毎日を充実させる東京のトレンド情報をお届け!
Harumari TOKYOのLINEをチェック

詳しくは
こちら

HOME SPECIAL あたらしい演劇の最前線-ONE MOMENT,ONE STAGE 日本のイマーシブシアター先駆者DAZZLEが追求する、作品世界への没入体験
日本のイマーシブシアター先駆者DAZZLEが追求する、作品世界への没入体験

VOL.7 日本のイマーシブシアター先駆者DAZZLEが追求する、作品世界への没入体験

2017年から日本でいち早くイマーシブシアターの制作に取り組み、作品を多数上演してきたダンスカンパニー「DAZZLE(ダズル)」。現在は東京駅近くで常設イマーシブエクスペリエンス「Anemoia Tokyo」、東京・白金にてイマーシブシアター「Unseen you」(5月6日まで)を好評上演中だ。なぜイマーシブシアターに取り組んできたのか。DAZZLEが考えるイマーシブシアターの魅力とはなにか。DAZZLEのメンバーであり、本公演の演出・クリエイティブディレクターを務める飯塚浩一郎さんに話を聞いた。

物語の世界に没入することがイマーシブシアターの真髄

現在、日本でも数々のイマーシブシアターが上演されているが、「DAZZLE」は国内でいち早くイマーシブシアターに取り組んできた、いわばパイオニア的存在。DAZZLEのメンバーでダンサーでありながら演出・クリエイティブディレクターを務める飯塚浩一郎さんは、なぜイマーシブシアターにこだわり、挑戦してきたのだろうか。

「DAZZLEは、ダンス作品でありながらストーリーを表現したり、オープンな場所で踊ったり、常に革新的な表現を模索してきました。そんななか、2013年にNYでイマーシブシアター『Sleep No More』を観劇し、新鮮な体験に感動したんですよね。ダンサーのみで常設の公演が成り立っている、というのも衝撃でした。同時に、DAZZLEが作ったらもっと面白いものができるのではないかと思い、イマーシブシアターに挑戦するようになったんです」

飯塚さんは「自分が考えるイマーシブシアターの唯一の定義は、観客が作品世界に『没入』していること」だと話す。

「シアターという言葉を真剣に考えれば、シアトリカルな作品世界がまず存在していて、そこに没入してもらうために様々な要素が構築されているということが、イマーシブシアターの魅力だと思っています。DAZZLEでは、物語をダンスで紡いでいくことで、非日常の作品世界を作っています。さらにお客様が自由に動き回って観ることで、その方だけの、その時だけの面白さが生まれると考えています」

また、演者と観客がコミュニケーションをとれることがイマーシブシアターの特徴といわれることもあるが、それが本質というわけではないと考えているという。

「謎を解明する仕掛けやダンサーとお客様のコミュニケーションを設計することもありますが、それらは目的ではなく、あくまでも作品世界に没入していただくための一つの手段に過ぎません」

ストーリーをダンスで表現し、想像力を搔き立てる

そんなDAZZLEの集大成ともいえる作品が、現在東京駅近郊で上演されている常設イマーシブエクスペリエンス「Anemoia Tokyo」だ。DAZZLEはこれまでもナレーションや字幕などを駆使して発話せずダンスによってストーリーを表現してきたが、さらに本作品はほぼ言語が使われないノンバーバルの作品となっている。従来のダンスパフォーマンスといえば、ステージ上で行われるスタイルが一般的。だが、DAZZLEは独自のスタイルを採用し、その“従来”を覆している。斬新ともいえるダンスのスタイルに、ストーリーを表現するカギがあるという。

「重要視しているのは、複数人で踊るショーのように見ていてわかりやすく心躍るダンスと、ストーリーや叙情的な部分を表現するコンテンポラリー的なダンス部分のバランスです。さらに即興の部分があると、その場でお客様がどこにいるか、どのように歩いてきたかなどの流れを汲んだ踊りが出てくるので、そこにたまたま居合わせた人との化学反応が生まれるんです」

また、ジャンルの壁を越えたオリジナルのダンスであることも大きな特徴だ。

「ストリートダンスは音を表現するダンスで、コンテンポラリーダンスはコンセプトや感情を表現するダンスだと思っています。DAZZLEではその両方を表現しようと、それぞれの要素を混ぜたオリジナルのダンスを踊っています。特定のダンスのカルチャーや背景を背負わずに、見る人にもイメージさせずに純粋に身体表現として感情やストーリーを表現できるのは、独自のダンスだからこそ。そのため様々な作品のテーマに合わせても違和感のないダンスとして、ストーリーを表現することができるのではないかと思います」

本作品ではストーリーを表現するのにセリフや劇中のナレーションは一切なく、冒頭に日本語と英語でナレーションが流れるのみ。このようなノンバーバル公演になったのは、DAZZLEのこれまでの試行錯誤が背景にあったという。

「そもそもDAZZLEでは、ダンスを突き詰めるだけではダンスが好きな人にしか面白いと感じてもらえないという問題意識を20年以上前から抱えていました。そこで、ただダンスをパフォーマンスするのではなく、ストーリーをダンスで表現することに挑戦。ストーリーを表現する際にダンサーはセリフを喋らず、言語表現についてはナレーションや字幕を使うといった試行錯誤を重ねてきました。言葉があると複雑な物語が伝えられますが、言葉がない方がお客様の想像力に委ねることができるんです。それぞれの魅力があると感じています」

