logo

新しい読書。

そもそも本を読むことは、中身を楽しむだけじゃなく、読書の時間そのものを楽しむこと。自宅で、おでかけ先で、新しい本と出会い、至福の読書タイムを提供してくれる最新読書事情とは?

13

1万人の群衆より10人の“顔が見える”仲間に会いに行く。本の価値を再定義するブックサロン『6次元』

6次元

“村上春樹の聖地”、“コミュニティづくりの先駆者”など、さまざまな異名を持つ「6次元」。現在も金継ぎ教室や読書会といったイベントを開催され、多くのコアファンを集めている。決してメジャーではない、むしろマニアック。だからこそ、「同じ価値観の人が集まる場所がある」ことの幸せを感じさせてくれるのだ。

さまざまなイベントを開催して同好の士をつなげる

荻窪駅から徒歩わずか3分ほどながら、初めてではなかなか辿り着けなそうな「6次元」。目印になってくれるのは小さなランプ型の表札だけ。

それでも、本好きの間では知られた存在である。店主のナカムラクニオさんが村上春樹氏に関する本を執筆しているため、ハルキストの聖地と呼ばれることも。

「以前は”梵天”というジャズバー。その後カフェ”ひなぎく”に。ともにかなりの有名店で、多くの作家、編集者、クリエイターたちが集まる場所でした。その雰囲気を残したまま私が引き継ぎ、2008年に開店しました」と、ナカムラさん。アンティーク感漂う店内に本が雑然と並ぶ様子は、非日常感たっぷりだ。

営業時間はイベント次第の不定期

スタート当初から数年は流行のブックカフェとして営業していたが、今はスタイルを変更。イベントや要請がなければオープンしない。
「ある日、読書会をしたいので貸し切らせて欲しいとのオーダーがありました。人集まるのかなぁ? 私はピンとこないながらも承諾。すると大盛況となり、一気にお店が盛り上がったんです。以降、さまざまなイベントのスペースとして提供するように」。

朗読会や大学の発表会、映画上映会など、文化的イベントを中心に開催しているうち、自然とブックカフェの要素は薄まっていった。
「本屋というカテゴリーでもないかも知れませんね。実際、たくさんの本を扱っていますが、私が好きな美術系ばかり。しかも専門的で高価。正直、ニッチすぎて買い手がいませんよ(笑)」。

イベントに訪れた人が興味深そうに手に取った一冊を、サプライズでプレゼントしてしまうこともしばしばだとか。

世界の本屋を知る店主だからこそのスタイル

「実は本屋でイベントをするって、世界的に見たら珍しくないんです。出版不況はどの国も同じ。アマゾンの台頭で書店も厳しい状況にあります。ですから、本を売るだけではなく、特別な空間や体験も合わせて提供する。プラスαが必要とされているわけです。例えば、ヨーロッパでは本屋×BARの組み合わせが多く、音楽ライブも積極的に開催。個人書店の多いサンフランシスコなんかは朗読、読書会が年中行われていて。それぞれが凝ったオリジナルグッズを作り、この本屋じゃないと買えないアイテム! と名物化させているのも目立ちます」。

先日、「世界の本屋さんめぐり」(産業編集センター)を上梓したナカムラさん。世界40カ国以上を訪問し、たくさんのブックストアや図書館へ立ち寄った経験があるからこそ、新しいスタイルに抵抗なくシフトできたのかも。

なんとなくの1万人が来る場所じゃなくて良い。強く興味を持ってくれる1000人だけで十分。これが「6次元」のスタンス。その代わり、興味関心についてはどこまでも掘れるスペースに。
「一冊をじっくり読み解く読書会は、一回に12時間かかる時も。かつては1〜2時間で終わらせないといけないと思い込んでいましたが、それじゃ全然語り尽くせず。だから、今は定時を設けず、フレキシブルに対応しています」。

ダウンロードでは叶えられない満足感を

読書・朗読会、校正教室といった、本に関わるイベントはもちろん、それ以外の持ち込み企画だって受け付けている。かつては、ひたすら朝までレコードを聴く会や、暗闇の中で過ごす会なども行なった。ナカムラさんは金継ぎ師でもあるので、自身が講師の金継ぎ教室も定期的に開く。

「高級車やブランド品にみんなが憧れる時代は過ぎました。今はマスな価値観がありません。自分が好きな対象への欲求さえ満たせれば良い、ある意味自由な時代です。6次元も自由に使って欲しいですね。ニッチな嗜好でも同好の士は必ずいます。ここで自分の好きなことを発表すれば、きっと仲間が見つかりつながれる。より充実した世界で過ごせるようになると思いますよ!」。

自分の好きなことを、同じ価値観の人々と一緒に没頭する。そんなスポットが欲しいなら「6次元」のツイッター(@6jigen)をチェック。気になる内容があれば気軽に参加申し込みを。もちろん、自分が主催しても良い。

「私は主催の方をお手伝いするだけ。盛り上げていくのはみなさんです」。

好きなことの自己表明には、「本というカタチ」は分かりやすい記号となる。同じ本を携えている人を見かけるだけで、その人とちょっとつながった感じがする。ダウンロードしたものをスマホの画面で見せ合うのとはちょっと違う感覚だ。そう、本をコンテンツ(=内容)と捉えるならば、物理的なカタチは不要だ。でも、6次元に集まる人たちの笑顔や持続的に広がっていくコミュニティをみていると、カタチがある本の意味は単なるコンテンツを超えた愛着や繋がりのシンボルであるという風にも再定義できる。だからこそ、店主のマニアックな偏愛に溢れた書籍に囲まれる6次元という空間は、「好きの自己表明」でつながりたい人のオアシスになっているのかもしれない。