ベストセラーであり、日記の用途を超えた幅広いジャーナリング、レコーディングアイテムとして愛され続ける「ほぼ日手帳」。大人を惹きつける「ほぼ日手帳」の魅力を実際の手帳を見せてもらいながら紐解いていく。
この春始まる2022年版が出て、今年で21年目になるという「ほぼ日手帳」。
「最初は、社内の生徒手帳みたいなものが欲しい、自分たちが使いたい手帳を作ろう!という小さい規模のスタートでした。文庫本サイズ、1日1ページというスタイルはその当時からなんですが、デザインなども今よりだいぶポップでした。だんだんユーザーが増えていく中でより多くの方に使いやすいようすこしずつ改良を加えてきました」とほぼ日手帳チームの星野さんは語る。
21年目ともなれば、既存フォーマットに馴染んでいる方も多いため、手帳中面のデザインの改良には慎重におこなっている。最近取り組んでいるのは、手帳本体の新しいバリエーションの提案。たとえば、日付を気にせず自由に使える月間ノート手帳「day-free」や、5年間の記録を1冊にまとめられる「ほぼ日5年手帳」など、手帳本体のバリエーションを増やすことでさまざまなニーズに応えている。現在はなんと世界中で74万人ものユーザーがいるのだという。
「ほぼ日手帳はまだまだ発展途上のブランドですが、使ってくださっているお客さまの密度や熱量が日々ダイレクトに伝わってきます。国や年齢を問わずのびのびと使ってくださっている一人ひとりが積み重なった74万という数字には、大きな意味があると思っています」
そう星野さんが語るように、「ほぼ日手帳」には、熱心なファンであるリピーターが多いのも特徴といえる。
「ほぼ日手帳は、説明の簡単な手帳ではないと思うんです。使い方を限定していませんし、書くスペースが多いので自由度が高い。なので、それぞれが自分なりの使い方を考えながら使ってくださっている。こんなことを書いたら嬉しかった、こんな風に使ったら便利だった‥‥などしっくりくる使い方が見つかると、他のどこにもない、自分だけの手帳ができあがります。」
自分なりの攻略法を決めたものに対して、人は愛着が強いといえるだろう。
逆に“ほぼ日”側からは、毎年使ってもらえるよう、カバーや表紙のデザインを選ぶ楽しみを提供しているのだそう。例えば今年の春の目玉は「東京国立博物館」とのコラボデザインだ。
「毎年新鮮なラインナップになるよう、頭をひねっています。ユーザーの方にとって年に一度の楽しみになると同時に、作っている側の自分たちも新鮮さを失わないようにという想いが強いです。今、どういうものがうれしいだろう? どんなものを届けたいだろう? と、チームで試行錯誤しながらひとつひとつの企画を組み立てる。そこは、実際に自分たちもユーザーであることも大きいのかもしれませんね」
さて、ほぼ日手帳に書かれている内容を覗き見してみよう。
その中身はといえば「日記」としての使い方も多いのだという。
「ほぼ日手帳は“手帳”と名前がついていますが、それをどう使うかはその人次第です。日記だという方もいれば、スクラップ帳だという方も。宝箱だという方もいらっしゃいます。
『ほぼ日手帳とは●●である』の●●の言い換えがたくさんできるということが特徴だといえますね」
中身を見てみると、確かに日記として使っている人も、絵日記として使っている人もいれば、観た映画の半券のスクラップや気になった新聞記事の切り抜きなどを貼っている人もいる。カラフルなペンを使ったり、シールやマスキングテープを駆使したりしている人のものはまるで『作品』のようだ。どんな使い方でもできるというのは、自分らしさや好きなものをパッキングできるものでもある。自由度が高いことが戸惑いになる人も多い時代だが、その自由度へのアイデアがあるユーザーがほぼ日ファンには多い。
「たとえばTwitterのように文字数やスペースに制限があるものは、要素がまとまっていてメッセージが強いですよね。ほぼ日手帳はその逆で、まだまとまっていないことやほんのささやかなことを書くスペースがたっぷりある。一見無駄に見える落書きや走り書き、パッと挟んだただのレシートが、のちのち大事な記録になったり、思いがけず何かのアイデアに繋がったりすることもあると思うんです」
星野さんが語る“脱線と寄り道と落書き”という言葉は、幼い頃の図工や工作に近い、なんだか楽しそうな空気はほぼ日独特ともいえる。
好きなものを好きなように作り込んでいく『作品』を、SNSなどで発信するなど、ある種ほぼ日手帳を自身のメディアとして使っている人もいるが、自分のためだけに書き留めている人の方が多い。だがそんな何気ない手帳は、その人の生々しい過去の記録ともいえるだろう。
「書くところが多い分、その人らしさがすごく出るんですよね。特に手書きはブレるもの。そのブレ方に、その時の自分がすごく出るんだと思います。走り書きだったり、嬉しそうだったり、白紙だったり」
書いた時は気づかないが、振り返って見てみると、それは確かに過去の自分。ほぼ日手帳は振り返ることでその面白さを実感するのだという。
「5年手帳」は、5年間の同じ日付の記録を同じページに記入する手帳だ。
星野さんがほぼ日で「5年手帳」を企画したのは、自身が30歳を迎えるタイミングだったのだそう。
「ちょうど一年前の同じ日付の日記を見た時に、同じことで行き詰まっていたり、逆に同じようなことでもあの時の自分とは違うな、と気づきがあったりするんですよね。なので記録して、それを振り返ることはとても大事なことだと思います」
自由度が高い分、書いてあることの内容や質で、自分の成長や現在地との距離が測れるのだという。
特に、結婚や出産、転職など大きなライフイベントがあるとされるのが30代。そこへの思いや葛藤などは1日1日というより、長いスパンで私たちの人生に降りかかってくる。
そういった意味で、人生の岐路になるような出来事や日々がある30代の5年間を切り取るのはとても意義のあることのように感じる。
「これからどんな人生を送るんだろう」そんな思いを抱きやすい30代。過去の自分を改めて確認することで、大切にしたいものや少しでも成長してきた自分の軌跡を感じ取ることができるだろう。
緊急事態宣言が出た2020年の4月。
ほぼ日の社員全員で「緊急事態宣言中、毎日日記をつける」という取り組みをしたのだという。
ほぼ日の社員といえども、全員が毎日必ず日記をつけているわけではない。だが、書き続けた社員の中には、面白い変化があったのだという。
「何か書くことないかな、と探したり、あまり意識してこなかった自分の字を綺麗にしようとしてみたり、日記を始めたことでポジティブな変化が起こったのは面白いことですよね。見えなかったものが見えてくるなど、“視点”が増えるのだと思います。日記をつけることは、そんな変化のきっかけにもなり得る」
30代に入り、固定化してしまった自分の価値観や視点。思い切ってそれらに変化を起こすきっかけは、やはり自分自身だ。過去の自分を振り返ることで、自分の状態や現在地を測れるのだとしたら、「自分ログ」をつけていくことはとても有意義だといえる。さらにそれが、手書きで、手書きであることを最大限使って“自分らしく”残すことができるほぼ日手帳。30代こそ日記をつけて未来の自分へ、今の自分を伝えてあげたい。
撮影:yoshimi
取材協力:ほぼ日 手帳チーム