アート・音響・照明を駆使して非日常の作品世界を演出

さらに、ダンスだけではなく、アート・音響・照明を駆使した演出にも力を入れている。今回は、クリエイティブスタジオ Whatever Co. のプロデュースのもと、メディアアートの分野を中心に国内外で活動する複数のアーティストとコラボレーションをして舞台美術を制作している。

「日常を忘れて作品の世界に入り込んでもらうための空間づくりはとても重要だと考えています。ただ、日本は芸術に関して諸外国と比べ市場規模も小さく、国や企業の支援も少ない。ですので、海外のようにリアルで豪華な美術を制作するという方向ではなく、コンセプトをメディアアート作品で表現し、空間や意識が広がるような演出にしました。また、海外からのお客様にも見てほしいという狙いもあるので、日本文化の精神を体現した美術を意識しています。枯山水や風車や海を表現したアートなど、日本の『見立て』の文化のようにアートや美術セットを使っているんです」

セリフなど声の表現はない一方で、音楽や音響は効果的に使用されているのも印象的だ。

「鳥の鳴き声や雨、風などそれぞれの環境をイメージさせるSEを丁寧に作ることは意識しています。音楽の聞こえ方も音響のスタッフの方が緻密に考えてくださっていて、数十個のスピーカーを駆使して音の出る方向まで徹底管理するなど、音響には非常にこだわっています」

観客が自由に動いて観るものを選ぶことで能動的に作品に入り込める

ダンスや空間表現だけではなく、物語の展開そのものにもイマーシブな体験を促す仕掛けがある。「Anemoia Tokyo」では、前半は各キャラクターの個性や目的を理解するシーンが展開され、後半はあちこちで同時多発的に行われているダンスを参加者一人ひとりが自由に歩き回って観ることができる。前半で気になったキャラクターを追いかけて一人のストーリーを見届けたり、気になった場所や人物を気の赴くまま観たりすることが可能だ。だが、その自由さゆえに、どのように鑑賞したらよいのか迷ってしまう場合もあるのではないだろうか。そこで、飯塚さんにおすすめの鑑賞方法を聞いた。

「前提として、同時多発的に異なる場所でダンスが行われているため、ストーリーをすべて理解することが必ずしも必要だとは思っていませんし、ストーリーをすべて理解できなくても『面白い』と思ってもらえるように制作しています。それでも、しっかりと物語を理解したいという方は一人のキャラクターを追いかけて観ていくことをお勧めします。

別の体験の仕方としては、作品空間で五感を使って色々な情報を得て、この世界はどのような世界なのかを感じてもらい、その時その時の感覚で、『キャラクターを追いかけてみたい』、『いろいろな場所で見てみたい』というように、刹那的に楽しんでもらう方法です。お客様が自分で何を見るかをその瞬間に判断するという好奇心や焦りなど、心の動きも含めて、イマーシブシアターの面白さだと思っています。自分が観客として体験する時は物語を追うよりも、その世界にいることの面白さやパフォーマンスによって忘れられない奇跡的な瞬間を作り出してくれるか、という視点で体験していますね」

また、「パフォーマンスを間近で観られるということもイマーシブシアターの魅力の一つ」だと飯塚さんは語る。

「現代はデジタルでのコミュニケーションが発達してリアルのコミュニケーションが減っているので、リアルに人間が存在してパフォーマンスをしている場所に自分がいるという場面はすごく貴重になっていると思います。“狂気”や“野性”は実在する身体でなければ表現できないと思いますし、言葉にできない感情もダンスであれば表現できると信じています。日常生活では絶対に得られない刺激を感じてもらえたらと思います」

飯塚浩一郎
コピーライター・クリエイティブディレクターであり、ダンサー・振付家。言葉と身体をクリエイティブの両輪に、広告・映像・舞台・ファッションなど様々な領域を自由に行き来して活動している。慶應義塾大学卒業後、株式会社博報堂を経て、株式会社DAZZLE設立。広告においてはカンヌ広告祭シルバー、アドフェストゴールド、TCC新人賞など受賞。
ダンスにおいてはダンスカンパニー「DAZZLE」のメンバーとして海外の芸術祭にも数多く招聘され、2017年のカザフスタン・アスタナ万博のジャパンデーでもパフォーマンスを行う。歌舞伎俳優であり人間国宝の坂東玉三郎演出の舞台「バラーレ」など、様々なアーティストとのコラボレーションも。2017年に廃病院を舞台にした日本初の本格的イマーシブシアター「Touch the Dark」を制作。以後、ワンピースとのコラボ作品「時の箱が開く時」、日本初の常設イマーシブシアター「Venus of TOKYO」などを制作し、体験型パフォーマンス「イマーシブシアター」の作り手としても注目されている。

Anemoia Tokyo
日程:2024年10月11日(金)〜常設
時間:エキシビションタイム 開場〜約25分/上演 約60分
平日・土曜(月曜・水曜休演) 16:00開演/18:30開演/21:00開演
日曜・祝日 13:30開演/16:00開演/18:30開演
場所:東京都千代田区大手町2-4-4(JR東京駅から徒歩7分)
https://maps.app.goo.gl/nDy5eJnPC2RHJETUA
Web:https://anemoia.tokyo/