー(ヤコブ・セーダーグレン)。彼が1本の通報を受けることから物語は始まる。その通報は、今まさに誘拐されている女性からの通報で、アスガーは電話のやりとりだけで事件を解決しようと試みる。ザワつきポイントは、映し出される映像が緊急通報司令室のみ、もっと言えば、画面に映る主要登場人物は主人公のアスガーのみ!観客はアスガーが受けている電話のやりとり──相手の女性は何処に居るのか、なぜ誘拐されたのか、どんな状況なのか……かすかに聞こえてくる電話越しの声と音から、何が起きているのか事件を想像することになるのだ。
そう、想像力を試される映画なのだ!監督(・脚本)のグスタフ・モーラーが「音声というのは、誰一人として同じイメージを思い浮かべることがない、ということにヒントを得た。観客1人ひとりの脳内で、それぞれが異なる人物像を想像するのだ」と語っているように、電話越しに聞こえてくる車の走行音や状況音から、連れ去れた女性と彼女を連れ去った男性を想像する。彼らはどんな場所にいるのかその風景を想像する。女性の怯えた声から、どんな危険な状況であるかを想像する。そして、唯一映し出されるアスガーの表情に見入り、その電話から聞こえてくる音に神経を集中させる──こんなにも聴覚を研ぎ澄まして映画を観るのは初めてなんじゃないかと思うほど新鮮な体験だった。
この映画を演出する際に最も影響を受けた作品としてモーラー監督は『タクシードライバー』と『狼たちの午後』を挙げている。自分の耳から得た情報を自分の頭でどう想像するのかが重要でもあるので、監督が影響を受けた作品を見て『THE GUILTY/ギルティ』に臨むというのもアリではあるが、それはあくまでも想像を膨らませるための材料のひとつであり、映画についての予備知識は必要ない。むしろないほうが楽しめる。だから、映画を観たときに驚いてほしいから、楽しんでほしいから、今回のこのコラムでは物語の説明を必要最低限に留めた。
シンプルであるのに緻密な脚本(ストーリー)、工夫されたサウンド……スクリーンから得られる情報と音から想像して自分の頭の中で浮かび上がる映像とが融合する、なんとも不思議な体験にザワついた!もの凄くザワついた!本当に“新感覚”のサスペンスで、文句ナシに面白い!
文:新谷里映
2月22日(金) より新宿武蔵野館/ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開
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公式WEB: | https://guilty-movie.jp/ |
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