6月26日(金)に公開される映画『四月の余白』にて、元半グレで前科を持つ男・西健吾を一ノ瀬ワタルさんが、人の痛みが理解できない少年・澤海斗を上阪隼人さんが演じる。撮影以来、約1年ぶりに再会したお二人は当時、作品に携わる中で何を考え、それぞれの役柄にどんな思いを抱いたのか。作品のお話を聞きながら、今の自分たちの居場所についても語ってもらった。
家庭内暴力やいじめ、度を超えたイタズラから大人の手に負えず疎まれる少年・海斗は、暴力的な過去を持つ男・西と出会い、彼が運営する更生施設「みらいの里」へと入所する。しかしそこでもトラブルを起こし脱走。その最中に傷害事件で逮捕されてしまう。
心身ともに激しくぶつかり合う西と海斗、その周辺の人々を通して“人は変われるのか”という普遍的なテーマに迫る今作。まずお二人は、自身の役柄についてどのようにアプローチしたのか。

上阪隼人(以下、上阪):
決定をいただいた時、ただただ嬉しかったのですが、澤海斗という人物像について考えるうちに、これまで演じた役にはない得体の知れないヤバさを感じ、同時に“難しそうだな”とも感じて。正直に言って僕自身、海斗には共感できるところがない。だからこそ海斗のことをできる限り想像して挑まなきゃと思いました。
吉田(恵輔)監督からは衣装合わせの段階で「海斗はお金持ちじゃないスネ夫だ」って言われました(笑)。

一ノ瀬ワタル(以下、一ノ瀬):
スネ夫かぁ(笑)。
上阪:
だらしなくてお金もなくて、社会的に見ても弱い立場にいる。自分が弱いから、ジャイアンのような先輩たちと一緒につるんでばかりいて、先輩の後ろからうるさくヤジを飛ばす。虎の威を借る狐そのものですね。
一ノ瀬:
でも確かにあの不良たちの中で一番、タチが悪かった(笑)。一緒にいる先輩たちも悪そうに見えるけど、西健吾からすると「あの子が一番ヤバイな」っていう。
上阪:
監督から「口の中で舌をレロレロ動かしていて」とも言われました。目線は明後日の方向をぼーっと眺めていて、口は半開き。一見、地味で真面目そうに見えるのに、些細なことをきっかけに暴れ出すと歯止めが効かない。見た目では分からない悪さというか、監督が一緒に考えてくれたから演じられたけど、共感まではいきませんでした。

一ノ瀬:
それでいうと西健吾が取り組む活動や決意は理解できますし、「人は変われる」という姿勢にも100%共感していました。自分は過去に格闘技をやっていて、その稽古中に空手や柔道など、武道や柔術を通してヤンチャだった子供たちが更生していく姿を見てきました。だから自分でも人は変われると確信している。
一ノ瀬:
その上で監督からクランクイン前に言われたのが「今回、一ノ瀬さん演じる西健吾という役には登場人物みんなを全部、受け止めてほしい」ということ。だからどのシーンでもひたすら受け身に徹したつもりなんですが、この作品には「変われない人」も出てくるんですよね。
上阪:
そうですね、頑張っても環境的に変われないこともあるし、悪循環から抜け出すことって簡単じゃない。だから海斗のような人を見て「こんな奴らとは一緒に生活できない!」と思う人がいても当然だと思います。でもそんな存在がいるということを知ってもらえるだけでも意味があるというか。
一ノ瀬:
なんか上阪くんの話を聞いて、やはりただの不良役ではダメだったなと思いました。自分もこれまでたくさん不良の役を演じて来ましたけど、ステレオタイプの不良では成立しませんから、この作品は。上阪くん演じる海斗がいたからこそ、この作品が成り立っていると感じました。
上阪:
あれ、ありがとうございます(笑)。

劇中では更生施設「みらいの里」で出会い、一時的にだが生活を共にする西と海斗。では現在、東京で暮らす一ノ瀬さんと上阪さんにとっての“居場所”とは、どこなのだろう。
一ノ瀬:
自分は今、一緒に生活している8羽のウサギですね。
上阪:
そうだ、たくさんのウサギと一緒に暮らしているんですよね!
一ノ瀬:
そうそう、みんな家族なんですが本当に可愛くて。毎日「なんて可愛いんだ、お前たち」と話しかけながら癒されています。それこそ作品の中で更生施設「みらいの里」で暮らす子供たちに愛情を注ぐ西と同じくらい、自分もウサギたちに常日頃から愛情を注いでいます。家であり、ウサギたちが今の自分の“居場所”です。

