焼きたてのパンの香りはどうしてこんなにも、人を幸せな気持ちにするのだろう。パンフォーユーが運営するパンの定期便サービス「パンスク」は、厳選した全国のパン屋から冷凍便で届く、新しいパンの楽しみ方を提供する。人気店のパンの味を自宅にいながら楽しめる。そんな“ちょっと幸せ”なサービスの発起人である、代表の矢野健太さんに、「パンスク」ならではのこだわりや、パンを通じて届けたい想いについて伺った。
パンフォーユーは、2017年に代表の矢野さんの地元である群馬県で立ち上げたスタートアップ企業だ。独自の冷凍技術やITを活用し、地域のパン屋と消費者をつなぐプラットフォームとして、「パンスク」をはじめさまざまなサービスを展開している。
パンの定期便サービス「パンスク」は、2020年にスタートして以来、利用者数は5万人、提携するパン屋は全国100店舗にのぼり、「パン好きが選ぶパンの宅配サービス」に関する市場調査(日本トレンドマップ研究所が2022年、23年に実施)では、2年連続1位を獲得している。
現在、「パンスク」の利用者のメインは4~50代の女性だという。
「もともとパン屋めぐりを趣味とされている人も、ある程度年齢を重ね、自宅にいながら、ゆっくりとパンを楽しめたらと思う人も少なくありません。そんな中で、定期的にさまざまな地域のパンと出会えるワクワク感は、パン屋めぐりの擬似体験として近いと感じてくださったようです」
提携するパン屋は、「パンスク」チームが日々全国の美味しいパン屋をリサーチし厳選。大切にする3つの基準を教えてくれた。
「ひとつは純粋に美味しいということ。これは僕だけの意見だとどうしても偏ってしまうので、チームみんなの意見を重視しています。2つ目は、作り手や店に魅力的なストーリーがあるということ。そうしたベーカリーは非常に多くて、パンと一緒に同封される『メッセージカード』にも反映しています。そして3つ目は、個店であるということ。できるだけチェーンではない、オリジナリティの高いベーカリーを紹介しています」
「冷凍パン」と聞くと、「パサパサしているのでは?」「パンの風味が落ちてしまうのでは?」と、味に不安を抱く人も多いのではないだろうか。しかし、「パンスク」で届いたパンを温め直してみると、香ばしい香りも、ふわふわもっちりとした感触も、まるで焼きたてのよう。その秘密は、独自の冷凍技術にあるという。
「一番の特徴は、特許取得済みのパン冷凍保存袋です。パンの香りと水分をしっかりキープし、焼きたてのパンのふんわりもっちりとした食感を失いません。また、焼成後粗熱を取ったらすぐにパックすることにより、外気に触れる時間が短くなり細菌の付着を軽減。美味しく安全に保存することができます」
そんな冷凍技術をがあってこそ実現したパンの定期便。「パンスク」の「パン旅コース」では、日本全国を旅するように、各地のパン屋から、厳選のこだわりパンが8個前後楽しめる。
「お届けする間隔は、2週間に1回、1ヶ月に1回、2ヶ月に1回から選べるようになっていて、ご自身のライフスタイルにあわせてご利用いただけます。一方、定期便の内容は、あえて選べない仕組みになっていて、そこには、旅先での偶然の出会いのようなワクワク感を味わっていただきたい、という想いがあります」(矢野)
また、2024年よりパン好きとして知られる俳優の木南晴夏さんがプロデュースする「キナミのパン宅配便コース」も、「パンスク」のコースとして新たに加わった。
「木南さんがおすすめすることで、これまで届かなかった層にもパンの魅力を伝えることができ、『パンスク』の世界を広げてくれる、心強いパートナーだと感じています」
「いい町には、いいパン屋がある」と、矢野さんは語る。しかし、店舗ありきのベーカリーは天候や立地によって売上が左右されやすく、エリア外の商圏を広げることが難しいという課題もあった。さらにコロナ禍には集客に苦戦する地方店も増加。そんな中、「パンスク」と提携したことで乗り切ることができたというベーカリーからの嬉しい声も多く届いたという。
「どうしても魅力的な街というと、都会の方が強くなってしまいがちですが、地方にも知られていない魅力はたくさんあります。そのひとつがパン屋。旅先にいいパン屋さんがあるだけで、ちょっと立ち寄ってみようかと楽しみができますよね。ただ、地方はどこも人口が減って、経営が厳しいという声を耳にしていたので、『パンスク』を通じて、いいパン屋さんを守りたいという想いがありました」
しかし、当初は「冷凍パン」に否定的なベーカリーも少なくなかったと矢野さん。
「やはりパン屋さん側としては、焼き立てを食べてほしいという想いが大きい。冷凍と聞くだけで、嫌がられることもありました。でも、実際に『パンスク』の冷凍パンを食べていただくと『これなら』と、納得してくれて。これをきっかけに、安定した収入を作るだけでなく、廃棄のロスを減らしたり、販路を広げたりといった課題解決につなげていただいてます」
ただ美味しいというだけでなく、パンを食べることで、まだ知らない土地の新たな魅力と出会えること、そして地域経済へ貢献できるということも、「パンスク」利用者の満足度につながっているのかもしれない。
ファッションに花、コーヒーにワインなど、生活に関わるさまざまなサブスクサービスが登場する中で、パンのサブスクの魅力とはどこにあるのか、改めて矢野さんに聞いてみた。
「朝から楽しみがあると、1日のモチベーションが上がりませんか?何かと慌ただしい朝にも、すぐに焼きたてのパンが食べられるというのは、やはり幸せだと感じます。利用者の中には、家族との会話が増えたという人もいました」
また、「パンスク」をきっかけに、旅の楽しみを増やす人もいるのだそう。
「有名なエリアばかりのパンをお届けしているわけではないので、『こんな場所にこんないいパン屋があったんだ!』という発見があることも、『パンスク』の魅力のひとつです。そうしたパン屋に、出張や旅行で立ち寄ったり、目的地として訪れたり、今まで知らなかった地域の魅力に出会えることが、知的好奇心を満たすことにもつながっているようです」
昨年、パンフォーユーとして、シンガポールに進出。ジャパニーズウイスキーが世界で注目されるように、日本のパンの美味しさやこだわりも世界に通用する魅力になると、矢野さんは期待する。また、「パンスク」としては、カタログとオンラインで注文できる「パンスクギフト」をスタート。新たなギフトの選択肢を提案する。
「コロナ禍も影響して、これまでギフトの定番のひとつだったお酒の需要が減り、ギフト選びに悩む人も増えてきました。そうした中で、ありきたりなお菓子ではなく、パンという選択肢を通して、朝や休日をより豊かに楽しくする体験を届けられたらと思っています」
「サブスク」となるとなかなかハードルが高い、という人も、まずは自分用のギフトとして、冷凍パンを“お試し”してみるのもいいかもしれない。
「これからも、パンの楽しみを知り、世界を広げるきっかけを、どんどん作っていけたらと思っています」
パンスク
https://pansuku.com/