22作目は、岡田准一主演、南勝久による人気コミックの映画化の『ザ・ファブル』。見どころは何と言っても“日本一動ける俳優”である岡田が魅せるアクション! そして殺し屋なのに!? というコミカルさ! こんな岡田准一見たことない! とザワつくアクション・エンターテイメントだ。
まず、“ファブル”とは──
・都市伝説と呼ばれる謎の殺し屋
・仕事(殺し)は1人につき6秒以内
・もの凄く猫舌
・家では裸で生活
・殺し屋の正装はオールブラック
・異常な動体視力と身体能力を持つ
そんな凄腕の殺し屋ファブル(岡田准一)が裏社会でどんなふうに生きているのか? をメインで描くのではなく、仕事をしすぎた(殺しすぎた)ので──「1年間、一般人として普通に暮らせ。休業中に誰かを殺したら、俺がお前を殺す」と、ボス(佐藤浩市)から休業命令を出され、アキラという偽名を使って、相棒のヨウコ(木村文乃)と兄妹のフリをして、生まれて初めて一般社会で暮らす──殺し屋が一般人になろうとする物語。でも、何やかんやでトラブルに巻き込まれてしまい……というのが、あらすじだ。
面白いのは、本当はめちゃくちゃ強いのに弱いフリをする、痛いフリをする、そしてフツーの人の生活を知るためにボスからもらったインコを大切に育てたり、デザイン事務所で時給800円のバイトをしたり……殺し屋のクールなイメージとそれを封じ込められることで生まれるとギャップと笑いが絶妙なのだ。
ギャップから生まれる面白さの要因のひとつは、岡田准一の身体能力のスゴさにもある。カリ、ジークンドー、USA修斗などの格闘技を修得しているというのは、『SP』や『図書館戦争』の公開時に話題になった。また、時代劇における殺陣の腕も一目置かれ、『蜩ノ記』『関ヶ原』『散り椿』、来年は『燃えよ剣』の公開が控えるなど、とにかくアクションに秀でた俳優と言えば岡田准一が真っ先に挙がるのではないだろうか。しかも今回は、世界的アクション監督によるアクションを目にする。
『ボーン・アイデンティティー』や『96時間』(2・3作目)、『LUCY/ルーシー』などに携わってきたフランス人のアクション監督アラン・フィグラルズが、ファイトコレオグラファーとして参加。ハリウッドの名だたる俳優と仕事をしてきたアランが「ここまでスピーディーに動ける俳優は見たことがない」と絶賛するように、とにかくアクションがキレッキレで、リアリティがあって、岡田准一ってスゲー! 本当にスゲー! と、ポカンと見とれてしまうほど、本当に凄い!
それほど強い殺し屋なのに、殺し以外ではなかなかチャーミングであることもファブルというキャラクターの魅力。たとえば、バイト先のデザイン事務所の社長(佐藤二朗)との会話はコントのようだし、脱力系の可愛いイラストを描いちゃうし……なかでもファブルはすべり芸人ジャッカル富岡(宮川大輔)の大ファンで、彼のネタを披露するシーンがある。役とはいえ、こんな岡田准一が見られるなんて! そこまでやっちゃうんだ! 振り切れたコミカルな芝居に驚かされる。
というのも、『木更津キャッツアイ』の“ぶっさん”役でコミカルなキャラクターは演じているものの、近年はアクション映画から時代劇まで、日本映画界に欠かせない俳優として活躍。そのイメージは、硬派、愚直、プロフェッショナルといったものであるからこそ、ファブルのようなキャラクターはとても新鮮。しかも漫画原作ものへの出演は今回が初、それも新鮮だ。
そんな本物のアクションと思わず吹き出してしまう笑いは、なんだかジャッキー・チェンの映画にハマっていたときの楽しさに似ているというか──強いのに面白くて、面白いのに格好良くて、格好いいのにどこか抜けている。「ああ、面白かったー!」と言いながら映画館を後にするような、スカッとするアクション・エンターテイメントなのだ。時代劇は別として、正直アクション映画は洋画の方が面白いに決まってる! と思っていたけれど、この『ザ・ファブル』を見て、日本のアクション映画も捨てたもんじゃないと嬉しくなった。
文・新谷里映
【ザ・ファブル】
2019年6月21日(金)全国公開