15作目は、中国春秋戦国時代が舞台の『キングダム』。大将軍になる夢を抱く戦災孤児の信が、中華統一を目指す若き王・嬴政(後の秦の始皇帝)と出会い、共に戦う壮大な物語を描く。現在までに単行本53巻が刊行されている人気漫画をどうやって実写化したのか……。そのスケールの大きさ、ドラマチックなストーリーにザワつく!
時は、紀元前245年。戦災孤児で奴隷として生きる幼なじみで親友の信(山﨑賢人)と 漂(吉沢亮)は、共に天下の大将軍になろう! と夢に向かって剣術を磨く日々を過ごしていた。
そんなある日、彼らが暮らす村を通りかかった王都の大臣・昌文君(高嶋政宏)によって、漂だけが王宮へ仕えることになるが、王宮で起きたクーデターに巻き込まれ負傷して戻ってくる。
漂が命をかけて信に託したのは、一枚の地図と一本の剣。その地図に記された場所で信が目にしたのは、漂と瓜二つの青年、秦国の若き王・嬴政だった。戦乱の世を変えるための信と嬴政の旅が始まる──というのがこの映画のあらすじだ。とにかくスケールがでかい!
正直、映画を観るまでは、ハリウッド映画ならともかく、日本映画でどうやってそのスケール感を描くのか想像つかなかったが、感想は──すごい日本映画を観てしまった! というスケール感に対する感動と、その凄いスケール感のなかで描かれるドラマチックな物語に対する感動だった。
まずは、そのスケール感について。日本各地でもロケを行っているが、拠点となったのは上海から300キロほど南下した浙江省寧波市の象山県にある象山影視城。そこには春秋戦国時代の宮殿を再現したオープンセットがあり、20日間に及ぶ中国ロケが行われた。クライマックスの王宮での戦いのシーンは、スタッフだけでも約700人、兵士役のエキストラはのべ1万人!「おおっ」とため息がもれる。
スケールが大きくなるほど、役者にもスケールに見合うだけの演技が求められる。主演の山﨑賢人がこの映画で背負ったものも大きかった。本格的なアクション初挑戦となる山﨑は、撮影の約半年前から肉体改造とアクション特訓に取り組み、信というキャラクターに近づいていった。
筋肉は必要だが戦災孤児なのでマッチョすぎるのはダメ、求められたのはガリガリで筋張った筋肉の細マッチョ。山﨑賢人と言えば、ラブコメ映画のキラキラした主人公のイメージが強かったが、この信という役でガラリとそのイメージは変わるだろう。原作者の原泰久氏からも「信にぴったり、ドハマり役、山﨑さんで本当に良かった」と言われるほど。たしかにハマり役だ。
一方、漂と嬴政を演じる吉沢亮は、剣道の有段者にして『銀魂』や『BLEACH』でアクションは経験済み。今回は、漂としての野生的なアクション、王族として正式な剣術を学んできた嬴政としての綺麗なアクション、異なるアクションを演じ分けている。文句ナシに格好いい! ほかにも、信が憧れる秦の六大将軍・王騎を演じた大沢たかお、山の民を束ねる楊端和を演じた長澤まさみ……もう、全キャラクターが格好良すぎるのだ!
ジャッキー・チェンのアクションチームなど最高峰のスタッフが集結して作り上げられたアクションシーンはもちろん見どころだが、アクションシーンが格好いいだけでなく、美しいだけでなく、ドラマチックに映るのは、物語がドラマチックだから。
なかでも心を動かされるのは、漂の命が途絶えるシーンの信の涙だ。原作者から「漂が死ぬシーンで絶対に観客の心をわし掴みにしないといけない。誰もが泣くような素晴らしいシーンを取ってほしい」と言われていた、まさにそのシーンの山﨑賢人の演技に釘付けになる。頬をつたう涙が訴えかけてくるのは、命の重さ、親友の分まで夢を叶えるんだという決意、同じ夢を見た2人の青年の絆に心がザワつく。
そして、漂がなぜ命を落としたのか真実を知り、信と嬴政が感情をぶつけ合うシーンもまたドラマチックで──。信が、嬴政が、なぜ戦うのかを前半でしっかりと描いているからこそ、後半のアクションシーンは、単なるアクションではなく意味のあるアクションになる。クライマックスの山﨑賢人の“誰よりも高く翔ぶ”姿は、忘れられない名シーンとして刻まれている。
文:新谷里映
【キングダム】
2019年4月19日(金)より全国東宝系にてロードショー