数多くのイベントやアクティビティが中止を余儀なくされているなか、美術館やギャラリーでのアート鑑賞も、そのありかたが変わろうとしている。 たとえば東京藝術大学の大学美術館で開催中の特別展「あるがままのアート -人知れず表現し続ける者たち-」は、自宅にいながら美術館気分を味わえる「ロボットビューイング」を採用している。遠隔操作できるロボットの目を通して、自分が見たい作品を見ることができるのだ。 withコロナ時代に誕生した新しいアート鑑賞のスタイルを、本展示にて体験した。
ロボットビューイングを作ったのは、東京、ニューヨークなどを拠点に世界的に活動するクリエイティブ・スタジオ「Whatever」。企画力・クリエイティビティ・技術力を兼ね備えた彼らが生み出したこのシステムは、今回の特別展「あるがままのアート -人知れず表現し続ける者たち-」が初のお披露目となる。
システムのベースになるのは、カメラを搭載したテレプレゼンスロボット「Double 3」をオンライン上で操作できる機能。イベント会場にいる“自分の分身”を動かすことにより、リモートでの参加が可能になるという。
ロボットには最大5人まで同時にログインすることができて、ビデオ通話をしながらイベントを楽しめる。内蔵のスピーカーで、現地の参加者やスタッフと会話することも可能だ。
オンラインでの体験ツアーは今や多くの企業が開催しているが、コンテンツに関しては提供されたデータを見るだけの“受け身”であることがほとんどだ。一方、ロボットビューイングは“操縦できる”のが特徴。みずからの意思で動きまわれるため、能動的でポジティブな体験になる。
ロボットは見た目をカスタムすることができたり、オンライン予約スケジューリング機能を搭載していたりと汎用性も高く、美術館の展示だけでなく、さまざまなタイプのイベントで使うことができるだろう。
実際に、ロボットビューイングで「あるがままのアート -人知れず表現し続ける者たち-」に参加してみた。利用方法は簡単。オンライン上で事前予約が完了すると、鑑賞用URLがメールで送られてくる。予約日時になったら、PCからURLにログインする。あとはWEBブラウザ上でロボットを動かして、“現地”で作品を見るだけだ。
ログインしたら、まずは現地スタッフに簡単なレクチャーを受ける。画面内にある前後左右の矢印を押すことで、ロボットが移動する。カメラも上昇・下降や、ズームイン・アウトなどが操作できるほか、撮影ボタンを押すことで、スクリーンショットを保存することも可能になっている。
最初こそロボットの独特の挙動に戸惑ったが、それもすぐに慣れ、自在に扱えるようになった。機械が苦手でも、直観的に操作できるようになっているのだ。使いかたがわからなければボタンひとつでマニュアルが表示されるし、道に迷ったら、場内マップも見られる親切設計だ。
国内外で注目されるアーティスト25名、およそ200点の作品が並ぶ会場内は、見どころたっぷり。約1時間の鑑賞時間は、ロボットの操作で盛り上がったり、個性あふれる作品たちに目を惹かれたりしているうちに、あっという間に過ぎていった。
ロボットの操作性や映像の解像度などクリアすべき課題はありそうだが、会場の雰囲気は伝わってきたし、満足度も高かった。これからのさらなるアップデートに期待大だ。
東京藝術大学、NHKなどが主催する「あるがままのアート -人知れず表現し続ける者たち-」は、2020年9月6日(日)まで開催。距離的・時間的・物理的な制約を超えて、新しいアート体験をもたらしてくれる“ロボ鑑賞会”を、この機会にチャレンジしてみては?
文:中山秀明
エリア: | 東京 / その他 |
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