今、新たな移動手段として、電動バイクやキックボードなどの「ワンマイルモビリティ」に注目が集まっている。特にポストコロナの今は、3密が懸念される通勤電車を避けられるということでも話題だ。元々海外では人気があったが、日本では法律の問題で普及が遅れていたこともあり、現在、どんな使われ方をしているのか、日本のワンマイルモビリティの現状と、今登場している注目の製品やサービスを紹介しよう。
日本で「電動キックボード」などの電気で動く小型のモビリティが広まったのはここ最近のことだ。特に2019年には、近距離を移動できるワンマイルモビリティの普及に向けて国が積極的に動き出し、公道を走れるタイプが登場したり、各地でシェアサービスの実証実験が始まったりと、急速に広がりを見せている。
しかし世界から見れば、日本はかなりの後発だ。アメリカやヨーロッパなどの海外の都市部ではすでに生活の中に浸透していて、最寄駅から自宅までなど、ちょっとした距離の移動に使われている。
日本でなかなか普及が進まない理由の一つは規制の強さにある。電動キックボードやスクーターは日本の法律上、原動機付自転車(原チャリ)と見なされるため、前照灯や番号灯、ウインカーが装備され、道路運送車両の保安基準に適合しない限り、公道での運行はできない。
また、公道を走る際は原付の運転免許証の携帯やヘルメットの着用、自賠責保険への加入が必要……と、見た目はコンパクトでも気軽に乗ることができないのだ。
とはいえ、エコで、手軽で、今までにない移動体験ができる電動のワンマイルモビリティは、魅力的な存在。そして何よりポストコロナの今は、「3密」にならない移動手段としても注目したい。ここからは現在登場している電動モビリティを紹介していく。
茨城にある電動モビリティメーカー「KINTONE」が開発した、「公道を走れる」電動キックボード。最高速度は23km/hで、1回の充電で5〜10kmの走行が可能である。
注目はその使い勝手の良さだ。充電は家庭用のコンセントでできてしまうので、外出先でバッテリーが切れても充電がしやすい。そして本体の重量が10kgほどと軽く、ワンタッチで折り畳むことができるので旅先などにも持っていきやすい。日常でも旅行先でも、移動のお供として頼れる存在なのだ。
ただしもちろん原付扱いなので、公道を走る際は免許証やヘルメットの着用、ナンバープレートの装着、保険の加入などが必須となる。
この「Kintone α GO」、一体どんな人に人気があるのだろうか?KINTONEの渡辺孝祐社長に聞いてみると。
「圧倒的に40代の男性ですね、やはりそれなりに高価だからかと思います」
これまでは新しい物や乗り物が好きな、経済力のある世代に人気があったという「Kintone α GO」。しかし新型コロナウイルスの影響で移動手段として注目され、問い合わせが増えているそうだ。
「生活スタイルは今後、変わっていくと思っています。近距離なら、最低限のエネルギーで動かせるモビリティはやはりエコ。これからも電動モビリティに特化して、スマートな移動手段を提供していきます」(KINTONE渡辺社長)
現在「Kintone α GO」は、新型コロナウイルスの影響で予約受付を停止中。状況が落ち着き次第再開予定とのことなので、気になる人は公式ホームページで最新情報を確認してほしい。
こちらは、和歌山のglafit.社が手掛けた電動モビリティ。一見キックボードのようにも見えるが、実は違う。
「キックボードは前後に足を置きますが、立った状態でそのまま乗れるようにステップをつけています。立ち乗りタイプのスクーターなんです」(glafit. 安藤さん)
そう、これは立ったまま乗ることができる「電動スクーター」なのだ。前輪12インチ、後輪10インチの電動バイク用タイヤをセットし、抜群の安定性と操作性を実現。公道はもちろん、段差や石畳みなどのデコボコ道にも対応できるタフさも備えている。ライディングの感覚はバイクのようでもあり、他にはない乗り心地を体験できるという。
そしてバッテリーの取り外しができるのも大きなポイント。キックボードは、バッテリーが直接車体に取り付けられているものも多く、電池が劣化した場合は車体ごと捨てなければならない。しかしLOMは、バッテリーの交換をすれば、末長く愛車に乗れるのだ。
また、スイッチのオンオフなどができる専用スマートフォンアプリも提供しており、バッテリー残量や航続可能距離を確認できる。キーシェア機能で家族や友人とのシェア利用も可能だ。
そんなLOMは、自動車などを“所有しない”世代と言われる20代後半から30代、さらに豊富なカラーリング故か、女性にも人気がある。
「以前はシェアサービスが注目されていましたが、コロナ禍の今は、“所有する”ことにも意識が向いてきた気がしています。もともとは近距離移動やアウトドアでの利用を想定していましたが、通勤など日常で使いたいという声も多い。今は新しいことにチャレンジするマインドが広がっているタイミングだと思うので、ぜひ試していただきたいです」(glafit. 安藤さん)
