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新しい読書。

そもそも本を読むことは、中身を楽しむだけじゃなく、読書の時間そのものを楽しむこと。自宅で、おでかけ先で、新しい本と出会い、至福の読書タイムを提供してくれる最新読書事情とは?

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日常からちょっと“おいとま”できるカフェ付き書店「本屋イトマイ」で過ごすひとり時間

本屋イトマイ

思い切って残業は明日に回す。週末の友人との楽しい時間を、少しだけ早く切り上げる。そうやって敢えて“おいとま”して“つくった時間”を、ここで使いたい。カフェ付きの書店「本屋イトマイ」は贅沢なひとり時間を演出するのに最高の場所だ。

より多くの人が、“本”と過ごす時間をつくってほしい

東武東上線・ときわ台駅からわずか1分の場所にある「本屋イトマイ」。そう言葉にすると、まさに“駅前の本屋”なのだが、イトマイは昔ながらの町の書店とは少々様相が異なる。本を探して買うためだけの店ではなく、読書に没頭できる静かな空間と充実したメニューを備えた喫茶室がある、本と過ごすための本屋だ。

とはいえ、根っからの本好きでないと足を踏み入れづらいような超マニアックな店というわけではない。売り場で取り扱うのはすべて新刊書。小説はもちろん、経済本に料理本、メディアで話題の本・最新の情報誌も並んでおり、喫茶スペースは一般的なカフェとしての利用も可能だ。

店を営むのは元グラフィックデザイナーの鈴木さん。イトマイのオープンは2019年3月と、まだ比較的新しい。本屋の経営が厳しいといわれる昨今、なぜ転身を?

「特に社会人になってから本をたくさん読むようになったのですが、本格的に書店経営を決意したきっかけは、ブック・コーディネーター内沼晋太郎氏の存在を知ったこと。内沼さんが手がけたビールが飲める本屋『B&B』(下北沢)が好きになり、彼が主催している『本屋講座』を受けたんです。いろいろな本屋の在り方を知って、自分もつくりたいとすごく刺激を受けました」(鈴木さん)

店に並ぶ本は、一冊一冊すべて、鈴木さん自身が選んだもの。その数なんと3,000冊以上! あらゆるジャンルの本を揃えるのは、本が買われなくなっている現代に、より多くの人に本に触れてもらいたいからだという。それらが、木の本棚や金属製のラックなどさまざまな“ハコ”に並べられた姿は、書店というより、ひとりの本好きの人の巨大な書庫のようで、どんな本があるのかと、思わず近寄ってまじまじと眺めては手に取ってしまう。

“わざわざ”時間をつくることの尊さを感じる環境

一方、店の中央にある厨房を挟んで反対側が喫茶スペースだ。買った本はもちろん、自分で持ってきた本を読んでもいいし、自由に読める鈴木さんの蔵書も備える。この日も黙々と本を読む先客が。彼女がハラリとページをめくる音が響くほど静かな空間に、ゆったりとくつろげるひとりがけの席がいくつも用意されている。まさに読書にはうってつけの環境だろう。

「『イトマイ』という店名には、仕事や、友人・恋人とのプライベートな時間から“おいとま”して、自分の時間を過ごしに来る場所という意味を込めています。ネットや会社の資料を見るいつもの過ごし方とは違う、特別な時間にしてほしいですね」と、鈴木さん。ひとり席というのは不思議なもので、まるで自分専用に準備された特等席のよう。ひとたび座れば、そこは誰にも邪魔されない自分だけの世界になる。心ゆくまで読書にふけろうではないか。

3種類のチーズを使った「ハニーチーズトースト」と、紫色が幻想的な「クリームソーダ」。

そんな充実したひとりの読書時間を演出する、喫茶としてのクオリティも申し分ない。小腹がすいたときには、東武練馬の「まさもと」特製の全粒粉パンを使ったトーストや、池袋「COFFEE VALLEY」の豆で淹れるコーヒーが絶好のお供だ。店主特製のカレーでしっかり腹ごしらえしてから、長編小説に挑むのもいいだろう。

「プリン」は昔ながらの固めの食感。“単体”とチーズケーキと盛り合わせた“全部のせ”もある。

ブックカフェやちょっとした席を備えた本屋はいくつかあるが、本屋、喫茶店、食事処のすべての要素を兼ね備え、とことんひとりの読書時間に没頭できる場所はほかにはない。

あまり本が得意じゃない……。そんな人こそ、まずは手ぶらで訪れてみてほしい。「本には、ない分野のものがないんですよ」と鈴木さんが話すように、どんな人にもきっと、自分に興味のあるものに関する本はあるだろうし、それをじっくり探すこともまた、いつもと違うひとり時間の過ごし方かもしれない。鈴木さんにおすすめを仰ぐのもアリだ。

会社を定時ダッシュして19:00ごろ店に着けば、本を探して読んで、ちょっと食事もして、閉店の21:30まで十分読書に浸れるだろう。たまには自分だけの特別な時間を過ごしに、本屋イトマイに行く時間をつくってみてはいかがだろうか。

 

取材・文 : RIN