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HOME SPECIAL Second Town Journey in ONOMICHI(尾道) 映画『逆光』が放つ“尾道発クリエイティブ”の可能性|映画監督・須藤蓮
映画『逆光』が放つ“尾道発クリエイティブ”の可能性|映画監督・須藤蓮

VOL.4 映画『逆光』が放つ“尾道発クリエイティブ”の可能性|映画監督・須藤蓮

シネマ尾道で上映中の映画『逆光』。街中でポスターを見かけたこの作品を鑑賞し、この作品が、偶然尾道にいた私たちに“届いた”ことこそが尾道のクリエイティブの面白さを物語っていた。主演であり監督を務める須藤蓮さんが見た尾道の景色やそのクリエイティブとは。

尾道での取材中、やたらと「逆光」という文字を見かけることに気付く。街中にたくさんのポスターが貼ってある。書店や銭湯、居住エリアの地域掲示板まで。どうやら尾道を舞台にした映画だそうで、まさに公開したばかりのタイミング。せっかく尾道にいるのだから、とシネマ尾道で鑑賞することに。

作中に出てくる主人公の実家。「……あれ?」どうも、見覚えがある。気のせいかな。別のシーンでの別の場所。どうも、見覚えがある。エンドロールのクレジットまで見て初めて気付いた。その撮影場所は私たちが取材の拠点として宿泊滞在している「クジラ別館」だったのだ。

私たちが昨夜も今朝も上り下りした階段を、作品内の登場人物たちも上り下りしている。ロケ地だと知らずに宿泊中に映画を鑑賞して、さらに帰ってからもロケ地に泊まる。こんな体験きっと一生ない。一方的に運命を感じて作品鑑賞後、すぐにTwitterで連絡をとった。なんと監督自身が尾道市内でプロモーション活動をしているということで奇跡的に滞在最終日にインタビューをさせてもらえることに。ちょっと運命的だ。

東京生まれ・東京育ちの俳優である須藤蓮監督。尾道との出会いはコロナ禍の真っ只中だったそう。主演作『ワンダーウォール劇場版』の封切がシネマ尾道であり、その舞台挨拶で訪れた。

「『ワンダーウォール』は、大学寮の話です。経済合理主義に飲み込まれない古い建物の歴史的価値を描こうとした作品なんですね。それと、尾道の街の雰囲気がすごくマッチしていたんですよ。古いものを大事にしていて、自治の精神がある。ワンダーウォールで大切に描きたかったことが、ちょうど尾道にあって、街を好きになってしまったんです」

須藤さんは“恋をした”と表現するが、まさにどこがいいとかそういうことではなく直感で“なんかいい”と初めて訪れた尾道に惚れ込んだ。一泊のつもりの来訪が、ついつい延泊してしまったのだそう。

滞在中はゲストハウスに泊まり、出会う人々や街の人々と交流を深めた。でも、須藤さんはもともとはそういう“社交的”なタイプではない。尾道という町がそうさせたようだ。

そして「ここで撮ったら面白いことが起きるんじゃないかっていう直感」で撮ったのが本作『逆光』だ。

「最初は自分たちだけでロケハンしてたんですけど苦労していて。滞在中のゲストハウスでの出会いが、まさに僕らの制作を後押しというか、広げてくれたんですよ。この人紹介するよ、この人に聞くといいよ、この人が手伝うならウチも協力するよ……みたいな感じで、一気に」

まさに、須藤さんが体感した尾道のリアルな空気・魅力が制作の過程にも大きく影響した。それはもちろん、ロケだけでなく、美術なども含めてなのだそう。

人と人との遠い距離や希薄さ。東京生活でそれが当たり前になっていた、と須藤さんは語る。それはまさに、私たちも日々感じているもの。「同じ会社・同じ学校」などの肩書きがないと、人とあまり知り合えない。あんなにたくさん人がいるのに、たまに底知れない不安や孤独を感じることがある。

それはなんとなく東京にいたときから問題意識だったものの、解消方法は東京では見つけられなかった。おそらく、街のあり方が大きく関係しているのではないだろうか。

「地方だから東京だから、ということだけじゃなくて、“とどまれる街に変えていこう”っていう街の動きと、そういう方向に向かっている人たちの情熱が尾道の魅力だな、と滞在しているとすごく強く感じます」

東京を凌駕するカルチャーがたくさんある、思想のホットスポット

「尾道はすごく進んでる、成熟していると思っています。それはクリエイティブな領域の話だけじゃなく、環境問題への高い意識もそうだし。思想のホットスポットという感じ。街全体はレトロなはずなのに思想がアバンギャルドで、そのバランスが面白い」

今回、私たちは尾道で注目のカルチャースポットなどを取材で訪れ、クリエイティブな刺激を大いに受けたわけだが、東京から来た須藤さんも、1年前にまったく同じことを感じ、よりこの街に惚れ込んだのだという。

