今、若者や海外からも熱い視線を集める、日本独自のナイトスポット「スナック」。その魅力に迫るべく、スナック初心者ライターが「入門ツアー」に参加した。
ガイドをしてくれたのは、前回スナック文化の魅力についてお話を聞いた五十嵐真由子さん。全国1300軒以上のスナックを飲み歩き、さまざまなスナックエンタテインメントを展開する「スナック横丁」を運営する。
21時、東京。
まだ夜を終えられない大人がスナックに求めるのは、癒しか酔いか、安心か刺激か。五十嵐さんも通う都内の2軒を巡ると、そのどちらも受け止める懐の深さが見えてきた。

まずお邪魔したのは、人形町のオフィスビル街に、隠れ家のように佇む「加悦(かえつ)」。建物に絡む、蔓の表情も素敵だ。五十嵐さんの分類では「ほっこり系スナック」であり、まるで実家のように落ち着ける、包容力が魅力とのこと。

迎えてくれたのは、二代目店主の香取龍介さん。柔和な笑顔に、こちらの緊張感もホッとほころぶ。前職は漆職人という異色の経歴の持ち主で、2025年に母親である先代・公子ママから店を引き継いだ。

店内はジャズの流れるおだやかな雰囲気。日中は喫茶としても営業し、公子ママがカウンターに立つそうだ。
カウンター8席の店内に、整然と並ぶ酒瓶。品よく出番を待つ漆器や、長崎との縁を感じるインテリアたち。その一つひとつが、店主の個性をさりげなくにじませているようだ。
飾られた器を「長崎のものですか?」と聞くと、「母が長崎の出身なんです」と香取さん。不意に始まり、それでいて自然な会話が嬉しい。そして早速、加悦の定番麦焼酎・長崎の「壱岐」で乾杯!

カウンターの向こうからは、食欲をそそる匂いが漂ってくる。マスターの手料理も、加悦の大きな魅力だ。「常連さんには、“歌える小料理屋”なんて言われることもあります」とはにかむ。にこやかに会話しながら、手際よく調理する姿にも惚れ惚れ。一皿、また一皿、絶妙なタイミングで提供される。このリズム感が実に心地良い。
「私とおしゃべりしたいお客さんもいれば、カラオケを歌いたい方もいる。そのどちらでもなく、しっぽりと飲んで帰る方も。ここでの過ごし方は、お客さんが決めること。思い思いに楽しんでいただければ」と香取さん。近ごろは、女性ひとりのお客さんも増えているという。

気づけばあっという間に予定の1時間が過ぎ、本当に実家に帰ったかのように肩の力が抜けていた。先代から続くおだやかで心のこもったおもてなしが、ここを「帰る場所」にしてくれる。
心もお腹も満たされて、ツアーは2軒目へと続く。ほろ酔いの身体に、ビルの間を吹き抜ける風が心地良い。
五十嵐さんに教えてもらった
How to enjoy「小規模ほっこり系スナック」初めての方には、まず「小規模ほっこり系スナック」がおすすめです。
・振る舞いや楽しみ方
「こんばんは」と一言あいさつして、あとは無理せずその場に身をゆだねれば大丈夫。ママとの会話をゆっくり楽しむのが醍醐味です。・コミュニケーションのコツ
ママが自然に会話をつないでくれるので、自分から頑張らなくてもOK。隣のお客さんとも、タイミングが合えば軽く会話するくらいでちょうど良い距離感です。・予算感
東京だとセットで3,000〜6,000円くらいが目安。最初に料金を聞いておけば安心して楽しめます。
加悦
住所:東京都中央区日本橋本町1-8-5
電話:03-3270-0065
時間:19:00~LAST
続いては、タクシーに乗って新橋の「しなの」へ向かう。

五十嵐さんいわく、一軒目の加悦が「ほっこり系」なら、こちらは「ディープ系」。路地を進んでいくと、いかにも「昭和レトロ」なビルに到着。階段を3階まで上り、重厚なドアを開ければ──赤いソファ、ベロア調の壁。

まさに、クラシック・スナック・スタイルとでも言おうか。「これぞスナック」な非日常感に、夜更けであることも忘れ気分が盛り上がる。
紀代子ママと幸子ママの親子二代で切り盛りする「しなの」。“大ママ”である紀代子ママはこの道約40年のベテランで、ひたすらにエネルギッシュ! お酒を片手に、軽快なトークがはずむ。その明るさに引っ張られて、こちらもついついお酒が進んでしまう。

