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今夜、ザワつく映画たち

話題作には、必ず‘ザワつく’タネがある。美しい映像、ストーリーに隠されたギミック、キャストの壮絶な役作り秘話、語らずにはいられない強烈な何か…。そんな、私たちの心を、そして世間をザワつかせる作品を紹介していく。

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話題作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』は何がすごいのか? 来日会見レポート

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド

クエンティン・タランティーノ監督、話題の最新作「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」が満を持し2019年8月30日に公開された。先日のジャパンプレミアでは500人以上のファンが熱狂。今年、もっともザワつく洋画といっても過言ではない作品の魅力をじっくり解説していく。

まずは、来日会見から作品の魅力を紐解いていこう。

「10本撮ったら引退する」と公言してきたクエンティン・タランティーノ監督が、今年のカンヌ国際映画祭で、新作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』が「好評だったら10作目までやらないかもしれない」と引退宣言!? これから先まだどうなるか分からないにしても、その言葉から読み取れるのは、それだけ『ワンス〜』に込めた想いが強いということ、集大成のような作品であることだ。

日本公開直前の8月26日、タランティーノ監督は主演のレオナルド・ディカプリオ、プロデューサーのシャノン・マッキントッシュと共に来日。記者会見で熱い想いを語った。

“ラスト13分、タランティーノがハリウッドの闇に奇跡を起こす”──映画の宣伝文にあるように、この映画は、レオナルド・ディカプリオ演じるリック・ダルトンとブラッド・ピット演じるクリフ・ブース、俳優とスタントマンとして固い絆で結ばれている2人の主人公を中心に、1969年のハリウッドを描いた物語だ。その骨格のひとつとなるのが、1969年8月9日に起きたシャロン・テート殺人事件。実際の事件と架空のキャラクターを組み合わせるアイデアをタランティーノ監督はどのように生み出したのか。

「この映画で描いているハリウッドは、街にとっても業界にとっても、カウンターカルチャーの変化が見られた時代だ。シャロン・テート事件に至るまでの時間軸にすることで、当時の歴史を掘り下げられるのではないかって考えた。13〜14歳の時に、E.L.ドクトロウが書いた『ラグタイム』という本を読んでいてね。その本はちょっと変わっていて……その時代の有名人物とフィクションのキャラクターを組み合わせて描いていた。(そこからヒントを得て)当時ロサンゼルスに住んでいた人々とフィクションのキャラクターを組み合わせたら面白いと思ったんだ」

そのフィクションのキャラクターがリックとクリフとなり、リックの家の隣にロマン・ポランスキー監督とその妻シャロン・テートが住んでいたら? という架空の設定になっている。主人公を演じるレオナルド・ディカプリオとブラッド・ピットの初共演については「世紀のクーデター」と表現する。たしかにこの2大俳優の共演は待ち望まれたものだった。

「彼らを起用した理由は、それぞれキャラクターにぴったりだったからだ。よく、なぜこの2人だったのかと聞かれるけれど、僕が彼らを選んだのではなく、彼らが僕を選んでくれたと思っている。さまざまなオファーがあるなかで、僕の企画を選んでくれたのはラッキーだったよ。この2人をキャスティングできたことは、世紀のクーデターだね。2人が演じるのは、1人は俳優でもう1人はそのスタントダブルだ。どんなにキャラクター的に内面が違っていたとしても、外見な部分でどこか近しいものがないとスタントダブルは成立しない。それを2人は見事に演じてくれた」

リックを演じたディカプリオは、『ジャンゴ 繋がれざる者』に続くタランティーノ作品となる。監督が生み出したリック・ダルトンという俳優をどう捉え、命を吹き込んだのか。

「リック・ダルトンの魂の部分をどうやって作り上げていこうかと監督と話し合った。数日間の物語のなかでリックは私的にも俳優という職業的にも変化を見せるからね。1950年代のTVでキャリアをスタートさせて西部劇のスターになるけれど、時代は変わり、好かれないアンチヒーローを演じなくてはならなくなった。彼にとっては考えられない状況なんだ。リックもクリフも業界に属しているけれど、ド真ん中にいるわけではなくて、少し落ちぶれかけていて、そんななかで一心同体の2人がどうやって変わっていくのかを描いている。役づくりで参考になったのは、監督からキャラクターのバックヤードを聞かせてもらったことだった」

タランティーノ監督が用意したキャラクターのバックヤードには、シネフィルと言われる監督の膨大な知識と映画愛が散りばめられている。リック・ダルトンはどのように作られたのか──。

