毎日を充実させる東京のトレンド情報をお届け!
Harumari TOKYOのLINEをチェック

詳しくは
こちら

HOME SPECIAL 今日を愉しむモノゴト集め PLAY── “ど直球のクリエイティブの嵐”に心が震えた夜
PLAY── “ど直球のクリエイティブの嵐”に心が震えた夜

VOL.157 PLAY── “ど直球のクリエイティブの嵐”に心が震えた夜

「意味はわからないけど、心が動いた」そんな体験、最近ありましたか?「わからなかったな」は、ネガティブな感想として、ダメな感情として処理される。わからない=つまらない。そうならないように、現代のアートやエンタメは、どこか“初心者に優しく”“わかりやすく”を目指す傾向にあるし、細かく説明され、それを知ることがよしとされる。もちろんそれは大切な視点だし、開かれた芸術は歓迎すべきものだ。でも──難解でも、意味がわからなくても、「これは凄まじい」と肌で感じられる体験が、東京でどれだけ味わえるだろう。そんなことを最近ぼんやり思っていた私に、パリ・オペラ座バレエ団の『PLAY』は、衝撃に近い感動を与えてくれた。

文:稲垣美緒(Harumari TOKYO)

世界最高峰が仕掛ける“遊び”の舞台

『PLAY』は2017年にパリ・オペラ座で初演された、コンテンポラリーダンス作品。振付・演出を手がけたのは、新進気鋭の演出家であるスウェーデン出身のアレクサンダー・エクマン。

近年では、2024年パリ・パラリンピック閉会式の演出振付監督を務めたことでも世界中の注目を浴びている。
彼はクラシックバレエの修練を経て、遊び心と社会風刺、そして圧倒的な空間構成力を持ち味に、世界中で作品を発表している振付家だ。ユーモアと皮肉、そして空間を大胆に使ったコンテンポラリー作品で一躍世界に知られる存在に。水を使った舞台やバルーン、照明、音楽など、総合芸術としてのダンスを突き詰める“異才”だ。

この『PLAY』はまさにその真骨頂ともいえる作品。

演じるのは、1661年に設立されたパリ・オペラ座バレエ団だ。クラシックバレエの殿堂ともいわれる世界最高峰のカンパニーでありながら、古典作品の上演だけにとどまらず、現代振付家との協業にも意欲的。その幅広い表現力と技術の高さで、世界中のダンスファンを魅了し続けている身体表現の世界最高峰だ。

エクマンと同じくスウェーデン出身のミカエル・カールソンが手がける音楽も洗練されていてかっこいい。(観終わってから何度もSpotifyで聴いている。)
通常舞台下にいるはずのオーケストラピットは舞台上の高い位置におり、その演出もニクい。アメリカ出身のシンガー、カリスタ・“キャリー”・デイのソウルフルな歌声もこの舞台の魅力だ。

子どもの“遊び”、そして大人の“遊び”

子ども時代の“遊び”と、大人になってからの“遊び”──その対比を、二幕構成で描いたこの舞台。
開演前、ざわつく客席に、白パンツとグリーンのトップスを着た男性ダンサーが現れ、静かに踊り始める。その動きがやがて舞台上に広がり、幕が開くと白を基調にしたダンサーたちが次々と加わる。マイクで音を出す仕草や、それに応じる踊り。

宇宙飛行士、輪っかドレス、角をつけたダンサー(エクマンが創造した“フナーフ”)など、どこか夢のような登場人物たちが次々に現れる。自由で、予測不能で、音楽と身体の呼応にこちらの心も躍る。
中でも圧巻なのが、舞台上空から降り注ぐ6万個の緑のボール。大雨のように降りしきるボールが舞台を埋め尽くし、ダンサーたちがその中で戯れる。視覚と聴覚を一気に刺激されるような、没入感のある演出だ。

後半は一転、無機質なグレーの世界へ。無表情、反復、制服のような衣装。感情を封じ、社会に順応していく大人たちの姿が静かに、しかし鋭く描かれていく。

舞台の最後には、観客席に大きなボールや緑のボールがどんどん投げ込まれる。まるで運動会の大玉送りのように、客席が一体となってボールを送りあう。その瞬間、客席も舞台となり、すべての人が「PLAY」の一部になった。

言葉にできないほどの多幸感

“PLAY”は、「見る」のではなく「巻き込まれる」舞台だ。その本質は、おそらく「意味を説明しない」ことにある。観る人に正解を与えないからこそ、自分の中に何が湧き上がるかを感じるしかない。

実際、「これって何のメタファー?」と頭の中で問いながらも、それ以上にただただ目を奪われ、心を揺さぶられた。もちろんパンフレットには解釈が書いてある。でもそれを読んでなお、ただ「すごい」と思えた。最近、何でも“わかること”ばかり求めていた自分に気づいて少し恥じ、こういう“わからなさ”にこそ、芸術の真髄があるんじゃないかとすら思ったのだ。

シャネルがパリ・オペラ座のオフィシャルパートナーとしてこの公演を支えていたこともあり、客席にはシャネルを纏ったモデルやタレント、ダンサーたちの姿も。私も普段はあまり身に纏わないシャネルをクローゼットの奥から引っ張り出してきた。少し背伸びして、劇場に向かう。日常を越える楽しみもある。“美”が舞台にも観客席にもあふれた一夜だった。

この奇跡のような夜を東京にもたらしたのは、プロデューサーの柳井康治さん。
「THE TOKYO TOILET」プロジェクトや映画『PERFECT DAYS』を手がけた彼が、またひとつ、都市と文化を結びつける仕事を成し遂げていた。

少し背伸びして、世界最高峰のクリエイティブをど直球に感じるのは、文化都市・東京だからできること。きっと実現するだろう、東京での再演のお知らせが今から待ち遠しい。

「PLAY」アレクサンダー・エクマン/パリ・オペラ座(公演終了)

会場:新国立劇場・オペラパレス
日程:2025年7月25日(金)〜27日(日)
WEB:https://www.playoperadeparis.jp/
公式Instagram:@playoperadeparis_jp
公式X:@playopera_jp