仕切りのないオープンな空間のため、隣の席に座るお客さんと会話が始まることもしばしば。常連だという“みっちゃん”は、「新橋に来たら、しなのに寄らないと帰れないです。大ママの元気をもらわないと、1日が終わりません」とその魅力を語ってくれた。
初対面同士で会話が盛り上がったり、一緒にカラオケを歌ったり。そんなコミュニケーションも、スナックの醍醐味。その中心にいるのは、やはりママの存在だ。
ここに集う人々は、誰もがママを慕ってやってくる。だからこそ、酔いがまわっても秩序が守られる。それゆえ我々初心者も、安心して身を委ねることができるのだ。

さちこママは、「長くお付き合いのあるお客様も多くて、本当に良い方ばかりです。『しなのに来たら、安心して飲める』。そんなふうに思っていただけたら、嬉しいですね」と目を細める。
最近では若い新規客も増えているという。“昭和カルチャー”を愛する若者が、看板を見てふらりと訪問するケースもあるそうだ。「きっかけはなんであれ、この場所を気に入って通ってもらえたら」とさちこママは話す。

昭和の時代から息づく、古き良きスナックのかたち。いや、人が人に癒されるという今も昔も変わらないものがあるからこそ、この場所はいつだって魅力的なのかもしれない。
ここに来れば、元気がもらえる。良い人たちに会える。その確信が、またこの場所に夜をあずける理由になっていく。
五十嵐さんに教えてもらった
How to enjoy「繁華街ディープ系スナック」少し大人な空気を楽しみたい方におすすめです。
・振る舞いや楽しみ方
お店ごとの“流れ”や“空気”があるので、最初は少し様子を見るのがコツ。無理に目立とうとせず、その場のテンポに合わせると自然に馴染めます。・コミュニケーションのコツ
常連の方も多いので、いきなり深く入りすぎず、ママを通じて会話に入るのが安心です。距離感を大切にすると、逆にぐっと受け入れてもらいやすくなります。・予算感
5,000〜10,000円前後がひとつの目安。ボトルキープや追加オーダーで変動することもあるので、入店時に軽く確認しておくと安心です。
しなの
住所:東京都港区新橋3-2-10 小野ビル3F
電話:03-3508-9597
時間:19:30~23:30
五十嵐さんが企画に携わるスナックツアーは、今では全国約20カ所で随時開催中。都内だけでも、8つのエリアをラインナップしている。2〜3時間かけて、2軒のスナックをはしごするのが基本の流れだ。

通常は紹介がないと入れない「会員制」のお店へ行くことも大きな魅力だが、単にお店へ連れて行ってくれるだけでなく、最初の1杯の料金も含まれていたり、ガイドが撮った写真を後日送ってくれるのも嬉しいポイント。
今回のツアーでも、途中にスナックについて理解を深めるクイズコーナーが。五十嵐さんがMC役となり、一般のお客さんも巻き込んで、大いに盛り上がった。
「スナックでは、年齢も肩書きも出身も関係ないんです。誰もが素顔になって、本音をしゃべれる場所。最初は緊張していた参加者も、1時間すればすっかり盛り上がりますよ」と五十嵐さん。もともとは海外観光客向けにスタートした企画だったが、今では国内の若い世代の参加者も増えているそうだ。

ツアー予約ページはこちらから。
スナックに興味が湧いても、やはり初心者がいきなり訪問するのはハードルが高いもの。だからこそ、入門ツアーの存在はとても心強い。素顔になれる「東京の居場所」として、スナックに通う。その一歩を踏みだすきっかけに、気軽に参加してほしい。詳細は「スナック横丁」で確認を。
あっという間に時は過ぎ、気づけば予定していた3時間を超えて、真夜中近くまでスナックを楽しんでしまった。大いに笑い、語り、帰りの電車に乗り込むときには、名残惜しさを覚えるほど。
スナックという場を創るのは、そこに集まる「人」だ。時代がどれだけ変わろうと、人対人のやりとりが、やっぱりいちばんおもしろい。
東京の夜に、無数に存在するスナック。そのどこかに、肩の力を抜いて素顔になれる、自分だけの一軒がきっとあるはずだ。

五十嵐真由子 オンラインスナック横丁文化株式会社 代表
これまでに1300軒以上のスナックの扉を開いてきたスナックを愛するスナック女子=スナ女®。2020年5月、コロナ禍で大きな打撃を受けたスナックを支えるべく「オンラインスナック横丁」をリリースし、現在では世界90以上のスナックが加盟、国内最大級オンラインプラットフォームとなっている。また日本の文化コンテンツであるスナックによる“ナイトタイムエコノミー活性化”につながると信じ、2023年には「外国人向けスナックツアー」を開始、同年には「日本人向け初心者ツアー」もスタートしている。現在はテレビをはじめとする多くのメディアに出演、企業や地方行政のスナックイベント監修など、マルチな活動に邁進している。
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