東京には、今、アジアが溢れている。ありとあらゆるジャンルにおける韓国人気は言わずもがな、特に食の領域では顕著だ。バインミーや魯肉飯から、タイのサラダや韓国スイーツまで。どの街角にもアジアの味があり、気づけば私たちは日常の一部としてアジア料理を楽しんでいる。ふと立ち止まって考えると、「旅気分を味わえる多国籍グルメ」以上のことが起きているのかもしれない。味覚だけでなく、器や空間、思想まで含めて、“今のアジア”は確実に東京の私たちの暮らしを変えはじめている。
文・稲垣美緒(Harumari TOKYO編集部)
そんな今のムードに対して、ひとつの確かな応答を見せる場所が、2025年8月、日本橋兜町にオープンした。
「CASICA KABUTOCHO(カシカ カブトチョウ)」——新木場に拠点を構える複合型スペース「CASICA」の2号店だ。

2017年に新木場で始まったCASICAは、「未知の感覚を可視化する空間“コンプレックス・スペース”。日本の古家具、古道具を中心に、作家物やさまざまな国の民藝、工芸品、さまざまな国の家具、工芸、アート、食などをジャンル横断で扱うユニークな場所だ。東東京ならではの倉庫を利用した広い空間に、厳選されたモノやコトが集まり、わざわざ行く価値のある“感性の目的地”として洗練された東京のオトナたちに認知されている。
新木場のCASICAについてはこちら:https://harumari.tokyo/51539/
対して兜町は、オフィスと文化が混ざりあう都心の交差点。再開発エリアとはひと味違い、インディペンデントなショップやカフェ、バーなどが静かに根を張るこの街に、CASICAがどう呼応するのか。

今回のCASICAのテーマは、「アジアの中の東京」。
台湾や中華圏、東南アジアの食文化や雑貨をそのまま再現するのではなく、今の東京のテンポや暮らしにあうよう再構築しているのが特徴だ。

たとえば「可視化飯店」では、蒸し料理や点心を軸に、アジア各地の料理が、ランチ・喫茶・ディナーでまったく違う表情を見せる。日本を含むアジア全域を、ひとつの大陸と捉え「Cross Continental Cuisine(クロス・コンチネンタル・キュイジーヌ)=大陸を横断する食」をテーマにしている。

ランチは、薬膳カレーや点心セットといった、身体にやさしいクイックミール。午後は台湾の茶人・謝小曼(シェ・シャオマン)氏の指導と選定による台湾茶を自分で淹れて楽しむ。二煎以降は、茶器を使って自身でお茶淹れをするのだ。器に触れ、香りの余韻を味わい、ゆったりとした午後のひと息は、忙しい街のリズムに余白をつくる。夜はナチュールワインや紹興酒とともに、40種以上の点心や蒸し料理を気軽にシェアできる。




これらは“アジア料理の新店”というカテゴリに収まりそうで、少し違う。安さやエキゾチックさではなく、「思想」や「技法」に重心がある。料理だけでなく、器や空間にも、静かにアップデートされたアジアの美意識が宿っているのだ。
併設されたショップスペースもまた、ただのセレクトショップではない。
アジア各国の民藝的なプロダクトが並んでいるが、よくある“おしゃれな民藝”で終わらないのがCASICAらしさだ。

ラオスの円卓、雲南のれんげ、ミャンマーの漆器、インドの石皿……。一見すると「エスニック雑貨」のように見えるが、選ばれているのは“部屋に置いたときに、しっくりくる”ものばかり。サイズ感、色味、素材の風合い——すべてが、日本の暮らしの中で生きることを前提にしている。
そこに加わるのが、現代作家によるアートピースや、CASICAオリジナルの茶器など。新木場の拠点でも好評だった“暮らしと感性を地続きにする目線”が、都心のスケールで展開されている。
東京で暮らすことは、情報に囲まれ、スピードに追われることでもある。だからこそ、ただ“刺激”を与える場所ではなく、自分の感覚を“調律”する場所が必要で、CASICA KABUTOCHOは、そんな空間だ。
忙しい日のランチに、整った蒸し料理をさっと食べる。午後の喫茶で、香りと茶器を楽しみながらひと呼吸する。週末に器や家具を見て、暮らしを少し変えてみよう。
東京という都市の面白さは、スピードと多層性が共存する中に、文化や思想が静かに交差する場所があるということ。「CASICA KABUTOCHO」は、まさにその交差点のひとつとして、兜町にすっと馴染みながら、確かな存在感を放っている。
CASICA KABUTOCHO
オープン日:2025年8月5日(火)
※可視化飯店のディナー営業は、8月13日(水)から住所:東京都中央区日本橋兜町5-1兜町第1平和ビル
営業時間:
【CASICA KABUTOCHO】
11:00-19:00【可視化飯店】
11:00-14:00(LO13:15)
14:00-17:00(LO15:30)
18:00-22:00(LO21:00食事 21:30ドリンク)
※日曜日・祝日は21:00閉店定休日:月曜日・第2/4火曜日
※月曜日が祝日の場合は営業、翌火曜日が休業HP:https://casica.tokyo/
Instagram:https://www.instagram.com/casica.tokyo/