【※2020年閉店】 浅草に発酵食づくしのメニューが楽しめるダイニングカフェがある。「Hacco’s Table(ハッコーズテーブル)」は発酵食という馴染みのないジャンルながら、メニューにはポークジンジャーやパスタなど、発酵ビギナーでも気軽に食せる言葉が並ぶ。菌に興味があっても、あと一歩、その世界に進めない人にはおすすめのカフェなのだ。
浅草駅から歩いて7、8分、大通りを一本入った静かな路地裏にある「Hacco’s Table(ハッコーズテーブル)」。大きな窓から光が気持ち良く差し込む店内。その一角には、今まさに発酵中の麹や塩漬けが。
ここでしか手に入らない物販や発酵にまつわる書籍、検査キットなども並んでいて、取材中にはイートインのお客さんのほか、物販コーナー目当てで来る人も。そんな、発酵食の入り口に最適なお店とは、どうして生まれたのか。お店のヒストリーやおすすめのメニューについて、代表の石島誉士さんに聞いた。
和食の料理人だったという父親の背中を見て育ち、自身も料理好きだったという石島さん。子供の頃から泥遊びや川遊びが当たり前で、大病を患うこともなく育ったそう。ところが18歳の時、上京をきっかけに食生活を含めたライフスタイルが一転、アトピーを発症してしまった。
「上京当時からファーストフードばかり食べ、就職したら忙しくて日夜帰れない日が続く。そんな生活を送っていたら20代前半でアトピーを発症しました。しばらくは病院へ通って薬をもらったりしていたのですが、あるとき上司からカスピ海ヨーグルトの種をもらって『(ヨーグルトを食べる生活を)やりなよ』と言われたんです。それが発酵食品と出会うきっかけ。そこから食事も極力自炊にして、ヨーグルトを食べる生活に切り替えました。そして抗生物質などの薬は避け、30代に差し掛かるときにアトピーは治りました。それ以来、今もカスピ海ヨーグルトは作り続けているし、それに加えて味噌や麹など、発酵食の調味料は常備しています」
発酵食品を取り入れ、生活習慣を見直したことでアトピーが改善したという石島さん。発酵食品の持つ力を身をもって体験し、Hacco’s Tableをオープンするに至った。店には、そんな石島さんのこだわりが詰まっている。
「提供しているメニューは、発酵に詳しい先生にアドバイスをしてもらいながら、僕自身が食べたいと思う食事を中心にシェフにリクエストして考えました。生姜焼きやパスタ、タコライスなど、和食に限らずさまざまなメニューを展開しています。」
生姜焼きやパスタ……私たちが普段から食べ慣れているメニューというのもポイントだ。
「どの食事にも、発酵の要素は調味料などで取り入れながら、普段から一般的に食べられているものにすることにもこだわりました。というのも、腸内環境はいきなりガラリと食生活を変えたりすると、ストレスになることがあります。また日本人の食事自体も欧米化しているので、それをいきなりやめて食べ慣れないメニューを食べるとなると、難しいですよね。だから例えばスペインの代表的な料理であるアヒージョには味噌を入れるなど、既存のメニューに、日本の発酵調味料である味噌や麹を入れてアレンジしています」
確かに石島さんの言う通り、発酵食品が身体に良いからと言って、いきなり馴染みのないものを食べるのはなかなかハードルが高い気がする。普段食べている料理で発酵食に挑戦できるのはとてもありがたい。
そんな発酵ビギナーにも嬉しいメニューが、Hacco’s Tableには揃っているのだ。今回は、石島さんのお勧めメニュー「腸が喜ぶ、発酵ランチコース」と「醤油麹のパスタボロネーゼ」を紹介してもらった。
まずはこの豪華なコースから。発酵調味料がふんだんに使われた前菜6種の盛り合わせに、3種の中から選べるメイン料理。そして季節の玄米リゾットにデザート、飲み物がついている大充実の内容だ。魚、豚、鶏の3種の中から、選んだメイン料理はこちら!
