13作目は、アメリカの大ヒットドラマ「The Booth ~欲望を喰う男」を原作にしたイタリアのワンシチュエーションドラマ『ザ・プレイス 運命の交差点』。カフェというありふれた空間で露わになっていく、人間の欲望にザワつく!
この映画『ザ・プレイス 運命の交差点』は、映し出される映像はとてもシンプル、描かれるのは、倫理感や哲学を問われるかのような深いテーマだ。
まず、主人公が謎めいている。名前は明かさずに“謎の男”として登場するその男は、昼も夜も「the place」というカフェの一角にいて、常に分厚い黒いノートを持っている。そして、次から次へと彼の元へ人が訪ねてくる。何をしに……?
訪ねてくる人たちはそれぞれ悩みを抱えていて、謎の男にアドバイスを求めにやって来るのだ。男は人生のアドバイザーなのか、それとももっと神がかった存在なのか──相談者は、自分の欲望を叶えるために謎の男が出す課題を受け取り、行動に移していく。相談する、実行する、報告に来る、さらに相談する……それが淡々と繰り返される。
面白いトリビアがある。この映画はワンシチュエーションで、カフェ「the place」しか登場しない。となれば、ロケセットで撮影したのかと思われがちだが、ローマにある実在するカフェがロケ地となっていて、最適な撮影場所を見つけるためにローマ中を探し回って見つけたそうだ。
場所は、ローマのサン・ジョヴァンニ近く、ガッリア通りにあるビストロだ。撮影で店が使われる前は全然違う店名だったが、現在は映画のタイトルに合わせて「the place」に改名したのだそう。調べてみると、たしかに映画に登場したあのカフェがある!(https://www.saccobistrot.it/en/)謎の男が座っていたあの席を求めて──ローマを旅するときはこのカフェも加えたい。
前半は、謎の男が何者なのか、何をしているのか、訪問者と何を話しているのか、いくつものパズルが同時進行で組み立てられているかのようで、展開がつかめず戸惑うかもしれない。
しかし、次第にそれぞれのキャラクターの【願望】と【課題】が繋がり、さらには謎の男という接点を通じて彼らの運命が交差していく。じわじわと明らかになっていく面白さがある。
この映画はアメリカの人気ドラマが原作で、パオロ・ジェノヴェーゼ監督が映画化したいと突き動かされたのは「人は願望が叶うとわかったらどこまでできるのだろうか?」という作品が持つテーマだった。観客は、相談者の【願望】に共感し、謎の男から与えられる【課題】に困惑する。
パオロ・ジェノヴェーゼ監督は、人間が抱えている秘密や欲望を炙り出すのが何とも巧い。前作『おとなの事情』もワンシチュエーションドラマで、友人の家に夕食会に訪れた7人の仲間たちが、それぞれの携帯電話にかかって来た電話やテキストメッセージを共有し合う“ゲーム”によって繰り広げられる人間模様を描いている。
監督いわく「『おとなの事情』と本作は繫がっている、次回作『Il primo giorno della mia vita(原題)』で三部作になる」とのこと。続編とかそういう単純な繋がりではなく、描かれているテーマにおける繋がりであることを指しているのだと考察できる。次回作も気になるところだが、『ザ・プレイス 運命の交差点』を気に入ったのであれば、ぜひ前作もおすすめしたい。
本作『ザ・プレイス 運命の交差点』の登場人物は、謎の男と9人の相談者、男に興味を抱いているカフェの店員だ。彼らはどう繫がっていくのか──。
ある刑事は、放蕩息子を立ち直らせたいと願っていて、謎の男から、女性からの被害届をもみ消せという課題を受け取る。そこにどんな繋がりがあるのか……。最初は繋がりが見えなくて、一体どういう話なんだ? 毎日カフェの同じ席にいるあの男は何者なんだ? 絶えずザワザワ感があり、そのザワザワした感覚が、浮かび上がる疑問が、この映画の面白さでもある。考えること、そして自分だったら願望を叶えるためにどこまでできるのか……と想像することだ。
9人の相談者を通じて、自分自身の倫理感を試される、向きあわされる、実はもの凄く自分のことが見えてくる映画なのだ。
文:新谷里映
【ザ・プレイス 運命の交差点~】
2019年4月5日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
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公式WEB: | http://theplace-movie.com/ |
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