こちらは現在Makuakeで先行予約受付中。今なら少しお得に購入できるので、欲しい人は早めのチェックをおすすめする。
徐々に、電動モビリティのレンタルやシェアサービスも広がっている。これまでサービスの実証実験は地方都市で行われることが多かったが、ついに東京でも開始されている。
まずは、電動キックボードのレンタルサービス「movicle」。スタートアップのCurious Edgeが東京・港区で始めたサービスで、1時間1000円、最大3時間までレンタルできる。
最大の特徴は、最高速度が42 km / h(※)まで出るキックボードを使用している点だ。実はこれは、原付の法定速度である30km/hまで加速しやすくするため。交通量の多い都会の公道では、スピードが出ないと逆に危険であるので、こうした作りにしたのだという。
また、社長の牧野 勝さんによれば、もともとAIやIoT開発を手がける企業であるmovicleは、ソフト面にはかなり力を入れているとのこと。
「車体にはディスプレーがついていて、スマホと連動させてマップを表示させることも可能です。ハードよりも中身で差別化しています。」
そんなmovicleのサービスは、20代後半から30代の通勤での利用が多い。牧野社長は、もっと若い世代にも乗ってほしいというが、あることがネックになっていると話す。
「都内は、自動車免許を持っていない若い人が多いのも一つの壁ですね。車で移動しなくても済んでしまうので。そして原付の免許も持っている人は少ない。たくさんの人に利用してもらうためにも、小型モビリティのための新しい免許制度ができるなど、何か仕組みが変わると良いとは思っています」(Curious Edge 牧野社長)
仕組みを変えていくにもまずは多くの人に知ってもらうことが重要だと、牧野社長。そのためにも今は、若い人が多く訪れるお台場エリアでのサービス展開に向けて動いているそう。さらにお台場では、レンタルよりも利便性の高いシェアサービスを提供予定だ。
スタートアップらしいスピード感で拡大する、movicle。今は、新型コロナウイルスの影響でサービスを停止しているが、再開したら、利用してみてはいかがだろう。
(※電動キックボードは法律上原動機付自転車であるため、法定速度は30km/h)
そして5月25日にスタートしたばかりのLUUPは、キックボードではなく、小型電動アシスト自転車のシェアリングサービス。既存のサービスとの違いは、電動アシスト自転車が非常に小型である点だ。
モビリティ自体が小型だと、乗降拠点である「ポート」も小さいスペースで足りる。するとポートの設置場所を増やすことができるため、街中の至るところでシェアサービスを利用することができるのだ。電動キックボードに注目が集まる中、なぜ「電動アシスト自転車」だったのか、「LUUP」のサービスを提供するLuup社に聞いた。
「将来的には電動キックボードも含めて様々なマイクロモビリティでサービスを提供したいと考えていて、2019年の 6月から全国30箇所弱で電動キックボードの実証実験を行ってきました」 (Luup担当者)
「ですが、日本では新しい乗り物はすぐには 受け入れられにくい傾向があるとわかったので、日本人が慣れ親しんでいる電動アシスト自転車から始めました。高密度なシェアサービスの価値を体感してもらい、環境が整い次第、電動キックボードなどの新しいマイクロモビリティをLUUPポートに置いていきたいと思っています」 (Luup担当者)
日本ではまだ馴染みの薄い電動モビリティ。Luupはその 普及に向けた第一歩として 、小型電動アシスト自転車からサービスをスタートさせたのだ。
サービスは現在、渋谷区、目黒区、港区、世田谷区、品川区、新宿区の6エリア、65箇所で利用が可能(6月1日時点)で、通勤で利用する人が多いという。
「コロナ禍において移動のあり方が見直されていますが、遠距離移動は電車や自動車、近距離は小型モビリティというように、使い分けができていくのが良いと思っています。そのためにもモビリティをめぐる安全性の証明は常にしていかないといけない。何が安全かの定義もアップデートしていかないといけない。人の命を預かっているので。その上で、新しいものを出していきたいですね」(Luup担当者)
広がり始めたワンマイルモビリティは、まだ課題もある。駐車場を確保できるのか、公道を走って本当に安全なのか、シェアサービスであれば乗り捨て問題をどうするか……。しかし、まずは利用してみて、多くの人がその便利さに気付くことができれば、制度も含めてポジティブな方向に動いていくのではないだろうか。
ポストコロナの今は、当たり前だったものを見直せるチャンスでもある。この機会に、移動の可能性を広げてみよう。
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