誰にでも馴染みのある豚の生姜焼きを糀(こうじ)でアレンジしたメインメニュー。上品な盛り付けとは裏腹に食べ応え抜群!塩糀がつかわれているということで、「優しい味付けなのかな?」と想像していたのだが、お肉は旨みが引き出されており柔らかくてとにかくジューシー! そこに生姜の風味がピリッと効いて、男女問わず満足感が得られる一品に。
「このお肉は塩糀であらかじめ柔らかくしておき、さらに低温調理でじっくり火を通しているのでとても柔らかくびっくりされると思います。味付けは、香味野菜の玉ねぎや生姜を使いつつ、静岡の濃い口醤油と蜂蜜、甘酒を入れています。」
ちなみに「こうじ」は穀物を発酵させて麹菌を生やしたもので、和食の旨味や甘味のキモとなるものだ。Hacco’s Tableでは、米を使ったこうじは「糀」、麦や大豆を使ったものは「麹」と表記している。
「その他、リゾットは鹿児島から取り寄せた本枯節(ほんかれぶし)と昆布のあわせ出汁(季節によって変動あり)を使って、アルデンテ状態で提供していますし、前菜6種の盛り合わせは少しずつ種類豊富に食べられるので女性におすすめですね。デザートも甘酒をベースにしつつ、精製されていないお砂糖を使って作っています。うちで提供しているお料理のいいところを詰め込んだコースです」(石島さん)
続いてはこちら、「醤油麹のパスタボロネーゼ」。お肉たっぷりのボロネーゼを醤油麹でアレンジした一品。お肉好きとパスタ好きの両方に嬉しいメニューを醤油麹でさらにアップデートしている。
ボロネーゼというとひき肉のイメージがあるが、このボロネーゼは一味違う。とにかくお肉の存在感がすごい! ゴロゴロと大きなお肉は食べると口の中で柔らかくほぐれ、パスタともしっかり絡みながら気付くとなくなってしまう。
「これは牛のあばらのお肉を使っているんですけど、本来は廃棄されてしまうような部位になります。しかし、廃棄するにはもったいないくらい上質ですし、醤油麹で柔らかくすることでより美味しくなるので、食材ロスをなくすための取り組みとして使っています。食べていただくとわかる通り、柔らかく煮込みつつも肉感は損なわれていないところがポイントです」(石島さん)
Hacco’s Tableには今回紹介したコースとパスタ以外にも、プレートメニューやサラダ、カレーにキッズプレートなど、年齢性別を問わず多くの人々が楽しめる料理が充実していた。
最後に、石島さんの展望を聞いてみた。
「オープンして2年半になりますが、お客さんからは、ここで発酵食品を食べて、発酵に着目するようになった、新しい発見があったと言われたことがあります。なので次は、僕のアトピーが改善したように、この店をきっかけに生活習慣を見直し、体質が変わりましたという声を聞きたいですね」
石島さん曰く「オープン当初は閑古鳥が鳴いていた(笑)」とのことだが、取材の終盤、お店がオープンする11時半になると、続々とお客さんが来店。あっという間に席が埋まっていた。
紹介してもらったポークジンジャーとボロネーゼも、菌や発酵というキーワードを抜きにしてもまた食べたくなる美味しさ。最近は「菌活」という言葉から、にわかに発酵食品が注目されているが、Hacco’s Tableは、その流行を度外視してもまた来店したくなる美味しさと面白さ、優しさの詰まったカフェダイニングだ。
発酵食品に意識が向きつつある人も、常に取り入れている人も、是非一度足を運んでみてほしい。
オンラインショップ:https://haccos.com/
(店舗は閉店しています)
文:松倉和華子
撮影:田中信也
エリア: | 東京 / 浅草・蔵前 |
---|---|
住所: | 〒111-0033 東京都台東区花川戸2丁目9−10 |
電話番号: | 03-6231-7855 |
営業時間: |
月曜日 11:30〜15:3017:00〜22:00 火曜日 11:30〜15:3017:00〜22:00 水曜日 11:30〜15:3017:00〜22:00 木曜日 11:30〜15:3017:00〜22:00 金曜日 11:30〜15:3017:00〜22:00 土曜日 11:30〜20:00 日曜日 11:30〜20:00 祝日 11:30〜20:00 |
定休日: | 不定休 |
公式WEB: | https://haccos.com/ |
SHARE: