12作目は、『記者たち~衝撃と畏怖の真実~』。イラクは大量破壊兵器を保持している──というアメリカ政府が捏造した情報に加担することなく、イラク侵攻の疑惑を追い真実を追究し続けた記者たちの実話を名匠と実力派キャストで映画化!
映画から日々、多くのことを学んでいる。たとえば、何かを為し遂げた歴史的人物の伝記からは時代を生き抜く力や知恵についてだったり、人間ドラマからは家族やパートナーの存在がいかに大切なものかを気づかせてもらったり、SFの世界は未来や空想を想像させてもらったり、多くを学んでいる。
そのなかで最近特に「これは観なければ!」と目に止まるのは、ジャーナリストの活躍を描いた映画。『記者たち~衝撃と畏怖の真実~』もそのひとつ。描かれるのは、31紙の地方新聞を傘下に持つ新聞社ナイト・リッダーの記者たちだ。
2001年9月11日にアメリカで同時多発テロが発生し、ジョージ・W・ブッシュ大統領はすぐに「対テロ戦争」を宣言、2002年には「イラクは大量破壊兵器を保持している」という政府からの情報によってイラク戦争は始まった。当時、大手の新聞社は揃ってその嘘に迎合したが、ナイト・リッダーだけは違った──。
本当に大量破壊兵器はあるのか? 確かな証拠はあるのか? ナイト・リッダーの記者たちは、中東問題や安全保障の専門家、政府職員や外交官らへの地道な取材を経て、政府の捏造、情報操作であることを突き止める。そして、孤立しながらも批判記事を発表し続けた。信念とプライドを胸に記者の仕事をまっとうする彼らの姿に心を打たれるのはもちろん、その情報は本当に正しいのかどうか、受け取る側も真実を知ろうとする姿勢が必要なのだとハッとさせられるのだ。
新聞や雑誌、テレビ、ネットを通じて簡単に情報が手に入る。そのなかには出所不明のデマもある。フェイクニュースがあっという間に全世界に広まってしまう時代だからこそ、そのニュースは事実なのか、私たちも常に真実を追求する目を持たなくてはならないのだと、この映画を観てニュースの見方が変わった。
また、過去作品で観ておいてよかったと思う映画がある。ウォーターゲート事件の真相を追った記者たちの物語『大統領の陰謀』。ベトナム戦争の長所を公表しようと奔走するワシントン・ポストの奮闘劇『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』。この2作は『記者たち~衝撃と畏怖の真実~』のセリフにも登場するので、余裕があればおすすめしたい。加えて、カトリック教会の神父による児童性的虐待の真相を暴いた『スポットライト 世紀のスクープ』もジャーナリズムとは何かを考えさせてくれる良作だ。
『記者たち~衝撃と畏怖の真実~』を観たいと思った理由はもうひとつある。監督がロブ・ライナーであることだ。『スタンド・バイ・ミー』『恋人たちの予感』『最高の人生の見つけ方』などで知られる名匠で、どちらかというと青春・恋愛・人生ドラマに長けた監督だと思っていたが、2016年にリンドン・B・ジョンソン大統領の伝記映画『LBJ ケネディの意志を継いだ男』を監督している。それに続く社会派ドラマに挑んだのが、本作というわけだ。
2003年のイラク戦争開戦時から構想していた企画だったそうで──「アメリカがイラクに侵攻したことやこの戦争のきっかけについて考えると、いつももやもやした気分になった。それまでの人生において、間違った情報や嘘がもとになって戦争が始まるなんて思ってもいなかったから」と、動機を語っている。そして「もし私たち国民が真実を知ることが許されなければ、民主主義は存続しない」という危機感があり、真実を知る自由や政府や権力の影響を受けない報道をどのように手に入れていくかというメッセージがこの映画には込められている。
ちなみに、ロブ・ライナー監督はナイト・リッダーの支局長を演じている。とてもチャーミングな支局長だ。もともとアレック・ボールドウィンが演じる予定だったが、撮影前に降板となり、監督自身が演じることになった。そしてロブ・ライナーをはじめ、ウディ・ハレルソン、ジェームズ・マースデン、トミー・リー・ジョーンズ、メインとなる4人の記者はモデルとなった実在の記者たちと交流を持ち、彼らがアドバイザーとなり役づくりをしたそうだ。
この映画と出会ったことで、ニュースの見方、真実かどうかを考えること、とても大切なことに気づかせてもらった。観るべき映画、観て欲しい映画、記者たちの“正しい情報”を伝える姿勢に、生き方に、シビれた!
文:新谷里映
【記者たち~衝撃と畏怖の真実~】
2019年3月29日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
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公式WEB: | http://reporters-movie.jp/ |
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