障害のイメージ変容と福祉を起点に新たな文化の創出を目指すクリエイティブカンパニー「へラルボニー(HERALBONY)」。都内初の常設店舗を3月15日、東京・銀座レンガ通り沿いにオープンした。「HERALBONY LABORATORY GINZA(ヘラルボニー ラボラトリー ギンザ)」という名前の通り、ここを実験室として、来場者が作家や作品と出会うことを通じ、「障害に関する価値観が変わる」体験を提供するという。銀座の一等地から踏み出すへラルボニーの新たな一歩を取材した。
へラルボニーの原点は、双子である松田崇弥・文登の重度の知的障害を伴う自閉症の4歳上の兄、翔太がいたことにある。「自閉症の兄へ向けられる冷たい視線を変えたい」という身近な想いが、新たなビジネスを生み出した。
もともとクリエイティブエージェントで働いていた崇弥は、25歳のときに見た障害のある作家のアート作品に感動し、クリエイティブと福祉を結びつけることに可能性を感じたという。2018年、文登を誘って起業し、障害のある作家によるアート作品を織り込んだシルクネクタイを企画。老舗紳士用ブランド「銀座田屋」の協力のもと、商品化を実現した。
これがきっかけとなり、障害のある作家によるアートをプロダクト化する自社ブランド「ヘラルボニー(HERALBOBY)」をスタート。国内外の主に障害のある作家とIPライセンス契約を結び、アート作品を知的財産として収益を得る新たなビジネスモデルを構築し、「異彩を、放て。」というキャッチフレーズのもと、ディズニーやJALなど数々の企業とも業務提携し、確実にその思想を広げてきた。
「これまで、障害のある作家のアート作品は社会貢献やチャリティーの文脈で扱われることが多かったが、作家の才能やアートの価値を正しく評価し、届けるためにも、非営利ではないところに意味がある」と文登は語る。そこにあるのは、「障害や福祉に対する認識を変えたい」という想いだ。
そんなへラルボニーが、2025年3月15日、都内初となる常設店「HERALBONY LABORATORY GINZA」を東京・銀座レンガ通り沿いにオープンした。
「LABORATORY」という名前には、歴史がありながら、新たな文化を取り入れ革新を続ける銀座の街で、この場所を実験室として、異彩を放つ作家とともにへラルボニーの思想を発信する場にしたいという想いが込められているという。
文登は銀座を「障害や福祉から最も遠い場所ではないか」と語る。
「国内外の名だたるラグジュアリーブランドショップが軒を連ねる東京の一等地ともいえる街で、今まで障害のある方が普通に歩いたり買い物をしたりといった風景はあまり見かけなかったと思うんです。でも、『HERALBONY LABORATORY GINZA』があることによって、そんな風景が当たり前になるかもしれない。障害のある方を含め、多様な人が集い、混ざり合う空間、そして街を作ることが、障害や福祉へのイメージを変えることにもつながるはずです」
重視するのは体験だ。店舗の1階には、アトリエ併設型ショップとギャラリーを備え、プロダクトを販売するだけでなく、実際にへラルボニー契約作家の創作活動に触れられるアトリエスペースを設置。
また、ギャラリーではアートの展示販売に加え、今後さまざまな展示企画を予定している。
アパレルを含むプロダクトの開発や店舗運営に携わるのは、セレクトショップ「トゥモローランド(TOMORROWLAND)」より、2024年に参画したリテールディレクターの大平稔。
また、チーフキュレーターを、25年4月よりCAO(Chief Art Officer)に就任した金沢21世紀美術館の黒澤浩美が務める。
「障害者アートというレッテルを取払い、本当にフラットな状態で作品やプロダクツを純粋に見て、感じて、触れてほしいという思いがあります。その先に障害が知られ、へラルボニーの活動に興味を持っていただくことが理想です」と、文登。
崇弥は、「最終的には世界中のどの街に出店しても、驚かれないくらいのブランドになりたい」と話す。「ここからがスタートラインだと思っています」
現在、へラルボニーは、国内54の福祉施設、243人の作家と契約し、持続可能な事業を行っている。24年7月にはフランス・パリに子会社「HERALBONY EUROPE」を設立し、30年までに障害のある作家のアートライセンス事業を世界50カ国に拡大することを目標に掲げている。
また、銀座店に引き続き、3月31日には、岩手県盛岡市の中心部にある百貨店パルクアベニュー・カワトクにてヘラルボニーの旗艦店「HERALBONY ISAI PARK」をグランドオープン。ショップ、ギャラリー、カフェを併設した複合型の施設で、多様な人が行き交いくつろぐことのできる空間を目指すという。
東京・銀座、岩手・盛岡、そしてフランス・パリという、新たな3つの拠点から、へラルボニーは今後どんなメッセージを発信していくのだろう。
「国や文化によって濃淡はあれど、障害のある作家やその作品が正当に評価されていなかったり、正当な対価をもらえなかったり、といった課題は世界共通です。今後は、日本の象徴的な街である銀座、ローカルの盛岡、グローバル視点のパリの3つが互いに影響し合い、循環していくことで、より大きな規模での挑戦ができるのではないかと思っています」
異彩の作家たちが放つ輝きは、日本を越え、世界へと広がっていく。そのエネルギーの一端を目前にしたとき、これまで自分の中にあったレッテルなど、なんの役にも立たないと気づくはずだ。
HERALBONY LABORATORY GINZA
東京都中央区銀座2丁目5−16 銀冨ビル1F
https://store.heralbony.jp/pages/hlg