2010年。オーディションで合格したNODA・MAPの公演で舞台デビュー。そこから演劇界はもとより映画、テレビドラマなど各方面のクリエイターからのオファーが絶えない女優・黒木華さん。この10年の評価をどう受けとめてきたのだろう。
ちょうど10年前、NODA・MAPの『表に出ろいっ!』を観たんです。野田秀樹さんと(故)中村勘三郎さんとの3人芝居。
ありがとうございます。
あの年にデビューして、そして10年経ちました。
そうですね。でもあまりそういうことは意識せずにここまで来た感じです。
何か、実感できる変化はありますか?
最初は『楽しい』『面白い』でやっていたんですけど、お芝居のことで言うと、いろいろと計算できるようになったかな。
計算?ですか。
はい。どのように見られているのか、求められているものは何なのかと考えるようになりました。たとえば、今日の撮影で言いますと、写真の写り方、見え方というところで学ぶことがたくさんあって、意識していろんなことを学んで吸収して、それを活かすということが自然とできるようになりました。
「どう、見られるか」っていうのは職業柄避けて通れない意識ですよね。一つひとつの作品に対しての技術的な部分だと思いますが、「どう、期待されているか」というパブリックイメージにも向き合っていく必要もある。
それに関しては、良くも悪くも考えすぎないようになりました(笑)。それをこの10年で学んだかもしれません。少し前までは(周りから)『和』のイメージを持たれていることが気になる時期もありました。
でも特定のイメージを持たれることで、仕事が増えていくこともありますよね。オファーする側にとってのわかりやすさが仕事の機会につながるという。
そうですね。でも、そこ以外も知っていただきたいという想いもあります。
難しい問題ですね。わかりやすさが自分の仕事の幅を狭めてしまう。
役者という職業をさせていただいている以上、「あれはできない、これはやりたくない」という人にはなりたくないと思うようになりました。
そういうジレンマをどのように乗り越えていったんですか?
最近になってようやく、周りが持っているイメージや評価を受け入れられるようになりました。「あぁ、そういう見方があるんだ」と素直に思えるようになりましたし、「じゃあこう裏切ってみよう」と考えられるようになりました。
自己主張の前に、世間の期待やイメージと向き合って、その中でできることを考えていくということですかね。
はい。物事をフラットに見ることで、相手から見た私のイメージだけじゃなく、自分の好きなものやできるものをちゃんと正確にわかってきたというのもあります。
あー、ありますねえ。他人からの評価に対して、自分の本能的な反応があって、それすらも冷静に客観視してみることで、自分の本心というかやりたいこと、好きなことがわかってくる。反発しているだけだと、意外に自分が見えていないことのほうが多い。
さっきお話しした「楽しい」という気持ちもそうで、ワイワイ楽しいということだけではなく、自分の人生にとって必要だと思える楽しさってあると思うんです。私にとってはそれがお芝居で、楽しさを感じられることなので、だから一つひとつのお芝居に集中することが大事だと思うし、そうするとそれ以外のことを考えないようになるんです。
自分の好きなものは何なのかが、改めてわかってきた。役者としての楽しさに集中できるようになったわけですね。10年経って。10年前はどうだったんでしょう? 何かビジョンのようなものはありましたか?
う〜ん、「25歳までに有名になる!」って言ってたんですけど(笑)。でも、どうしたらなれるのか具体的なことを考えていたわけではなく。結果的に、自分が想像していたことよりも良い方向に成長できていて、ありがたいなと思っています。
そして、30歳。これから先のイメージはありますか? たぶん、きちっとした目標を定める必要はないと思うんですが、20歳のときの黒木さんのように、未来に対する妄想のようなものはあるんじゃないかと。
妄想(笑)。海外の作品にも挑戦してみたいという気持ちはありますね。30歳になったら楽しいと思えることをよりたくさんやりたいなって思うようになって、それが今は海外に出ることなんです。
世界をどんどん拡げていくわけですね。
この業界も日本や海外、Netflixやテレビドラマという垣根がだんだんなくなってくると思うので、そういうものにちゃんと順応していきたいです。取り残されちゃいけないなと。
ご自身の10年もそうですけど、エンターテインメントの環境もこの10年で様変わりしましたよね。海外か。すぐお話きそうですけどね。
いえいえ。ただ、これから先の10年も舞台と映画とドラマといろいろやって、お芝居を楽しめていたらいいなと思います。1本くらい海外の作品に出られたらいいですね。10年あったらいけるんじゃないかな……。言っておけば叶うかなって(笑)
仕事には評価がつきものだ。時には、曖昧で不条理な評価によって自分の想いとぜんぜん違う軸で自分の実力を決定づけられてしまうこともある。ただ、20代は、他人の評価がさらなる成長のチャンスでもある。フラットに他人の評価を受けとめながら、その中で自分が本当に「楽しい」と思えることを一つひとつ実現していく。反発したり否定したりではなく、「期待に応えること」と「やりたいこと」のバランスをとることで、30代はもっと自由に「楽しく」なれる。
第3回は、ハマ・オカモトさんのインタビュー。
<黒木華さんの最新情報>
映画『甘いお酒でうがい』
お笑い芸人・シソンヌ のじろうさんによる小説を映画化。松雪泰子さんと黒木華さんの豪華タッグによって、40代独身女性の何気ない日常が描かれる。2020年4月10日(金)、テアトル新宿ほか全国でロードショー。
舞台『桜の園』
現代演劇の礎とも呼ばれるチェーホフが遺した、四大戯曲の最終章。豪華キャストが集結し、2020年4月4日(土)からBunkamuraシアターコクーンで上演される。舞台ならではの“生”の演技に心揺さぶられるはず。
トップス 32,000円、ワンピース 42,000円:(MINEDENIM)/MINED 03-6721-0757
シューズ 97,000円 :(GIUSEPPE ZANOTTI)/GIUSEPPE ZANOTTI JAPAN 03-6894-751
シャツ:スタイリスト私物
スタイリスト:Babymix
ヘアー:shuco(3rd)
メイク:MICHIRU for yin and yang(3rd)
撮影:大矢真梨子
撮影協力:としまえん