編集部員が気になる職業に挑戦する本連載。今回訪れたのは、ハマる大人が続出しているサウナです。熱風を巻き起こす“熱波師”の仕事に潜んでいたのは、究極の“エンタメ精神”でした。
熱々のサウナ室で体をカッカと温めたら、キンキンの水風呂にドボン! 編集者として日夜デスクに向かい、運動不足に悩む私にとってサウナは癒しのひとつ。ストレス解消にも一役買ってくれるし、まさに日常の中のオアシスなのです。
さて、そんな私の興味を刺激したのが、170以上の職業体験を提供する仕事旅行社のサイトで紹介されていた「熱波師になる旅」。熱波師とは、タオルをグルグル回すなど、入浴客の身も心も刺激するロウリュのパフォーマンスを行う方の別名です。彼らはサウナーたちの一種の憧れ。これは行くっきゃないでしょう!
ということで、日本屈指の熱波師が在籍する「ファンタジーサウナ&スパ おふろの国」を訪れました。
施設内に入ってすぐ目についたのが「熱波甲子園 2018 優勝」と書かれたのぼりと、赤いタオルを頭に巻いた男性のど迫力の顔。
気合いの入ったお店の面構えに圧倒されつつ店内へ入ると、のぼりに写真が印刷されている、熱波師・井上勝正さんが出迎えてくれました。
じつは井上さん、10年前までプロレスラーとして活躍していました。しかし長年酷使してきた体が悲鳴を上げ、惜しまれつつ現役を引退。知人の紹介で「おふろの国」に就職し、サウナ室でタオルを扇いで熱風をお客さんに届けるロウリュを学び、日本屈指の熱波師まで上り詰めたお方なのです。
そもそも、熱波師ってどんな役割をする人なのでしょうか?
「いわゆるロウリュをする人なんですが…、正直、いなくてもいいんです(笑)」と井上さん。開口一番でそう言われると、この企画が成り立たなくなる……と不安を覚えたのですが、そこにはこんな真意がありました。
「サウナって、そもそもそれだけで完成されているんですよ。いろいろな説がありますが、汗とともに体の不純物を流してくれるから、体には確実にいいし、体温を上げることで病気に対する抵抗力も上がる。温泉に入る湯治と同じですね」
しかし、「おふろの国」では、平日は1日1回(20:00)、休日には1日4回も“ハマ熱波”ことロウリュイベントが行われます。そんなイベントを熱波師が行う意義とはなんなのでしょうか?
「やっぱり客商売って、最大の商品は“人”じゃないですか。熱波師は“熱波道”を通じて、お客さんに楽しみを届けるエンターテイナーなんですよ。やってみればわかりますが、メチャクチャツライ。でも、その一生懸命さをお客さんは見て盛り上がるんです」
初体験なので、その過酷さがまだわからないですが…。そして井上さんはこう続けます。
「あとは安全管理です。ロウリュを行う前は、動員数を確認したり、安全面を確認したりします。無理している人はいないか、子どもが熱くなりやすい危険な場所にいないか。熱波師をやることは、お客さんのことをよく見るための、スタッフ育成のツールにもなっています」
さて、講義が済んだら、続いて実践の準備です。当たり前ですが、サウナは大量の汗をかくので、水分補給はマスト。井上さんは以前テレビの企画で、1回のロウリュ(約10分間)で700mLの汗をかいたのだとか…。恐ろしい!
