14作目は、スパニッシュ・サスペンス・スリラー『マローボーン家の掟』。“5つの掟”を守りながら海沿いの森の大きな屋敷でひっそりと暮らすマローボーン家の4人兄妹。忌まわしい過去、屋敷に隠された秘密、兄妹を守るための決断……恐いだけじゃない感動の物語にザワつく!
サスペンス・スリラーと言っても、この『マローボーン家の掟』は、むやみやたらに恐怖を煽るようなタイプではない。しかしながら、4人兄妹が“邪悪な存在”から身を守るために課した5つの掟からは、ホラー感も加わって、その映像の先に何があるのか、その物語の先にどんな真実があるのか、ラストまでザワつきが途切れることはない。
劇中のなかでも説明されるが、タイトルにもなっている“掟”とは──
【1】成人になるまでは屋敷を離れてはならない
【2】鏡を覗いてはならない
【3】屋根裏部屋に近づいてはならない
【4】血で汚された箱に触れてはならない
【5】“何か”に見つかったら砦に避難しなくてはならない
この5つだ。どうして家中の鏡を布で覆っているのか? 屋根裏の向こうには何があるのか? 天井の黒いシミは? 長男ジャックの額の傷痕は? 映画を見ながらいくつもの疑問が浮かび上がってくる。物語に散りばめられた謎に気づき、疑問を抱くほど、ラストシーンの衝撃と感動は大きくなるだろう。
時系列としては、屋敷に引っ越してくる、母が亡くなってしまう、兄妹4人での暮らしが始まる、ある危険人物が現れる、その6ヵ月後──という流れで物語は紡がれていく。そして、クライマックスで5つの掟すべての意味が明らかになったとき、時間を巻き戻して物語を再びなぞることで、家族が互いを思いやる愛、もの凄い愛が流れ込んでくるだろう。そのザワつく愛の形はなかなか強烈で、簡単には忘れることができない。
本作はスペイン映画だ。監督(・脚本)のセルヒオ・G・サンチェスの監督デビュー作なのだが、本当に初監督!? と驚かずにはいられないクオリティー。というのも『マローボーン家の掟』は、スペインの逸材が集結しているといってもいいほど製作陣がスゴい!
サンチェス監督は、もともとは脚本家として活躍している人物で、これまでにJ・A・バヨナ監督作『永遠のこどもたち』『インポッシブル』の脚本を手がけている。バヨナ監督は、いま大注目のスペインのフィルムメーカー。先に挙げた2作はもちろん、長編3作目のダークファンタジー『怪物はささやく』ではゴヤ賞(スペインの映画賞)9部門を独占、最近はハリウッド超大作にしてシリーズ通算5作目となる『ジュラシック・ワールド/炎の王国』の監督に大抜擢された。そんなJ・A・バヨナが『永遠のこどもたち』『インポッシブル』でタッグを組んだ盟友サンチェスの初監督作に、製作総指揮として力を貸したというわけだ。
これは余談だが、バヨナ監督&サンチェス脚本の『永遠のこどもたち』の製作総指揮をつとめているのは、『パンズ・ラビリンス』『シェイプ・オブ・ウォーター』の監督、ギレルモ・デル・トロだ。成功したフィルムメーカーが、次世代のために製作総指揮となり導いていく、何とも美しい構図だ。
この『マローボーン家の掟』は、サスペンス・スリラー、ホラーの要素を練り込みながらも、最終的には愛と救済、感動へと導いていく。それがバヨナとサンチェスのタッグが生み出す作品の魅力であり、特徴であり、そこには2人が共有している情熱があるという。それは、深くて暗い大人たちの世界に子供や若者が飛び込んだときに何が起きるのかという点に惹かれていることだ。
人は深い傷を負ったとき、どうやってその傷を癒せばいいのか。現実があまりに厳しいとき、どうやってそこから逃避したらいいのか。この映画で、サンチェス監督とバヨナが提示するのは、厳しい現実との向き合い方。「僕たちが現実に耐えるためには、別世界を作り出すことが時々必要になることを伝えるために、本作では空想を取り上げているんだ」と語っている。であるからこそ、一見、サスペンス・スリラーやホラーのように映りつつも、観終わった後になんとも温かな感情が残るのだ。
文:新谷里映
【マローボーン家の掟】
2019年4月12日(金)より新宿バルト9 ほか全国ロードショー
配給:キノフィルムズ
宣伝:REGENTS
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公式WEB: | http://www.okite-movie.jp/ |
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