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HOME SPECIAL 「書く」を愉しむ ~30歳から始める日記・ジャーナリング “自分らしさ”に惑う私たち。注目アプリ「muute」に聞く、書く瞑想「ジャーナリング」で得られるもの
“自分らしさ”に惑う私たち。注目アプリ「muute」に聞く、書く瞑想「ジャーナリング」で得られるもの

VOL.1 “自分らしさ”に惑う私たち。注目アプリ「muute」に聞く、書く瞑想「ジャーナリング」で得られるもの

ここ数年、注目されている「ジャーナリング」。頭に浮かんだことや、心のなかで思っていることを書き出すことで、自己分析やメディテーションにつながるという手法だ。 2020年には、その手法を取り入れたAIジャーナリングアプリ「muute」も登場し、Z世代を中心に大きな話題となっている。

紙に書き出す従来のジャーナリングとは異なり、「muute」で用いるものはスマートフォンのみ。書いたことに対してAIからのフィードバックを受けられたり、過去ログにタグを付けられたりと、より科学的に自己理解を深めることができるツールだ。
今回はそんな「muute」の担当者へインタビュー。「muute」のコンセプトや現在の利用実態などのリアルを聞きながら、ジャーナリングの魅力について聞いた。

今注目されている「ジャーナリング」。背景にあるのは「自己の空洞化」

ジャーナリングとは、頭に浮かんだことや、心のなかで思っていることをありのままに書き出していく手法を指す。もともとは手書きで書き起こすこと自体を指していたが、デジタルデバイスを利用して書き起こすことも近年では多くなっている。心に引っかかっていることを外在化することで、思考をスッキリとさせたり、張り詰めた気持ちを和らげたりできるといわれている。

マインドフルネスや瞑想にも通じるジャーナリングが現在スポットライトを浴びているきっかけは、デジタル時代による「自己の空洞化」が要因なのではないかと「muute」開発を手がけたプロダクトデザイナーの岡橋さんは語る。

ミッドナイトブレックファスト株式会社プロダクトデザイナー・岡橋惇さん

「アプリ開発のためのデプスインタビューやエスノグラフィなどのリサーチを行うなかで、今のデジタル時代には、ある特有の悩みがあることがわかりました。それは、『自分らしく生きたいのに、自分についてよくわかっていない』ということ。
今はTwitterやLINE、Instagaram、TikTokなど、さまざまなプラットフォームのなかで、さらに複数のアカウントを持つことが現代的なコミュニケーションの在り方として珍しくありません。

そして、仕事アカウント、趣味アカウント、愚痴アカウントなど、いろいろな顔を使い分けながらSNSを使ううちに、フォロワーの目が気になったり、炎上が怖かったり、誤解されることを恐れたりと、本来自分が思っていることがありのままに吐き出せない環境を自ら作ってしまう。また、他人にどれだけいいねされたか、他人がレコメンドしているか、他人軸で何かを取り入れることが比重として高まっていることも大きいです。

その結果として、本当の自分や、本当に自分のやりたいことがわからなくなってしまう『自己の空洞化』が起きています。
今は、多様性が認められつつあるなかで、『こう生きた方がいい』といった『べき論』から脱却し、生き方や働き方の自由度が高まっている時代でもあるからこそ、より『自分が何したいのか』が求められる。でも、それがわからないからこそ、苦しいと感じる人が増えているんです。だからこそ、まずは自分と向き合ってやりたいことを考えるひとつの手段として、『ジャーナリング』に注目しました」

アプリの利用者のなかには10代から40代まで、幅広い年代の人がいるが、ユーザーの多くは、「Z世代」と呼ばれる1990年代後半から2000年代前半に生まれた若い世代。

ユーザーには日記的に記録している人もいれば、自分の感情の機微を理解したい人や、傷つきやすく繊細で感情の出口を求めている人など、さまざまな人がいるという。

生まれたときからインターネットが当たり前にあり、それによって恩恵を受けながらも付き合い方に悩んでいる世代でもあるのだろう。

“フィードバック”がジャーナリングの効果を最大化する

そもそも、なぜ「ジャーナリング」をすることで、自己理解が深まるのだろうか。「muute」代表の喜多さんは、「感情」こそがすべての鍵を握っていると話す。

ミッドナイトブレックファスト株式会社代表・喜多紀正さん

「『メンタルウェルビーイング』といって、日々が精神的に充足した状態であることが人生には必要だと考えられています。では、日々の充足感は何から生まれるのか、逆に阻害している要因はなんなのかと考えると、『感情』が大きく紐付いているんですね。

