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今夜、ザワつく映画たち

話題作には、必ず‘ザワつく’タネがある。美しい映像、ストーリーに隠されたギミック、キャストの壮絶な役作り秘話、語らずにはいられない強烈な何か…。そんな、私たちの心を、そして世間をザワつかせる作品を紹介していく。

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フィクションなのにあまりにリアル。「報道の自由のない日本」その現実にザワつく!

新聞記者

24作目は、シム・ウンギョンと松坂桃李がダブル主演の社会派エンターテイメント『新聞記者』。東京新聞・望月衣塑子の著書「新聞記者」を原案としたフィクションだが、誰もが思い浮かべるのは“あの事件”──。これは描いていい題材なのか? この映画を観てザワつかない人はきっといない!

© 2019 『新聞記者』フィルムパートナーズ

フィクションのなかに散りばめられたリアルをどう受け止める?

海外の映画には“衝撃の実話”を題材にした社会派作品がとても多い。近年でいうと『スポットライト 世紀のスクープ』『ペンタゴン・ペーパーズ』『記者たち 衝撃と畏怖の真実』『バイス』など。そういう作品を観て思うのは、事件の背景にそんなことがあったのか! という、知らなかったことを知る驚きと、よく映画にできたなぁという作り手の勇気に対する驚き。と同時に、日本ではこういう映画を作ることはきっと難しいんだろうなぁという、残念な気持ちを抱くのも事実だ。

© 2019 『新聞記者』フィルムパートナーズ

この『新聞記者』は、現役の新聞記者が書いた著書を原案にしたフィクション。観る前は、権力とメディアの裏側を描くと言いながらも肝心なところには触れないエンターテイメントなのではないか……と思っていた。ところが、映画を見始めてすぐにこれはもの凄い映画だと気づき、観た後にこの映画は伝えなければならない、伝えるべき映画だと思った。フィクションという物語のなかに、あまりにもリアルな事実が散りばめられているからだ。

© 2019 『新聞記者』フィルムパートナーズ

想像以上に報道の自由のない日本でのチャレンジにザワつく!

「国境なき記者団(Reporters Without Borders)」が毎年発表している「世界の報道の自由度ランキング」(※1)で、日本は何位か知っているだろうか。180ヶ国・地域のなかで、日本は2016年と2017年は72位、2018年と2019年は67位、G7のなかでは最下位だ。実際、何らかの圧力がかかっているから報道されないのでは……と思うこともある。報道の自由を問われているからこそ『新聞記者』のような映画をよく作れたな……と驚いた。

© 2019 『新聞記者』フィルムパートナーズ

物語はこうだ。東都新聞社会部の若手記者・吉岡エリカ(シム・ウンギョン)のもとに、医療系大学の新設に関する極秘文書がファックスで届く。誰が何のために送ってきたのか? 吉岡は許認可先の内閣府を調べある官僚に辿り着くが、話を聞けないままその人は飛び降り自殺を遂げる。そして、その官僚の通夜で杉原拓海(松坂桃李)と出会い、彼の協力で真実に近づいていく。

© 2019 『新聞記者』フィルムパートナーズ

そう、フィクションと銘打ってはいるけれど、この映画のなかで描かれているのは、私たちが知っているあの事件──医療系大学の新設はモリカケ(森友・加計)問題を想起させるし、ほかにもジャーナリストのレイプ事件、国家による情報操作、官僚の自殺……この数年の間に日本で起きた現在進行形の問題とどうやっても重なって見えるのだ。

「誰よりも自分を信じ疑え」ヒロインを突き動かす言葉の先にあるもの

伝えたいことをどんな方法で伝えるのか──ドキュメンタリーかフィクションか、両方組み合わせる方法だってある。この『新聞記者』の場合は、フィクションという表現の自由の武器を使って、リアルを彷彿させる仕組みを選んだ。

© 2019 『新聞記者』フィルムパートナーズ

ふと思い出したのは、ダニス・タノヴィッチ監督の『汚れたミルク/あるセールスマンの告発』(※2)という映画だ。ある大手グローバル企業が、パキスタンで粉ミルクを強引に販売したことによって、不衛生な水で溶かした粉ミルクを飲んだ乳幼児が死亡する事件が発生。その事実を知ったセールスマンが、企業を相手に訴えるという物語。この映画でも企業名は変更して描いているが、描かれているのは事実であり、事実であることを強調するために、タノヴィッチ監督は映画のなかでその事件を追いかける映像作家を登場させている。『新聞記者』と通じるものがある。

とはいえ、『新聞記者』はフィクションであり、描かれていることをすべて事実として受け取るのは危険でもある。実際、内閣情報調査室(内調)という機関はどんな仕事をしているのか明らかになっていない。映画のなかでも内調のシーンだけSF的な空間、無機質な空間として映し出しているのも、リアルと切り離すための手法だと伝わってくる。

© 2019 『新聞記者』フィルムパートナーズ

日々流れてくるニュースや情報は本当に真実なのか……。「誰よりも自分を信じ疑え」これは映画のなかでヒロインが迷ったときに思い出す言葉、とても印象に残っている言葉だ。思うのは、これは真実なのか? 少しの疑問を持つことによって、考えることによって、見えてくるものがあるはずだということ。この映画を観て、知らないことの怖さ、考えないことの怖さを痛感した。

最初から最後まで衝撃の連続だが、ラストシーンは「この結末をあなたはどう捉えるのか──」と、もの凄く難しい問題を投げかけられるシーンでもあって、杉原(松坂桃李)と吉岡(シム・ウンギョン)のあの表情が忘れられない。強烈なザワつきを突き付けてくる映画だ。

文・新谷里映

※1「国境なき記者団(Reporters Without Borders)」https://rsf.org/fr/classement
※2『汚れたミルク/あるセールスマンの告発』http://www.bitters.co.jp/tanovic/milk.html

【新聞記者】
2019年6月28日より新宿ピカデリー、イオンシネマ ほか全国ロードショー