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東京珈琲探訪 with Vaughan

世界中のコーヒーショップを1,000軒以上巡るVaughan。コーヒー界ではカリスマ的存在の彼は、2009年にコーヒーの街メルボルンから東京へやってきた。そんな彼の「TOKYOフェイバリットカフェ」は、僕らの予想を超える意外な場所だった。

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そこは白い、天国のような場所。世田谷代田『Ki』

Ki(キ) 珈琲とお菓子「き」

世田谷代田にある真っ白な空間。Vaughanはそこを「天国のようなカフェ」と言う。まさに“天使”が営んでいるかのような小さなコーヒーショップを、早速のぞいてみよう。

-世田谷代田の駅から徒歩1分。下北沢からだと10分以上はかかるであろう場所。第一回の「ロン」に引き続き、こちらも用事がなければ滅多に行くことのない街かと思うのですが、このカフェとはどうやって出会ったんですか?

「以前、僕の奥さんが隣の駅の梅ヶ丘の建築事務所で働いていたんだよ。それで、彼女に『なんか面白い場所があるよ、多分カフェだと思う……よくわからないけど』と教えてもらったのが始まり。もうちょっとヒントないの?と聞いたら“白い”って。それが情報の全てだった(笑)
それを聞いたら気になっちゃって! 翌朝早起きして行ったんだけど、残念ながらシャッターが閉まっていて……。店内をのぞいてみると、確かに白くて、そしてすごく美しいミニマルデザインだったんだ。2,3日後にもう一回訪れたらその時は開いていたんだ。それからは常連客のように通っているね!」

-すごく特徴的なインテリアのカフェなんですが、ちょっと説明してもらってもいいですか?

「『Ki=き』は“森”のような小さなコーヒーショップだよ。全部真っ白な、森なんだ。テーブルの脚だけが黒いスチールで出来ている。それがまるで木の枝が伸びているように見えるよね。もちろん実際にハンガーのように使えるから、季節によって帽子をかけたり、マフラーをかけたり。世界中のインテリアやデザインの雑誌に何回も取り上げられているんだよ」

-ミニマルなデザインのカフェって、ともすればおしゃれすぎてリラックスできなかったりすることもあると思うんですが、その辺り、『Ki』はどうでしょう?

「そうそう、確かにそう感じることあるよね!でも『Ki』は お店に入るとき靴を脱ぐんだ。森の中の一軒家に来たかのように落ち着くことができるよ。まるで招待されたかのように暖かい気持ちになるんだ」

-確かに。オーストラリア出身のVaughanにとっては、カフェで靴を脱ぐなんて衝撃ですよね(笑)。くつろぎながら楽しむ、お気に入りのメニューはありますか?

「ハンドドリップのコーヒーが好き。神奈川県の辻堂にある『27 Coffee Roasters』っていう、僕が尊敬する日本のロースターのひとつが焙煎した豆を使っているんだ。オーナーの祐子さんは実は『Ki』を開店する前、そこで働いていたんだよ。コーヒー業界で働く人たちが昔どこで働いていたとか、店を移っても繋がり続けているとかそう言う話を聞くのが僕はすごく好きだね。オーストラリアではあまりそう言う話は聞かないから」

-くつろぎながら美味しいコーヒーを堪能して、お喋りしているんですね。いつもそんな感じで過ごしていますか?

「ここは本当に時間がゆっくり流れるんだ。祐子さんとお喋りしたり、他のお客さんと喋ったり、あとは本読んだりするかな。あ、そうだ、同じくらい楽しむものがあった、『日記帳』だね。お客さんが自由に書き込んだりする日記帳。書いてある言葉を見て、色々なことに思いを巡らせているよ。いいアイデアや考え方を生むのにとてもいい時間なんだ」

「そういえば、僕のオーストラリアの家族をここに連れてきた時、母も書いていたよ。いつ頃かな……。祐子さん、わかる?
(祐子さん、何冊もある過去の日記帳から記憶だけを頼りにすぐそのページを見つける。そのスピードに取材チーム一同ビックリ。物凄い記憶力だ。)
凄いね、お母さん、キスマーク残しているよ……。よっぽどここが気に入ったんだろうな(笑)」

-祐子さん、すごく細かいことまで鮮明に覚えていて、素晴らしいですね!『Ki』の素晴らしいところはまさに彼女の存在なんでしょうか?