「紙片さんとか、弐拾dB(にじゅうでしべる)さんとか、東京にあってもおかしくないというと偉そうだけど、“地方の書店”だと思って訪れるとかなりビックリしますよね」

私たちも取材の合間に訪れた「紙片」は、書店だ。店のつくりやクリエイティブ、そして商品のラインナップや開催されているイベントまでもが東京で「最先端」に慣れているはずの私たちの興味をそそる。取材当時は、映画『逆光』の写真展を行っていた。ロケ地に泊まるという不思議な体験をしている私たちは、映画を観た後の視点で、それがさらに『写真』というクリエイティブに変換された世界を目の当たりにした。街中のいろんな場所で、いろんな角度から『逆光』の空気に触れている。

尾道から生まれた、新しい“届け方”

映画『逆光』が尾道愛にあふれた作品であることは魅力のひとつなのだが、さらに注目したいのが、その“届け方”だ。

通常、全国同時公開や東京から劇場公開がスタートするのが映画業界のセオリーだが、『逆光』は尾道から興行をスタートさせた。

「『東京と同時公開』は、過去惨敗している。でも尾道だけに本気で注力した人はいないから。だからやってみたかったんです。おかげさまでシネマ尾道での初週集客数が歴代1位です」

そしてそのことが、全国の映画好きのアンテナに引っかかる。シネマ尾道は映画好きの聖地。そこで歴代1位になった映画は、東京ではまだまだ観ることができない。東京の映画好きが、じらされているのだ。こんなことが、今まであっただろうか。

しかし須藤さんは「地方創生とか、そういうことは別に気負ってない」と語る。

「地方だから都市部だから、ということではなく、場所によって戦い方って全然違うんじゃないかと思うんです。尾道と広島市内でも違う。やっぱりその土地に合わせたやり方が映画の配給にもあっていいんじゃないかと思う」

また、写真展や上映会、映画内に登場するファッションについてスタイリストさんとトークイベント……。出会いの入り口をたくさん設けているところも“新しい届け方”のひとつだろう。

「グッズが可愛い」「このファッション可愛い」「この写真展よかった」……それが映画との出会いだとしても別にいい。そういう意味で、さまざまなクリエイターとコラボしたり、協力したりしていることは『逆光』を一部の映画好きのためのものにしない、というチャレンジ精神を感じる。

「さまざまなカルチャーを引き連れて、映画と一緒に旅させたい」と須藤さんが語った言葉には、尾道で出会ったものや出会いそのものをパッケージにして届けたいという想いが込められている。

“ちゃんと届ける”

私たちが取材中、さまざまな場所で出会った街なかのポスターは、基本的に須藤さん自身が自分の足で回って配ったものだ。

「あれ、全部ひとりで行ったんですよ。コミュニケーションとりながら、若い人だけじゃなく、年配の方まで巻き込んでいくっていうことを泥臭く。やっぱり、顔見せるって大事です。顔見せ合う。これ、実は東京じゃ結構難しいですよね」

確かに、いろんな意味で難しい。街なかでビラを配るには許可が必要だし、掲示板にはいろんな人のハンコが必要なことが多い。「こちらにお問い合わせください」とたらい回しにされることも多く、誰が許可をくれるのかも、わからない。須藤さんがインタビュー中に何度も発した「ちゃんと届けたい」は誰が届けてくれているのかも重要。それは尾道の街の中で改めて大事にしたいと思ったことなのだという。

「港町だし、車ができる前につくられた街だからか、人と人の距離が近いんですよね」

尾道の取材中「港町だから」という言葉をたくさん聞いた。昔から、知らない人たちが船とともにやってきて、また次の船でいなくなるという文化の中で発展してきた尾道。来る人も出ていく人も受け入れるDNAを持っているのだろう。チャレンジする人を追い詰めない柔らかさが旅人としても心地がいい。アグレッシブな都市でクリエイティブが際立っている人たちの中にいると「何もやれてないことを負い目に感じる人たち」はとても生きづらい。東京はそれがとても顕著な気がする。

この後、広島市内、京都……と徐々に上映エリアを広げていく『逆光』。当然見据えている、東京での劇場公開。『逆光』が東京で一番輝く方法は、おそらく尾道や広島市内で現在展開されているものとはまったく違うものになるだろう。顔が見える者同士がゆるやかにつながって、制作のムードをつくり出している須藤さんを中心としたチーム。尾道で出会った旅一座のような『逆光』チームと、東京で再会する日が今から楽しみだ。

取材協力:映画『逆光』
撮影:もろんのん
取材・文:稲垣美緒(Harumari TOKYO編集部)

映画「逆光」
公式WEBサイト:https://gyakkofilm.com/

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