占いはうまく活⽤できれば好影響がある⼀⽅で、依存症の問題もある。 占いに振り回されることなく、賢く使いこなすにはどうすれば良いのか。 精神科医として直接診療を⾏いながら、⻑年メンタル・ヘルスの問題を扱ってきた和⽥秀樹先⽣に、「占い依存症になりやすい⼈の傾向」と対策方法をうかがった。
あくまでエンタメとして占いを楽しんでいる人と、どっぷりと浸かってしまう人がいる。占いにのめり込み、それが生活の中心となってなにをするにも占い頼りになってしまったり、より良い結果を求めてさまざまな占いに高額なお金を注ぎ込んだり……。
占いを参考程度に受け止め、程よい距離感で付き合える人と、占いに依存してしまう人との決定的な違いは何なのか。まずは人が占いにハマってしまう理由から紐解いていく。
和⽥先生によれば、元来日本人は結婚をする日に大安吉日を選んだり、子に名付けるにも画数を考えたりする「験担ぎ」の風習があることから、占いにハマりやすい性質があるというが、それに加えて育ってきた環境も大きく影響しているという。
「たとえば、誰かに恋をしたとして、成就するかどうかは実際に声を掛けてみないとわからないのが当たり前ですよね。でも、占いにハマりやすい人は“絶対に私のことを振りそうにない人”を知りたがる。その人たちが占いにすべてを委ねてしまうのは、失敗を恐れてチャレンジをできない文化のなかで育ってきているからなんです。
海外だと“当たって砕けろ”なチャレンジ精神は肯定的に捉えられる一方で、日本では失敗はダメとされる。だから“やる前から答えがほしい人”が相対的に多いんですよ」
失敗を恐れる人は、ひとつの正解を求める。つまり、本来は数多くあるはずの枝分かれした選択肢を塞いでしまう傾向にあるのだ。これは、メンタルヘルス上にも悪い影響を及ぼすという。
「失敗を恐れる人は、失業や失恋をすると、“もうこの先に良いことなんてない”と思い込んで鬱になりやすい。一方で、“この先、なにがあるかわからない”と思える人は、いろんな可能性を考えることができるから、未来のことも肯定的に捉えられるんですよ」
私たちは、わかりもしない未来のことを前もって知りたいがために「占い」にハマっていく。では、占いを適度に楽しんでいる人と、そうでない人との大きな違いは何なのだろうか。和田先生は、「認知的成熟度が低い人」ほど占いにハマりやすい傾向があると指摘する。
「認知的成熟度が低いと、“決まっているもの”を求めてしまいます。物事を偏った側面からしか見られず、ほかの可能性を考えずにそれが正しいと思い込んでしまうんです。
今はインターネットで何でも調べられる時代だから、データは探せばいくらでも見つけることができますよね。それなのに、“権威性のある人が言った”、“とあるデータが示していた”、とひとつの情報だけを鵜呑みにしてしまう人は占いにハマりやすいと思います。
占いというのは、当たることもあるけど、統計学的・科学的な根拠はないんです。同じ日に生まれた人間が同じ運命なわけがない。根拠のないものの言いなりになってしまうのは、本当に危険なことなんですよ」
しかし、この「認知的成熟度」と知的レベルは必ずしも一致するものではない。たとえ優秀な人だとしても、認知バイアスから逃れることは難しいそうだ。それはつまり、誰もが占いにハマってしまう可能性を示唆する。さらに、「つねに不安を抱えている人」もまた、占いにすがる可能性が高いという。
「たとえば、病気で苦しんでいて特効薬などがない人は、嘘でも『あなたは2年後に幸せになれる』と言われたら心の支えになりますよね。
不安で仕方がない人は、誰でも良いからパートナーを求めたり、ほしい言葉を探したり、なにかに時間を投入したりして不安を埋めようとします。その結果として、占いを選ぶという可能性がある。でも本来は、自分自身に埋め込まれた考え方を変えないことには、幸せにはなれないんですよ」
では、自分自身が「占い依存症」に陥っているとき、自らがそれに気づくことは可能なのか。和田先生から「占い依存症」のセルフチェック項目をご教示いただいた。
「依存症というのは、それがないときに禁断症状が出る人を指します。たとえば、スマホ依存症の人はスマホを家に忘れただけでイライラしたり、ずっとスマホのことを考えてしまったりする。これを占いに当てはめると、下記のような人は占い依存症の傾向があります。