でも、『感情』は自動で発生するもので、コントロールするのが難しい。だからこそ、まずは感情が生まれるメカニズムを自分自身で紐解いて、可視化して、顕在的に考えることで少しずつ理解していくことが大切なんです」

ジャーナリングの本来の手法は「紙に書き出す」ものだが、ジャーナリングアプリ「muute」では、アプリならではの付加価値がある。

それは、AIによるフィードバックが受けられることだ。このアイデアの裏側には、岡橋さん自身が2016年に参加した、あるワークショップでの原体験があるという。

「知人伝いで参加したワークショップで、初めてジャーナリングと出会いました。1週間、毎日自分の思いを書いたあと、どんな気付きが得られたのかを受講者同士で話したのですが、他者からのフィードバックがあることで、『自分はこんなことを考えていたのか』とより深い気付きが得られることがわかったんです」

ジャーナリングをデジタルでやるなら、書いた内容を分析してフィードバックすることができたら面白いんじゃないか。そんな思いから、AIのアルゴリズムを組んだという。

過去の自分のデータをもとに、知られざる自分と出会う

実際に「muute」を通じてジャーナリングを体験することで、どのような変化がユーザーにあったのだろうか。

「ユーザーからは、気持ちが落ち込みやすいタイミングや傾向など、自分の感情に起因している要因がわかるという声をいただくことが多いです。

人は、顕在的意識はなくても、潜在的に感情を芽生えさせてしまうもの。それを「muute」で読み解くことで、自分が気付かなかった自分を知ることができます。

たとえば、ユーザーのなかには『掃除をしたあとに機嫌が良くなることに気付いた』という人がいました。自分の傾向への理解が深まることで、「毎日の掃除を習慣にしてみよう」などの次のステップに活かすことにも繋がるんです。

また、『muute』では文字を書くほかに、『どの出来事に対してどのような感情を抱いたのか』の感情アイコン を選ぶシステムがあります。これによって、改めて過去の感情を再認知できるというのも『muute』ならでは。

そして、『muute』の特徴は感情の形がログとして残ること。落ち込んで元気がほしいときに、『ワクワク』『嬉しい』『好き』などの項目をタップすると、過去の自分の投稿が読めるんです。自分の感情を取り出して眺めてみることで、その感情に改めて浸れて今の感情にも変化が現れる。セルフメディケーションのようなことができるんです」

本来のジャーナリングのように、書くこと自体で心がスッキリとするのはもちろん、「muute」ならではのフィードバック機能や検索機能が加わることで、自分の感情の機微への理解が深まったり、過去ログを利用して自分で自分をケアすることもできる。従来のジャーナリングの効果をより最大化させたジャーナリングアプリとなっているのだ。

ログを溜めていくことのために、無理はし過ぎない

しかし、日々忙しいビジネスパーソンにとって、毎日ジャーナリングを続けるのは容易ではない。そんな悩みに対し、岡橋さんは「毎日書く必要はない」と語る。

「習慣化をするためのセオリーはさまざまなものがありますが、あえて僕たちは『こうすべき』というのを言いたくないんですよね。人それぞれのリズムがあるし、疲れているときに書いても嫌な体験になってしまうはずなので。

ただ、ログを溜めていくことで、自分の感情パターンが面で見えてくるようになるので、しばらくは続けてみてほしいです。なぜなら、似たようなシチュエーションに陥ったときに、過去の自分と今の自分を比べることができるから。

他人じゃなくて、過去の自分と比べることができるというのは、ログを残すからこそできることです。もちろん、書かなかった日も「書きたくなかった日」としてログが残ります。

『muute』にはリマインダー機能があったり、テーマやフォントを自分好みにカスタムできたり、Twitterと連携して投稿をそのまま登録することできたりと、「心地よく続ける」ための仕掛けをあちこちに施しています。
本来のジャーナリングは紙に手書きで行うものですが、アプリだからこそ電車での移動中や隙間時間などに書くことができるので、ぜひ気軽に使っていただきたいですね」

「言葉の痕跡を残すこと」は後々自分を俯瞰して見るための大切な指標となる。「自分らしさ」や「自分の現在地」に迷いがちな現代に生きる私たち。ジャーナリングを通じて、これからの人生をどう生きるかの指針を手に入れておきたい。

取材・文:いしかわゆき
取材協力:muute

muute
https://muute.jp