「1950年代にテレビが登場して、1950〜60年代の過渡期は、映画・舞台・ラジオからテレビへ、新しいスターたちがテレビを通して誕生したという時代背景がある。でも、その新しいスターたちがどうなるのかは見えていない時期だった。もちろん、テレビから映画へ活躍の場を広げることに成功した俳優もいる。スティーブ・マックイーン、クリント・イーストウッド、ジェームズ・ガーナーの3人だ。しかしながら、彼らのようにうまくキャリアを移行できなかった人たちもたくさんいて──そういった色々な人たちの要素を組み合わせてリックを作った。たとえば、TVシリーズ『ルート66』のジョージ・マハリス、『サンセット77』のエド・バーンズ、『ブロンコ』のタイ・ハーディンなどの要素も入っているよ」

タランティーノ監督からの膨大な資料を参考にディカプリオはリックを演じた。役づくりのリサーチは「まるで未知の世界に入り込んだような感覚だった」とふり返る。

「みんなも知っていると思うけど、クエンティン・タランティーノという人は相当な映画マニアで、ものすごい知識の宝庫なんだ。今回もいろいろなことを教わった。リックを演じるためのリサーチは(過去のハリウッドを知る)旅のようなもので、リックというキャラクターを通して、僕らが愛した作品に携わってきた俳優たち、忘れ去れてしまっていた俳優たちのことを知ることができた。そういう意味でも、この映画はハリウッドという場所を祝福したお祭りのような映画だと言えるね。このリサーチは、本当に素晴らしい経験になった」

ディカプリオの「ハリウッドという場所を祝福したお祭りのような映画」という言葉にもあるように、タランティーノ監督は愛のあるこだわりで1969年のハリウッドを再現した。

「40年という時間を逆に回して、CGを一切使わず、スタジオで撮影もせず、バックロットのような場所でセットを組むのでもなく、いま現在のロサンゼルの街を美術や衣裳、さまざまな映画のトリックを使ってあの時代を再現しているんだ。それはとても楽しい作業だった」

撮影をしながらハリウッドの街について俳優たちと語り合ったそう。『ワンス〜』を撮り終えたいま、タランティーノ監督にとってハリウッドとはどんな存在なのか。

「“ハリウッド”には2つの意味があって──1つはこの映画業界、もう1つはハリウッドという街そのものだ。人々が暮らす街でもあり、映画業界としては成功も失敗もすべてが隣り合わせにある場所で、どんどん変革していく街でもある。そこで30年近く仕事をしてきて思うのは、ハリウッドという高校に通っているような、そんな感覚でもあるということだね」

そして、『デス・プルーフ in グラインドハウス』『ジャンゴ 繋がれざる者』『ヘイトフル・エイト』に続いてタランティーノ作品のプロデューサーをつとめるシャノン・マッキントッシュは、『ワンス〜』の撮影現場を「魔法のようだ」と、その魅力を伝える。

「クエンティンの撮影は魔法のようなの。スタッフのなかには1作目『レザボア・ドッグス』からずっと一緒に働いているクルーもいて、みんなタランティーノ作品の現場が楽しくて、戻ってくるのね。スタッフは常に刺激を受けていたわ。撮影の合間にはクエンティンの歴史の授業が始まって、どんな映画を見たほうがいいとか色々なことを学べるのよ。一度仕事をしたことのあるスタッフの多くは、クエンティンが新作の脚本を書き出すと、いつ頃出来上がるの? いつ頃撮影に入るの?って私に連絡をしてくる。他の作品を断ってでもクエンティンの映画に参加したいのよ」

そんなクエンティン・タランティーノが、ハリウッドの闇に奇跡を起こす──どんな奇跡であるのかは、映画を見てのお楽しみだが、最後にタランティーノ監督は“奇跡”についてこんなメッセージを残した。

「9本も映画を作ることができて、こうやって日本に来ると僕が誰なのかを知ってもらっている、そんなふうに映画のキャリアを持てていることが奇跡だと思う。1986年の頃、ビデオストアで働きながら脚本を書いていた当時の僕からみたら、この現状は本当に奇跡だし、仕事だから映画を作っているのではなく、ひとりのアーティストとして映画を作ることができる、とても幸運だよ。それを絶対に忘れないようにしたい」

ディカプリオもタランティーノ監督の言葉に大きく頷き、俳優の立場としての奇跡を語る。

「僕もこの業界にいるから、俳優を続けることがどれだけ大変かは知っている。俳優になりたいという夢をもって世界中からハリウッドにやって来るけれど、みんながみんな夢を叶えられるわけじゃない、それが現状だ。僕はラッキーなことにロサンゼルスで生まれ育ったから、学校が終わるとオーディションを受けに行くことができた。いま俳優として仕事があること、しかも選択肢があること、それは俳優として奇跡だと思う。本当に日々、感謝している」

次回は、作品の楽しみ方を詳しく紹介。

取材・文/新谷里映

【連載一覧】
第一回:『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』は何がすごいのか? 来日会見レポート
第二回:タランティーノ最新作にてレオとブラピの初共演。話題作を100%楽しむ見所を紹介
第三回:予習&復習すると『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』はもっと面白くなる!