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今夜、ザワつく映画たち

話題作には、必ず‘ザワつく’タネがある。美しい映像、ストーリーに隠されたギミック、キャストの壮絶な役作り秘話、語らずにはいられない強烈な何か…。そんな、私たちの心を、そして世間をザワつかせる作品を紹介していく。

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『グリーンブック』アカデミー賞作品賞!二人の男の物語にザワつく!

グリーンブック

8作目は、本年度アカデミー賞で、作品賞・脚本賞・助演男優賞(マハーシャラ・アリ)の三冠に輝いた『グリーンブック』。作品賞受賞ということでザワつき度は100%!世界をザワつかせる映画が受賞後すぐに劇場で観ることができるというのも嬉しいッ!

© 2018 UNIVERSAL STUDIOS AND STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC. All Rights Reserved.

1900年代半ばの黒人差別をテーマにした“愛の物語”

タイトルの“グリーンブック”とは、黒人が利用可能な施設を記した旅行ガイドブックのことで、1936年から1966年まで毎年出版されていた。当時はまだ黒人に対する差別が残っていて、映画のなかにも白人と黒人のトイレが別々だったり、白人のバーに入ってボコボコにされちゃったり……というエピソードが描かれている。

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そんな時代のなかで、イタリア系のトニー・リップ(ヴィゴ・モーテンセン)と黒人のドクター・ドナルド・シャーリー(マハーシャラ・アリ)は出会い心を通わせていく。主人公のトニーは、ニューヨークの一流ナイトクラブで用心棒として働いている。店が改装工事のため2ヵ月閉店となり、その間、黒人天才ピアニスト・ドクターのコンサートツアーの運転手として雇われる。差別が色濃く残る南部のツアーには、どんなトラブルも解決する人物がドクターには必要だったのだ。

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けれど、トニーが黒人に対して好意的だったかというとそうではなく、最初は偏見を持っていた。ガサツなトニー、気品のあるドクター、家族や友人から慕われるトニー、孤独なドクター、まるで違う人生を送ってきている2人だったが、衝突しながらも旅をしながら少しずつ話すことによって、相手を知ることによって、変わっていく。トニーのドクターに対する向き合い方が変わり、ドクターもトニーに信頼を寄せるようになっていく、素敵な変化だ。

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アカデミー賞受賞式のピーター・ファレリー監督のスピーチを引用するならば「これは愛の物語。違いを乗り越えて愛し合い、同じ人間だと認め合うのです」──本当にその通りで、おじさん2人のロードムービーのなかに、この先、生きていくうえで大きな指針になるような教えがある。たとえば、偏見や差別は最初からないほうがいいに決まっている。しかし、たとえあったとしても、認め合うことができるということが描かれているのだ。とてもユーモラスに!

というのもファレリー監督は、『ジム・キャリーはMr.ダマー』『メリーに首ったけ』『愛しのローズマリー』など数多くの傑作コメディを、弟のボビー・ファレリーと一緒に手がけてきた監督(本作はファレリーの単独作)。『グリーンブック』のようにデリケートなテーマを含んでいながらも、実は笑ってしまうシーンが多いのはファレリー監督だからこそ。もちろん、ヴィゴ・モーテンセンとマハーシャラ・アリの演技の素晴らしさもある。

名演技、そして物語のリアリティに自分の人生観を揺るがされ、ザワつく!

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アカデミー賞ではモーテンセンも主演男優賞にノミネート。残念ながらオスカーは『ボヘミアン・ラプソディ』のラミ・マレックの手に渡ったが、「(この映画の)立役者はヴィゴ・モーテンセン、彼なしではこの作品はなかった」とファレリー監督がスピーチで語ったように、デンマーク系のモーテンセンは役のために14キロも体重を増量し、無骨ながらも優しさと強さを合わせ持った魅力的なイタリア系の男、トニーを創り上げた。そして複雑で聡明なドクターを演じたマハーシャラ・アリは、『ムーンライト』に続いての2度目のオスカー!『グリーンブック』のほかにも現在公開中の『アリータ:バトル・エンジェル』やアカデミー賞長編アニメーション賞受賞作『スパイダーマン:スパイダーバース』(声の出演/3月8日公開)に出演していたり、目が離せない俳優だ。

また、トニーとドクターの物語は実話!トニーの息子であり、映画のプロデューサーにして監督・脚本家・俳優として活躍するニック・バレロンガは、幼い頃に何度も聞いた2人の話、父親の生き方を変えた旅の話を、いつか映画にしたいと長年企画を温めていたのだという。本作では製作と脚本を担当(ファレリー監督と共同脚本)、みごとアカデミー賞で脚本賞を受賞した。アカデミー賞の前哨戦と言われるトロント国際映画祭でも観客賞を受賞していることからアカデミー賞も大本命と言われてきたが、期待どおりに作品賞に輝いた!

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アカデミー賞3部門受賞という太鼓判のザワつきがあるとはいえ、おじさん2人のロードムービーは地味だし、めちゃくちゃ大きな事件が起きるわけでもない。けれど『グリーンブック』を観た人生と観ない人生はきっと大きく違ってくる──。違いを乗り越えて認め合うこと、愛し合うこと、この映画に込められたいくつもの大切なメッセージは人生を豊かにしてくれるはずで、このおじさん2人に出会えてよかった!そんなふうに多くの人の人生を変える力を持っている。

文=新谷里映