「まさにその通り!ミニマルなデザインのこのスペースを見るだけでも訪れる価値はあると思うけど、たくさんの人たちがまたこのお店に来るのは、やっぱりオーナーの祐子さんが理由なんだよね。地球上での生活に森がとても重要なように、僕が人生について考える時祐子さんはとても重要なことを教えてくれた。彼女はすごく奥ゆかしい人だから、多くは語らないけど、言動ひとつひとつにその精神を体現している。現在の東京のコーヒーシーンにとって、とても素晴らしいやり方をしていると感じているよ」

-多くを語らないのに言動で伝わってくるということでしょうか?

「そうそう、喋りたい人とはお喋りするけど、もし静かにコーヒーを楽しみたい人だったらすぐにそれを察してくれるんだ。彼女の笑顔はとってもあったかくて、純粋で本当に“天使”みたいなんだ! 正直に言うと、本当に天使なんじゃないかなってよく思うよ。 言葉にすると本当に難しいんだけど……。お店に来て、実際に彼女に会ってみたら僕の言っていることがよくわかると思うよ」

ひとりひとりのお客さんに、丁寧に向き合っているんですね。東京のコーヒーシーンにとって素晴らしいってどういうことでしょうか?

「忘れられない出来事があるんだけど。何年か前に、小包を受け取ったんだ。開封する前に差し出し人が『Ki』になっていたから、コーヒー豆を送ってくれたのかなと思ったんだよね。コーヒー豆はコーヒー豆だったんだけど、なんと中に入っていたのは1週間くらい前に『Ki』の隣に開店したばかりのコーヒーショップの豆だったんだ! 祐子さんは綺麗な手書きの手紙も入れてくれていて、「ご近所に新しいカフェができたから行ってみて、すごく美味しいし素敵な人たちだったよ!」ってね。言うまでもなく、コーヒーショップのオーナーが他のお店をおすすめするなんてまずない。しかも歩いてすぐの距離のお店なんて紹介したくないよね。でも祐子さんは違うんだ。 祐子さんのことを考えるときによく思うのは、“ライバルなんていなくて、みんなコミュニティの一員なんだ”ってことだな」

-Vaughanは「Tokyo Coffee Festival」のプロデューサーでもあるわけですが、『Ki』は昨年のTokyo Coffee Festivalに招待されていましたね。『Ki』の出店を決めたのはどんな経緯なんでしょうか?

「僕にとって招致を決めるのは簡単なことだった。でも祐子さんから出店のOKをもらうのは本当に大変だったよ!彼女にとってはそんな簡単な話じゃなかったんだ。確か5回は説得しに来たと思うよ。他のどんなカフェより5回も多くかかった(笑)。やっと“出る”と返事をもらった時は興奮したよ」

-まるでプロポーズを受けてもらったかのような!(笑)

「そうなんだよ。Tokyo Coffee Festival は2日間で約40,000人の訪れる大きなイベント。 招待されたほとんどのコーヒーショップは新しい人と出会う機会に非常に興奮してくれる。もちろん、経済的利益は言うまでもないし、コーヒーラバーが集まる場所だから、お店の宣伝をする絶好の機会だからね。
だけど祐子さんにとっては、稼ぐことやたくさんの人に宣伝することより大事なことがあるようだね。彼女は“自分自身の時間の流れ”が大切で、ゆっくり丁寧に、そしてこの場所でお客さんと向き合うこと。これが一番大切だから。
この彼女の姿勢は、僕に大きな影響を与えたよ。やっぱり祐子さんは素晴らしいし、彼女の作る時間や空間、『Ki』は本当に素晴らしい場所なんだ!」

 

Profile
Vaughan(ヴォーン)

PHOTO:Satoru Tada

オーストラリア・メルボルン出身。東京に住んで10年以上。日本のコーヒーカルチャーを世界に発信するインフルエンサー。モデル、音楽プロモーター、イベント企画、キュレーターなど100の顔を持つ東京セレブリティ。
www.vaughan.tokyo
instagram @vja

撮影:濱田晋
意訳:稲垣美緒(Harumari TOKYO編集部)
撮影協力:珈琲とお菓子「き」