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HOME SPECIAL 今日を愉しむモノゴト集め “剃り眉・丸髷”江戸時代の化粧から女性の心情を読み解く「初化粧」展
“剃り眉・丸髷”江戸時代の化粧から女性の心情を読み解く「初化粧」展

VOL.128 “剃り眉・丸髷”江戸時代の化粧から女性の心情を読み解く「初化粧」展

東京・南青山にあるPOLA(ポーラ)文化研究所化粧文化ギャラリーでは、江戸時代の通過儀礼としての化粧に焦点を当てた「初化粧」展を、2025年3月28日(金)まで開催中だ。ライフステージが大きく変化するときに「はじめて行う化粧」は、女性にとって嬉しいことばかりではなかったはず。そこにはどんな想いがあったのだろうか。美容や健康、女性の生き方などについて取材や執筆を続ける、編集・秦がレポートする。

文:秦レンナ(Harumari TOKYO)

ポーラの新たな発信拠点「化粧文化ギャラリー」

「ポーラ文化研究所」は1976年に設立して以来、化粧を「人々の営みの中で培われてきた大切な文化である」と捉え、化粧文化に関する資料の収集や保存、調査研究、公開普及などに継続的に取り組んできた。そうした資料や知見を発信する新たな拠点として、2024年5月にオープンしたのが、「化粧文化ギャラリー」だ。

地下鉄の青山一丁目駅から徒歩2分、外苑前駅から徒歩5分のポーラ青山ビルディングの1階にある「化粧文化ギャラリー」。入口では、貴婦人のパネルがお出迎えしてくれる。

施設内は、「Art」と「Books」の2つのエリアで構成されており、展示や書籍で化粧文化を伝えると共に、ギャラリートークやワークショップなどのプログラムも展開。化粧文化の多彩な世界と出会える場となっている 。

連想が広がる「Books」エリア。今回の展示をテーマにした、ユニークな選書に心躍る。

ギャラリーオープン初年は「はじまり」をキーワードに3つのテーマから化粧文化を紹介。一期は、江戸時代の婚礼化粧道具をメインに据えた「化粧文化研究のはじまり」、二期の「化粧のはじまり」では、元始の化粧に注目し、古代エジプトやギリシャなどの 多様な化粧道具を紹介した。そして続く3期は、江戸時代の通過儀礼としての化粧、中でも「剃り眉と丸髷(まるまげ)」に着目した「初化粧」を取り上げる(※)。

今回、特別にポーラ文化研究所の学芸員を務める渡辺美知代さんに、展示を案内してもらった。

(※)第一期、第二期の展示内容はHPでも閲覧できる

既婚女性の髪型とは? 美しい髷に隠された意味

「江戸時代の日本では、身分や階級、年齢、職業に応じて、化粧に多くの決まりごとが存在し、成人、結婚、出産といったライフステージの変化を機に、はじめてなされる化粧がありました。中でも、眉と髷は、象徴的です」(渡辺)

まず目を引くのが、さまざまな髷の模型(当時の髪型を約2分の1の大きさで再現した「結髪雛形(けっぱつひながた)」)だ。一見同じように見える髷も、こうして見ると、その形も、結い方も、全然違うとわかる。未婚か既婚かによって、またその時代の流行によっても髷の結い方を変えていたのだという。

上段が既婚女性を代表する髪型「丸髷」。手前は左から未婚女性の髪型「春信風島田」「燈籠鬢島田髷」。髷の途中を元結などで縛っているのが特徴。
代表的な丸髷

当時は、女性の髪型と、成人、結婚、出産といったライフステージには密接な関係があったと、渡辺さんは教えてくれる。

「江戸時代に生まれた日本髪は、数百種もあったと言われていますが、女性たちは好きな髪形を自由に楽しめたわけではありませんでした。年齢や身分、階級などによって多くの決まりごとがあり、その中でのおしゃれだったんじゃないかなと思います」

決められた社会のルールを守りながらも、「より素敵に」「より新鮮に」美しさを追求しようとした、当時の女性たちの努力や創意工夫を垣間見ることができた。

おめでたい「剃り眉」。女性の複雑な心情描く浮世絵も

江戸時代、庶民の女性は出産すると、 眉を剃り落として描かないまま過ごした。この習慣が「剃り眉」だ。そこには、「慎ましく、表情をあらわにしない」という心構えが込められていたという。つまり、眉化粧は若いうちだけの期間限定のもの。五渡亭国貞の『名筆浮世絵鑑』は、女性が真剣に眉化粧する様子を描いた作品だ。

《名筆浮世絵鑑》五渡亭国貞 1818~30年(前期に展示)

「当時も、今と同じようにカミソリで形を整え、眉墨で形を描いていたようです。口が半開きになっていて、真剣そのものという表情が今と変わらず、共感できます」(渡辺)

眉墨には、油煙、麦の黒穂、すり墨などを使っていたという。

三代歌川豊国・歌川国久(こま絵) 『江戸名所百人美女 芝神明前』安政5年 [後期展示]

眉を剃ることは、おめでたいことの印でもあるが、そこには不安もためらいもあったのではないかと渡辺さんは語る。

「眉は『顔の額縁』とも言われるように、顔の印象を左右する重要なパーツでもあります。『当勢三十二想 おかみさんと言われた相』という浮世絵は、和紙か何かを当てて、眉が無くなった顔を想像してみている様子が描かれています。『おかみさんと言われたいけど、自分の顔がどうなってしまうんだろう?』と少し不安に思っている、その心情が伝わってきますよね」(渡辺)

他にも、未婚・既婚女性の装いを描いた浮世絵作品や、眉にまつわる川柳、上流階級の眉化粧の紹介も。「眉化粧」をさまざまな切り口から考えることができる。

江戸時代後期に使われていた、紋の入った漆塗りの化粧道具も展示。象牙製のヘラなどを使って、眉を描いていた 。

女性たちの不安や抵抗、悲しみにシンパシーを感じて

当時の女性たちは、丸髷を結い、眉を剃るとき、どんな気持ちだったのだろうと思いを馳せると、決して嬉しさばかりではなかったのだろうなと思う。自分が自分でなくなってしまうような不安や、抵抗、悲しみ…。展示を通して、浮世絵に描かれる女性たちがとても身近に、体温を持って感じられた。

現代に生きる私は、好きな髪型と化粧を楽しみ、結婚や出産を自分で決めることのできる自由がある。それでも、女性として生きるということについて、おそらく江戸時代の女性たちと共有できる気持ちもあるに違いない。時代を超えたシンパシーに胸が熱くなった。

会期:2024年12月19日~2025年3月28日
毎週木・金曜日のみ開室(祝日・年末年始の場合は閉室)※木曜日は予約制
会場:東京都港区南青山2-5-17ポーラ青山ビルディング1F ポーラ文化研究所内
https://www.cosmetic-culture.po-holdings.co.jp/gallery/