スキンケアやメイクアップほどとはいえないものの、美容のジャンルで男性たちに浸透しそうな兆しを見せているのがネイルアートだ。そこにハマる人たちは美意識やコンプレックスをきっかけに始める美容とは異なり、男性が車やガンプラにハマるのと同じく趣味性が高いものにも思える。今回は、ネイル歴2年の芸人、XXCLUBの大島育宙さんとネイル業界の第一線で活躍するメンズネイリスト、YunYuさんと一緒に、ネイリストとユーザーの視点から、男性たちがネイルアートにハマる理由を考えた。
自身のSNSやYouTubeで日々ネイルアートを更新しネイル好きを公言する、お笑い芸人XXCLUBの大島さん。学生時代にネイルに目覚め、ネイルスクールとダブルスクールをしてネイリストの道をスタートしたYunYuさん。両者がネイルを知ったきっかけは、女性とのたわいのない日常会話からだったという。
「学生時代はダンススクールに入っていて、そこの女性たちの美意識が高くてその会話のなかでネイルアートを知って、アートの名前や特徴などを覚えていきました。その中でも、メイクのように鏡越しじゃなくて自分で見て分かるのがネイルだという点に惹かれるようになりました」(YunYu)
「僕もすごく似ていて、女友達とのLINEのなかで何の脈絡もなく、その日に変えたネイルの写真を送られてくることがありまして。当時は、何回見てもあまり前のデザインとの違いが分からなかったのですが、ある時から彼女たちには全部違って見えるのに自分には同じく見えてしまうことが損しているなと思うようになりました。洋服は機能性で選ぶし、物をよく無くすのでアクセサリーも着けないのですが、ネイルだったら覚えられるかも、という好奇心ではじめました」(大島育宙)
これまでのメンズネイルのニーズといえば、ギタリストがギターを弾く際に爪を強化するためであったり、DJが暗闇でプレイしやすくするためなどの機能によったものばかりだった。そんななか昨今、ネイルアートにハマる男性の特徴として上げられるのが、美容や自己表現などの領域に留まらず、もっと趣味性に寄ってきているという点だ。そのことについてYunYuさんが核心をつくような答えを述べている。
「小さい頃、図工の授業が好きだったりする人も多いと思うんですけれど、それと同じようにネイルアートは質感や柄などがどうやってできているかなどのデザインの表現が面白いと思います。例えば宇宙のデザインだったら、どういう色やパーツの連なりでその柄ができているか、とか。ネイリストとしての立場としては、女性はあまり気付かないのですが、横から見たときの爪のカタチやフォルムを作っていく作業も男性は興味を持ってくれるのかなと思いますね。ネイルにおいて意外とデザイン以外のそういう部分が大事だったりするので、一度キレイなフォルムにしてもらうと、気になってくるかもしれません」(YunYu)
YunYuさんがそういうように、流動性があり季節や室温で硬さが変わってくるジェルを扱うには、ある程度の知識と経験が必至だ。ネイルの施術中に見ることができるネイリストの職人技もネイルに興味を惹かれる理由といえる。
ネイルサロンに2年間通っている大島さんは、このようなネイリストとのやりとりを“物づくりの共同作業”のように感じているとのこと。確かに、約2時間のネイル時間のなかで、お互いの希望や提案をディスカッションしながら完成へ向けて仕上げていくプロセスは大島さんのいうように物づくりをしているようだ。
「結構ゆるい気持ちでサロンに通っていて、その場で相談しながらデザインを決めています。今何が流行っているかなど全然知らないので、新しいデザインに挑戦しながら覚えていく感じが面白い。結果、想像とは違うものになっても自分のやりたいデザインとお任せの中間なので、大体満足しています。自分はほとんど何もしていないのですが、物づくりの共同作業感を楽しんでいます」(大島育宙)
今でこそ、ネイルアートの世界を楽しんでいるように見える大島さんだが、実は爪にパーツを乗せたり大胆なアートを施せるようになったのは、ここ最近のことだという。
「性格的に保守的なところもあり、ネイルをはじめた最初の1年はアートに躊躇してワンカラーネイルを貫いていました。冬の時期に真っ白のネイルにした際に、シンプルすぎると思って金箔を入れてもらったのですが、それをきっかけに、少しずつアート性の高いデザインに挑戦できるようになりました」(大島育宙)
このエピソードを聞いたYunYuさんは、最初からデザインを入れるのが抵抗のある方は、ワンカラーでもマットネイルなど質感を変えて見た目にメリハリをつけるのがいいとアドバイス。さらに、触り心地も変わるので触ったときの心地よさもオススメとのこと。
そんな2年間のネイル歴もあり今では、毎回新しいアートに挑戦することをモットーとしているという大島さん。
「ネイルアートはInstagramにキャプションをつける前提で考えていることもあり、一言何か新しいことを書けるようにしたいと思っています。何か前回よりアップデートしていたいからネイリストさんとはその話し合いはしますね」(大島育宙)
日本のネイル文化は、1980年代にアメリカより上陸し意外にも歴史が短く、更なる普及が期待できる美容ジャンルでもある。最後にネイルを嗜む2人に、今後、男性のネイルアートがどうなっていくか予想を訊いた。
「さらに広がっていくと思いますね。美容師さんとかを見ていても最初は男性が少なかったかと思いますが、今の人気美容師として名前が上がる方は、男性の方が多かったりします。僕がネイルスクールに通っていた頃はメンズネイリストがほぼいなかったのに、今ではその数も増えてきていますし、今後より広がっていくのかなと思います」(YunYu)
「芸人の世界はいまだに男社会なのですが、僕がネイルをしていると若い人を中心に興味を持って会話のきっかけになることが多いです。あとは、やってみて意外だったのですが、身嗜みをしっかりするということでいうと、ズボラな人ほどやった方がいいのかなと思います。1ヶ月1回でいいですし、毎日ケアする必要がなくなるので楽ですね。『月1で通うのが面倒だ』とかその人のライフスタイルにマッチするかはそれぞれだと思うのですが、とにかく1度どんなものか試してネイルの世界を知って欲しいと思います」(大島育宙)
自分をよく見せるという目的以上に、ネイルのプロセスは物づくりの現場を覗いているかのように好奇心を刺激してくれる。このワクワク感を一度味わうと、違うアートも試してみたいとネイルアートの沼にハマっていくのが理解できるかもしれない。
撮影:浦 将志