①何かをするときに占いをしないと決められない
②占いを1日1回以上見ていないと不安になる
③占いによる成功体験が多いと信じている
特に、恋愛であれ、転職であれ、占いをしてからじゃないと動けない人はかなりの占い依存症です。先行きがわからないことに対する不安が強くなっている状態。大切な意思決定を自分ひとりで決められないというのが、一番自覚しやすいチェックポイントだと思います。
また、パチンコなどでも一度まぐれで勝ってしまうとハマりやすいように、占いが当たったという成功体験を積み重ねれば積み重ねるほど依存してしまいます」
小さな意思決定ならそこまで影響はないだろう。しかし、もしも人生における大きな決断を占いに委ねてしまっている自分がそこにいたら。気づかぬうちに己の人生のハンドルから手を離しかけている状況に陥っているのかもしれない。
とはいえ、占いにまったく効果がないかというとそうではない。占いを受けた人が結果を信じて一歩を踏み出すための「背中を押す」効果はあるのだ。これは、心理学でいう「プラセボ効果」であると同時にアドラー心理学でいう「勇気づけ」に当たるという。真偽はどうであれ、占いは最終的にその行動に踏み出すきっかけになるのだ。
では、そんな占いに依存せず、適度に付き合っていくにはどうしたら良いのだろうか。
「占いを賢く使いこなしている人は、悪いことは全部無視して良いことだけを信じている人ですね。当たることもあれば外れることもあるという当たり前の原則を知ったうえで、良いことを言ってくれるのなら、信じたほうがやる気になるよね、というスタンスで受け止めるのが良いです」
また、占いにハマりやすい人の原因である「認知的成熟度」を高めることも有効なのだそうだ。
「たとえば、特定の著者の本ばかり読むのではなく、なにかを肯定している本を読んだら、あえて批判している本も読んでみる。今はせっかくネットがあるのだから、いろんな世界を知ることができますよね。大事なのはいろんな説に触れて、いろんな可能性が考えられるトレーニングをすることなんです。そうやって視野を広げたほうが人生は楽しいですよ」
最後に、もし自分やまわりの人が依存症になったときの対処法についてうかがった。
「正直、占い依存症の人は強い思い込みのもとにハマってしまっているので、どんなに説得しても変えるのは難しいです。ただ、リアルな人に話を聞いてもらい、気持ちが落ち着くという経験をすれば少しは変わるかもしれません。
占い依存症の人は、もしかしたら『話を聞いてもらいたい』と本来は精神科やカウンセラーに行くべきところを、身近な占い師のところに行ってしまっているという可能性もあります。
でも、占いは精神安定剤みたいなもので、ぱっと答えを出してもらうことで一過性の安心感を得るかもしれないけど、物の見方や考え方を変えてくれるわけじゃないから、根本的な解決にはならないんです。
一方で、カウンセラーが行う認知療法は、いろんな可能性を提示して、相手の思考パターンを変えてあげることなんです」
ただ話を聞いて安心したいのか、根本的な解決を求めているのか。それを見極めることが占いと上手に付き合っていくひとつのコツなのかもしれない。
占いは、あくまで自分が決めたことに対する「あとひと押し」を手助けしてくれるためのものであり、運命を決定づけるものではない。自分で自分の「認知的成熟度」を知るのは難しいが、もしも自分が占いを通して大きな決断を下そうとしていたら。そのときは振り上げた手をそっと降ろし、せめて身近な人に相談してみたい。
取材・文:いしかわゆき
和田秀樹(わだひでき)
1960年大阪市生まれ。1985年東京大学医学部卒業。
東京大学医学部付属病院精神神経科、老人科、神経内科にて研修、国立水戸病院神経内科および救命救急センターレジデント、東京大学医学部付属病院精神神経科助手、アメリカ、カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、高齢者専門の総合病院である浴風会病院の精神科を経て、現在、国際医療福祉大学大学院教授(臨床心理学専攻)、川崎幸病院精神科顧問、一橋大学経済学部非常勤講師、和田秀樹こころと体のクリニック(アンチエイジングとエグゼクティブカウンセリングに特化したクリニック)院長。