上阪:
いいなぁ(笑)。僕はやっぱり家族もそうですが、今は友達ですかね。うちの母はシングルマザーで、周りには同じような境遇の友達が結構いるんです。
僕、小学生の頃に授業参観の日に自分家だけ親が来ないのを「お父さんは仕事で来ない」って嘘ついたことがあるんです。そんな話も曝け出して笑ったり、語り合える友達が高校になったらできました。友達は過去の話をしても否定的なことを言わないんですよね、受け止めてくれるというか。だから辛いと思った話や本音を話すと前向きな気持ちになれる。友達が僕の“居場所”です。
一ノ瀬:
友達とはどうやって遊んでる?
上阪:
僕は学生でいられる間は学生らしいことがしたくって、なんというかジブリ作品に出てくるような学生に憧れがあるんですよね。
一ノ瀬:
ジブリの学生!?
上阪:
そうです、だから学校が終わったら自転車で河川敷に行ってみんなで裸足でサッカーして、そのあとパンツ一枚で川に入ったり、木登りしたり。僕は「晴れてるし、外で遊ぼうぜ」ってタイプなので、そういう友達が多いですね。
一ノ瀬:
東京で! え、じゃあ家でネットゲームに集合するような子たちはいない?
上阪:
います、います!
一ノ瀬:
それでも外に行く上阪くん、健康だね!
上阪:
はい(笑)。でも最近、都内ではそうやって遊べる場所も減ってきているんですよね、公園ではボール遊びが禁止されたりして……。

それぞれの居場所について語る表情からは、劇中の役柄とはまた違うお二人の一面がのぞく。
では最後に、改めて映画『四月の余白』を観る人に対して思うこと、伝えたいメッセージとは?
上阪:
僕はこの作品を通して、海斗のような人のことを観る人や社会がどう考え、受け止めるのかがとても気になりますね。僕自身は人間誰しも、生まれながらに悪い奴なんてそうそういないと思っています。だから海斗もたったひとりで勝手に暴力的になってしまったのではなく、何かしらの環境やきっかけがあるんじゃないかと思ってしまう。そんな部分も含めて、この作品を観たあとに自分にとって「人は変われるのか」とか、キャッチコピーにもなっている「救えないが、見捨てない。」という言葉の意味はどういうことだろうと考えてもらえたら嬉しいです。

一ノ瀬:
そもそも難しいテーマを切り取った作品ですし、海斗が変われたかどうかも含めて、答えは提示されません。だからこそ、この作品をどう受け取るかは観る人次第なんです。ハッピーエンドと思うかバッドエンドと思うか、それすら変わってくると思うからこそ、僕も観た人に「どうだった?」って聞いてみたいです(笑)。
【一ノ瀬ワタル】

1985年佐賀県生まれ。2009年『クローズZERO Ⅱ』で俳優デビュー。『サンクチュアリ -聖域-』(23/Netflix)で演じた破天荒な力士役で世界を席巻。ドラマ『対岸の家事〜これが、私の生きる道!〜』(25/TBS)、『イクサガミ』(25/Netflix)、『インフォーマ』(25/ABEMA)、映画『炎上』(26)などに出演。
【上阪隼人】

2007年東京生まれ。中学二年生の頃より俳優活動をスタート。映画、ドラマ、広告やミュージックビデオなどで経験を積み、今作はオーディションを経て澤海斗役に抜擢された。映画『違国日記』(24)、『雑魚どもよ、大志を抱け!』(23)などに出演。
映画『四月の余白』
元半グレで元受刑者の過去を背負う西健吾(一ノ瀬ワタル)は、地方都市で全寮制更生施設「みらいの里」を運営していた。ある日、そこに人の痛みが分からず、常識なども通用しない暴力性を持つ少年・澤海斗(上阪隼人)がやって来る。
監督・脚本:吉田恵輔
音楽:世武裕子
出演:一ノ瀬ワタル、夏帆、上阪隼人、篠原 篤、占部房子、山﨑七海、和田 庵、髙田万作、松木大輔、小沢まゆ、パトリック・ハーラン、他●6月26日(金)新宿ピカデリーほか全国公開
公式サイト:https://shigatsu-yohaku.com/
公式X:@shigatu_yohaku
© 2026 N.R.E.
※吉田恵輔監督の「吉」は、正しくは「つちよし」
文:松倉和華子
撮影:小嶋淑子
スタイリスト:伊賀大介(一ノ瀬)、SHIKI(上阪)
ヘアメイク:星野加奈子(一ノ瀬)、尾口佳奈(上阪)
衣装:
【一ノ瀬】
パンツ/WAROBE(03-3868-0925)
シャツ・靴/スタイリスト私物
【上阪】
セットアップ/Re’all(Instagram)