そしてTシャツ、短パンに着替えたら、扇ぎ方の練習に移ります。じつはサウナ室のつくりで扇ぎ方が変える必要があるのだとか。「おふろの国」のサウナ室は熱波師と入浴客の距離が近いため、扇ぎ方をコンパクトにする工夫をしています。
井上さんのお手本を真似てやってみるのですが、コレがなかなか難しい。僧帽筋がかなりきついうえ、風が微弱…。
ひと通り教えてもらったら、熱波師デビューの時間までしばし待つことに。井上さんから「なんかワクワクしてくるでしょ?」とハッパをかけられ、緊張感が高まっていきます。
自主練やさらなる水分を摂ったら、いよいよ“ハマ熱波”の時間です。いつもは裏方の私ですが、果たして入浴客の皆さんを満足させられるエンタメを提供できるでしょうか…。
いざ、浴場へ! 先輩の熱波師の方に続き、裸の男たちを掻き分けてサウナ室へ向かいます。
水風呂の冷水で手を濡らし、火傷対策をしたら、高温サウナへ入室。お客さんの待つステージに上がる気分です。ドキドキが止まりません。
まずは井上さんによる口上からスタート。
「今日は取材が入っています! さあ、ハルマリだ! この不健康そうな男がどこまでできるか、見てやってくれ!」
ハードルの上げ方に驚きながらも、井上さんなりの激励に否応なくテンションが上がります。そして、もちろんサウナ室内での安全確認も忘れない井上さん。子どもたちに声をかけ、熱波がひどくなりやすい場所から遠ざけます。
ひと段落ついたところでいよいよ、ロウリュがスタート。このとき、ようやくお店入り口にあった言葉の意味がわかりました。
「さあ行くぞ! ネーネーネー!」(井上さん)
「パーパーパー!」(お客さん&スタッフ+筆者)
「ネーネーネー!!」(井上さん)
「パーパーパー!!」(お客さん&スタッフ+筆者)
「ネーネーネー!!!」(井上さん)
「パーパーパー!!!」(お客さん&スタッフ+筆者)
「行けーーー!!」(井上さん)
「ジュワ〜〜〜!!」(アロマ水を灼けた石に注いだ音)
そう、あの言葉は熱波スタートの掛け声だったんです。そして、百八(煩悩の数)を数える“ハマ熱波“は始まりました。
「……百五、百六、百七、百八!!」
大きな拍手・歓声とともに“ハマ熱波”は終了。時間にすると2分もかかっていないでしょうが、上の写真を見てもらってわかるようにヘトヘトです。高温サウナで息がしにくいうえ、運動量がバカになりません。汗がドッと溢れ出ます。
サウナ室を満足気に退出するお客さんたちに感謝を伝えると、やりきった満足感でいっぱいになりました。
ちなみに私は、1回でほぼすべてを出し切り、サウナ室から退出したのですが、井上さんと熱波師の先輩方は2ターン目に突入。
このイベントを日に4回(土日・祝日)も行うとは……。プロの熱波師の過酷さを身をもって体験したのでした。
熱波師を体験するため浴場にいたのは、時間にしてたった15分ほど。さらにサウナ室にいたのは、さらに短く5分少々といったところでした。
しかし、100度を超える過酷な状況の中で入浴客に熱波を送り続け、場を盛り上げる姿には、まさに体当たりなエンタテインメントの魂が込められていました。それは井上さんの前職であるプロレスラーのパフォーマンスと通ずるところがあったように思います。
私が生業とする編集者は、あくまで裏方家業、直接お客さん(読者)と触れることはそう多くありません。そういう意味で、お客さんの前で、生のパフォーマンスを行うことは、恐ろしいような楽しいような新鮮な驚きがありました。
本気のエンタテインメントを届けたいなら、これくらいガチンコの熱量をぶつけなければ……。リアルイベントの過酷さと面白さを感じられる体験と相成りました。
ちなみに…、体験後には入浴客として改めてサウナを堪能。さらにサウナにハマったのは、言うまでもありません。
取材・文:芋川 健(Harumari TOKYO 編集部)
【取材協力】
ファンタジーサウナ&スパ おふろの国
住所:神奈川県横浜市鶴見区下末吉2丁目25−23
http://ofuronokuni.co.jp/
エリア: | 注目商品・サービス |
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電話番号: | 03-6452-9414 |
公式WEB: | https://www.shigoto-ryokou.com/ |
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