「事実婚」は法律上の夫婦ではないが、社会的には「夫婦同然」の状態にある関係を指す。
この事実婚は、二人が対外的に「私たち二人は結婚しているようなものです」と公言すればよい、ということでない。日本では、結婚(に近しい)関係であることを証明する公的な制度が存在する。本特集では、そうした手続きを行っているカップルのことを指すこととする。
「事実婚」の認定方法にはいくつかの方法がある。最もポピュラーなのは住民票への記載で、世帯変更届において続柄を「夫(未届)」、あるいは「妻(未届)」に変更する方法。さらに公正証書(公正役場で発行・認定される公文書)において「法律婚」に近い関係であることをまとめた契約書を締結する方法もある。
近年注目されている「パートナーシップ制度」も、LGBTQ+の人たちの事実上の結婚関係を認定する意味あいがあり、証明書として適用される。だがパートナーシップ制度は、国の制度ではなく市町村レベルで導入されており、認定方法や受けられるメリットは自治体によって異なるのが現状だ。
「事実婚」であることを証明できれば、公的な手続きがしやすくなるというメリットがある。
健康保険や厚生年金の被扶養者になれたり、生命保険等の受取人になったり、夫婦でローンを借り入れる場合などなど、「法律婚」と同様のサービスを享受できる。ただし、自治体や民間の保険会社によって受けられるサービスに違いがあるので、申請にあたっては細かく確認が必要だ。さらに公正証書などでしっかり事前に規定をしていれば、遺族年金の請求や受給、「事実婚」解消時の慰謝料請求や財産分与といった対応も可能となり、「法律婚」と同様のメリットが得られるようになってきている。
「事実婚」の夫婦がこどもを授かった場合、そのこどもは自動的に妻の戸籍に入り、妻の姓を名乗ることになる。夫の姓を使いたい場合は、出生届を出す前に「胎児認知」(自治体に提出する認知届)をする必要がある。「事実婚」の夫婦の間のこどもは、「法律婚」のこどもに較べて享受できるサービスが少ない。例えば、そもそも「事実婚」では、税金の配偶者控除や扶養控除などの税金の軽減は認められないため、そのこどもも(父親の)被扶養者として認定されない。さらに自治体から給付される児童手当も受け取れない場合もある。ただし、事実婚であっても税法上では扶養家族にはなれないが、社会保険上では扶養家族になれる。
今、「事実婚」を選ぶ人たちの最大の理由は、結婚後も「夫婦別姓」を望むケースだ。姓を変えることよる手続きの面倒さを避けたり、社会的キャリアを守るため、男女平等の観点からも精神的に対等でありたいという想いなどから「選択的夫婦別姓」を望む声は多い。しかし実際のところは、法制審議会が「選択的夫婦別姓」を盛り込んだ民法改正案を答申して四半世紀近く経つなど、法律として導入されるのはまだまだハードルが高い。今年の第5次男女共同参画基本計画の案から「選択的夫婦別氏」という文言も削除され、以前より状況は後退しているといえるだろう。
その他の理由としては、LGBTQ+の人々のようにそもそも「法律婚(同性婚)」が認められていないケースや、前妻、前夫との法律婚関係が解消されていないケースもある。
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