VOL.7 ことばがカフェのキャラをつくる。「なんとかプレッソ」の魔法

想いを込めて名付けられる店名やメニュー名はお客様との初めての接点だ。「なんとかプレッソ」。なに、それ？でも、「なんかいいね」。店名やメニュー名から始まる、カフェの新しい自由な形の秘密を聞いた。

「なんとかプレッソ」「フツウニフルウツ」「しロといロいロ」
「なに、それ？」と思わず聞いてしまいそうなこれらの言葉は、実は「お店の名前」。名付け親、石井ツヨシさんに「カフェとことば」について話を聞いた。

人気ベーカリー「パンとエスプレッソと」のブランディングを手がけてきたのは、石井ツヨシさん（孤独出版）。昨年話題になった、神戸女学院大学の「女は大学に行くな、」というセンセーショナルな文面から始まる広告（実際は真逆の意味だが）を世に送り出した、コピーライターである。

「カフェの店名って、もっと色々できるのにな、ということは前から漠然と考えていました。カフェ○○とか、アルファベットを使ったかっこいい名前が多いけど、日本語を使ってなにかできないものかなと考えている中で、『パンとエスプレッソと』さんから湘南店のコンセプトコピーのお声かけを頂きました」

そこから現在に至るまで、「パンとエスプレッソと」を運営する「株式会社日と々と（こちらの社名も石井さんによって改名したそう）とコンセプトやネーミング回りで協業をしている。最近では、執行役員にも就任したそうだ。

「『店名』とか『商品名』 って見えるようにする手段、ですよね。名前がつくことで、いいところが目に見えるようになる。
理屈の通ったキャッチコピーが多いけど、わからない部分を大切にしているというか、正体がわかってしまうものって、飽きてしまう。
なんか面白い、でも全部はわからない。「なんかいい」をすごく大事にしています。」

エスプレッソって実はあんまりみんな飲んでないんじゃないか？という会話の中から生まれた「なんとかプレッソ」。

その発想の流れは、そのまま店の壁に記載されている。

自然に書かれているようだが、物凄く練って練って生み出したものだそう。

おそらく物を売る商売では、「商品が先にあって、それに名前をつける」という流れが一般的だ。だが石井さんらは「名前を最初に決めて、そこから店を作り上げていく」ということにチャレンジしたいそう。

①音が面白いかどうか ②字にした時に見栄えがいいか　③今までなかったかどうか　④遊べるか→コミュニケーションが生まれるか？

これが決めるポイントだ。

石井さんが実際に使ったメモは、実は自由が丘「パンとエスプレッソと自由形」（なんとかプレッソと同じビルの3F）のトイレの中で見ることができる。ずっと見ていたいくらい興味深いがこの店のトイレはひとつ、長居できない。うーん、これも「全てを理解させない」作戦か・・！

こちらのお店も先に店名から決めたそうだ。「パンとエスプレッソと自由形」。

自由形？「自由が丘だから、自由、自由・・・自由な形」繋がっているような、いないような感じも受ける。

「そのなんとなく、が実は大切だと思うんですよね。答えがわかるような、わからないような。やっぱり、なんかいいね、がちょうどいい」

この自由が丘の店舗は「パンとエスプレッソと」からの暖簾分け。

石井さんが友人と立ち上げた「じそく１じかん」という会社で運営している。

会社のキャッチコピーは、「なんかいいって、すっごくいい」。

前述されていたように、店内は名付けられた「自由形」という店名で遊んでいる。雲のような曲線を描く店内や、高さがバラバラな照明など、「遊んでいる」店内になっているので、是非お店に足を運んで「自由形」を感じて欲しい。

たかが名前、されど名前。よくわからないな、というものほど、惹かれてしまうのかもしれない。

孤独出版 https://ishiistory.jp/
じそく1じかん https://www.jisoku1jikan.jp
日と々と http://www.bread-espresso.jp/