湿度の高い梅雨の日も、照り返しの強い真夏日も、ひとつの場所に身を置いて、ゆっくり感性を呼び覚ましたくなる。展示を見て、建築を味わい、カフェでひと息つき、ミュージアムショップをのぞく。そんな1日こそ、この季節の贅沢な過ごし方なのかもしれない。東京の夏は、美術館が似合うなぁと、心から思う。そして今年は、迷わず国立新美術館をおすすめしたい。
文:稲垣美緒(Harumari TOKYO編集部)

現在開催されている「ピカソ meets ポール・スミス 遊び心の冒険へ」は、2023年にパリで開催され、ヨーロッパで話題を呼んだ展覧会が国際巡回展として東京へやってきたもの。
パリ国立ピカソ美術館のコレクション約80点を、英国を代表するデザイナー、ポール・スミス卿が新たな視点でキュレーションした。
会場へ足を踏み入れると、まず驚かされるのは空間そのものだ。

真っ白な展示室ではない。壁一面に広がる鮮やかな色彩、ストライプやパターンを取り入れた大胆な演出、思わず立ち止まりたくなるグラフィックの部屋が続く。
ポール・スミスらしいユーモアが随所に散りばめられ、展示空間そのものがひとつの作品のように感じられる。

青の時代の静かな肖像画から、キュビスム、陶芸、彫刻まで。ひとりの作家が生涯をかけてどれほど自由に表現を更新し続けたのかが、約80点の作品を通して見えてくる。
ピカソの軌跡を追う展示でありながら、教科書をめくるような堅苦しさはない。むしろ、「次の部屋には何が待っているんだろう」という高揚感が続いていく。
ピカソとポール・スミス。
時代もジャンルも違う二人をつないでいるのは、「自由につくることを楽しむ」という姿勢なのかもしれない。

ポール・スミス本人は、ピカソとの共通点について「彼は文句なしの天才だから、似ているところはあまりない」と笑いを誘った。
そのうえで挙げた共通点は2つだけ。「子どものような心」と「好奇心」。
目の前にあるものを、そのまま受け取らない。右から見たらどうだろう、左から見たらどうだろう、と視点をずらしてみる。
その積み重ねが、ポール・スミスの色鮮やかで斬新なデザインにもつながっている。
この展覧会で体験できるのは、作品を鑑賞すること以上に、「世界の見方を少し変えてみる」楽しさなのかもしれない。

つまり、この展覧会はアート好きだけのものではない。デザインやファッションが好きな人はもちろん、仕事で企画やアイデアを考える人にもきっと刺激になるはずだ。
「もっと自由でいい」というメッセージを、展示全体から受け取れる。
展示を見終えたら、ぜひミュージアムショップにも立ち寄りたい。展覧会限定グッズには、ポール・スミスらしい色彩やグラフィックを取り入れたアイテムも並び、思わず手に取りたくなるものばかり。
鑑賞後は、館内のレストランやカフェで展覧会をイメージした限定メニューを楽しみ、ミュージアムショップでオリジナルグッズを探すのも、この展覧会の醍醐味。
展示会場を出たらもう一度、国立新美術館内のアトリウムやカフェへ。

黒川紀章が設計した大きなガラスのカーテンウォールから光が降り注ぎ、曲線を描く空間に人が思い思いの時間を過ごしている。
展覧会を観に行くというより、この建築のなかで午後を過ごしに行く。
こんな場所があることは、東京という街の大きな魅力だ。
暑さを忘れ、建築に心をほどき、ピカソとポール・スミスの遊び心に刺激を受ける。この夏の東京で、そんな1日を過ごすのが愉しい。

ピカソ meets ポール・スミス 遊び心の冒険へ
会場:国立新美術館 企画展示室2E
会期:2026年6月10日(水)〜9月21日(月・祝)
開館時間:10:00〜18:00(金・土は20:00まで)※入場は閉館30分前まで
休館日:毎週火曜日
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