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HOME SPECIAL TRAVEL-ALIVE(あの旅先の今とこれから) KYOTO(京都の旅の今) 京都のおばんざいで、全国に笑顔を届ける。「あおい」女将・中村季以さん
京都のおばんざいで、全国に笑顔を届ける。「あおい」女将・中村季以さん

京都のおばんざいで、全国に笑顔を届ける。「あおい」女将・中村季以さん

京都の街で、地元客からも観光客からも愛される小料理屋「あおい」。人々の心の拠り所となっていたこの店も、コロナ禍で多大なる影響を受けていた。しかし、そうした状況にも決して暗くなることなく元気に営業を続けるのは、京都の名物女将でもある中村季以さんだ。ただ店を開けるだけでなく新たなサービスにも挑戦する中村さんに、今の思いを聞いた。

「今はすごい静かですよー。前は、店も2回転3回転していたけど、今は全然。カウンター6席、テーブル席1つの小さい店ですが、席を減らして営業しています」

元気な声で、明るく取材に応じてくれた中村さん。地元の人のみならず、観光客が多く訪れていたこの店も、このコロナ禍で客は激減。しっかり消毒をして、フェイスシールドをして、ソーシャルディスタンスも保てるようにしているが、宣言が解除された後も、遠慮をして店に来ない人が多いのだという。ただ、それでも、最近は少しずつ人が戻り、土曜日は満席になることも。

「県外の方、関西だけじゃなく関東の人も来てくれはります。神奈川、埼玉、東京から。新幹線使わず、車で来ている人が多いかな」

実はこの店は、緊急事態宣言下でも午後8時までの営業要請を守りながら店を開き続けていた。訪れる客はほとんどいなかったが、その行動の裏には、中村さんが商売人として大切にする精神があった。

「やっぱり、開けてることに意味があると思ったんです。『三方よし』という言葉がありますよね。もし私がお店を畳んだら、料理のために食材を卸してくれてる魚屋さん、酒屋さんも共倒れになる。だから人が来なくても営業は続けようと思って」

中村さんの言う「三方よし」とは、「売り手」「買い手」「世間」の三方が良い方向に進む商売のことで、江戸時代に全国規模で商売をしていた近江商人の心得だ。自らの利益だけを追わず、社会にも貢献できることが良い商売のあり方としている。

「こんな状況だけど、従業員の子も頑張りましょうって言ってくれて、それがすごく励みになってね。利益はそんなにないかもしれないけど、無駄なことではないと思っています。
世界的にこういうことになってしまったことは受け入れつつ、テイクアウトとか、これまでとは違う手を考えて、実際に始めています。下向いていても仕方ないですからね。」

店ではキャンセルや赤字が出て暗い気持ちになることもあると話しながらも、中村さんは今できることをしっかりやっていきたいという。

「実はおばんざいの発送も始めたんですよ。本来ならG.W.に来てくれていた人も、今年は来られなくて残念だと言ってくれる人が多くて。ストレスも溜まっているやろうし、送ったら喜んでもらえるかなと思って」

中村さんが始めたのは、手作りのおばんざいを全国に発送するというサービス。季節の食材を使った何種類ものおばんざいが、注文した翌日には届く。4月末から開始したが、中村さん曰く「結構良い感じ」に注文が入っているのだという。

インスタグラムより

「1日平均で7件くらいは注文が入ります、多くて10件くらいかな。人出を考えるとこれくらいがちょうど良いんです」

おばんざいの発送サービスについては、インスタグラムで告知をしている。店は中村さんとスタッフの女性、2人で切り盛りしているため、あまり大々的には知らせていないのだという。それでも今では、北海道から沖縄まで、全国から注文が入るほどの人気だ。

「おばんざいのサービスを利用するのは、常連のお客さんだけかと思ってたんですが、枝葉が広がって、あおいに来てないお客さんからも注文頂いたりして、それが嬉しいですね。利益は多くないけれど、お店を知ってもらったり人と繋がったり、良いことがすごくある」

気持ちが塞いでしまっても仕方のないような状況の中、中村さんはとにかく元気だ。おばんざいのサービスについても、今だからこそできたと明るく振り返る。

「今だからこそですよね、忙しかったら絶対してなかったので。ゆとりがあったからできたというか。ピンチをチャンスに変えていかないと。今まではお店でお客さんを待つ立場だったけど、こうなったからには自分からアクションを起こさないといけない」

こうした中、店にも嬉しい兆候が現れている。秋冬に向けて、少しずつ店の予約が入り始めているのだ。こうした希望を胸に、中村さんは今日も店を開く。

「ずっとしんどいじゃないですか。先々の目標あれば頑張れるけど、どうなるかが見えない。それでも、元気でいればまた会えます。落ち込まんと、元気でいてほしい。私は、京都で待ってるよという気持ち。今来れへんくてもまた会おうねって思っています」

コロナの脅威の中で、今はまだ先のことなど考えられないかもしれない。しかし中村さんのように、「今できること」に目を向けて一歩一歩進んでいくことで、自分の未来は良いものに変えられる。京都に訪れたらぜひあおいに、そして京都に来られなければおばんざいのサービスを利用して、中村さんの温かい真心を感じてみてはいかがだろう。