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創作とは何か?「ひとり」にこだわる又吉直樹の作家性

VOL.4 創作とは何か?「ひとり」にこだわる又吉直樹の作家性

作品にはその作者を記すクレジットという概念がある。作品がさまざまな立場の人によって創られたものなら、クレジットは複数の人の名前が綴られる場合もある。その点で、又吉さんには彼なりのこだわりがあった。

島崎:

『人間』の中で、主人公の作品にほかの誰かが創作に関わっていたのではというシーンがあります。主人公はその「自分で創った」ということに固執をするのですが、表現活動っていろいろあると思うんですね。又吉さんの小説はもちろんご自身で書かれているのですが、舞台であれば、書いた脚本に対して役者や演出家といった人々が関わることで完成する作品もある。個人で作る作品と、チームで作る表現、どちらが好きですか?

又吉:

個人で作るほうが好きですね。もちろん、小説であっても自分以外誰も関わらないということはないですよ。例えば、僕の編集者の方々はすごく優秀な「壁」として、すごく正しい音で正しい角度でパスが返ってくるみたいな。そういう人の存在は重要ですけど、創作という意味ではひとりでやっている。

島崎:

ですね。

又吉:

コントを作るときも同じで、話し相手として聞いてくれる人が必要で、そういう人と一緒に作るじゃないですか。「一緒に作った」って言ってるけど、95%俺やなって思うことが多いんですよ。

島崎:

発案して、磨きをかけたのは又吉さん自身だと。

又吉:

でも、一緒に作ったことになっていて。もう片方が「あの部分は結構苦労した」とか言ってると、「いや、あの部分は俺が夜中に散歩しててあの踏切の前で思いついたことなのに、何でお前が苦労したことになってんねやろ」と(笑)。

島崎:

あぁ、ありますねー。そういうの。僕は広告業界だったのでテレビCMの仕事が多かったんですけど。打ち合わせに1、2回出た人が「このCM、オレやりました!」ってネットにアップしたりとか。

又吉:

若いときは、それで悔しい思いをすることが多くて。昔ユニットライブをやってて、みんなでネタ出しするものなんですけど、先輩から「お前時間あるやろ」って感じで、ほとんどひとりで徹夜してネタを作っていたんです。それで、1週間前くらいにみんな会議に集まってきて、「又吉がボケのコント多いな」みたいな感じになって、みんな僕の取っていくんですよ(笑)。これだけは守りたかった、俺がやりたかったやつを、俺より演技力のある先輩とかが取っていって本番を迎えるんですよ。そんでみんな打ち上げで楽しそうに酒飲んで、「◯◯さん最高でした!」みたいな感想があって、何やこれ、すごい惨めやなって(笑)。

島崎:

若いとき同じような経験をすごくしました。僕は惨めとまでは思わなかったですけど、又吉さんの場合は、惨めだって思っちゃうんですね。

又吉:

又吉:思っちゃうんですよ(笑)。うちの相方もそういうところあるんですよ。相方がようやく大人になってきて「うちは又吉がネタを作ってくれています」って言ってくれるようになったんですけど、それまでは「ふたりで作ってる」って絶対にどの取材でも言ってて。取材で「あのネタはどうやって生まれたんですか?」と聞かれても「僕が又吉に『もうお前さ、ジョン・レノンの格好しろよ』って言ったんです」みたいな。「うわっ、コイツが考えたことになってる! コイツが却下したネタをオレが『一回やらしてくれ』って言ってやったネタなのに!」って(笑)。うわ、怖みたいな(笑)。

島崎:

綾部さん…(笑)。

又吉:

ただ、うちの相方は素直なんでそのことを指摘すると「無意識だった」って。あぁ、無意識やったんやって。

島崎:

罪な無意識ですね。

又吉:

ただただモテたい、尊敬を集めたいっていう意識が強いんで、それを指摘したら「ごめんごめん!」って感じやから。僕は「それは誰が作ったものなのか」ということにすごくこだわるんですけど、みんなそこにこだわってないんですよね。そこの温度差があるから、ならひとりで作ったほうがええわって。

島崎:

そうですね。商業作品ともなればプロデューサーやらディレクターやら演者がいて、必ずしも誰かひとりが作った作品ということにはならないし、僕自身はそういうときに関わったすべての人が「オレ、作りました!」って言っていいと思うし、そういうチームでの創作のほうが好きなんですけど。そういう点では、又吉さん自身が作家であることにこだわりを強く持ってらっしゃる。だとすると、小説はベストな感じがします。

又吉:

小説書くじゃないですか。僕が見た世界を描いてるじゃないですか。その僕が描いた場と現実で同じ場所にいた人が「俺との思い出を金に変えてる」って言い出したんですよ(笑)。

島崎:

!(笑)

又吉:

同じ時間を過ごした中でも、そのときに誰がどういう風に捉えてどういう風に発表するかっていう表現やのに、そういう風に解釈するんねやって。もちろん、みんながみんなで作った時間やみんなが一緒に生活してる風景を描いてるわけだから(その人の発言は)正しいんですけど、それはちょっと傷つきますよね。完全にひとりで創作するっていうのはかなり難しいですよね。どういう風に考えるかですけどね。

島崎:

そうですよね。例えば芸人さんの中でも放送作家や脚本家として書かれる方などいろいろな人がいますが、又吉さんは小説のほうが自己集約的にできるんですね。

又吉:

そうですねぇ。愚痴みたいになってあれなんですけど、後輩に相談されて僕が設定とか出してコントやるじゃないですか。スベったら僕謝るんですよ、「ごめんな」って(笑)。なぜなら自分が作ったっていう意識があるから。でもたまに先輩の構成作家さんとかって、番組でその人が作ったコントをやって盛り上がれへんかったりしたら、なんかちょっと…「お前らちゃんとせぇや!」みたいな(笑)。いや、作ったのアンタやろって(笑)。上手くいったら俺のお陰、失敗したらお前らのせいっていうか…。

島崎:

(笑)。そうやって自己肯定していかない不安になってしまう方なのかもしれないですけど。

又吉:

それはあるかもしれないですね。

島崎:

そういう意味でも、又吉さんはお強いなって思います。

又吉:

強いというか、恥ずかしいんですよ。自分が作ったものがイマイチやった場合とか、人にあげたものがハマらんかったときに、すっごい恥ずかしい。「ごめんな」って申し訳ない気持ちに自然になるはずなんですけどね。

島崎:

他人のせいにするにしても、自分を責めるにしても「そう思いたい」っていうのと「そうだ」と断定するのは違う。本気で他人に乗っかる人もいるし、逆に過剰に自分を責めてしまう人も。『人間』の登場人物たちにも双方の側面を読み取れる気がしました。

又吉:

主人公は割と自分の責任を重めに感じてしまうじゃないですか。それもあるし、ちゃんと正しく「0の目盛り」で適切にいろんなことを感じわけられる人ってなかなかいないかもしれないですね。

「うまくいったら自分のもの、失敗したら他人のせい」。そういう振る舞いをする人はどこの世界にもいる。そこは人間の浅はかさであり、ある意味で人間らしさと感じでいる部分でもある。けれど又吉さんは自分の作品にこだわり、良いときも悪いときも真正面から受け止める。それって本当に強い精神だし、そのこだわりがオリジナリティの源泉になっているのだと思う。最後は「肩書き」について。

スタイリスト:オク トシヒロ
ヘアメイク:中村 兼也(Maison de Noche)
写真:岡祐介
撮影協力:MONKEY GALLERY D.K.Y.

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人間

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公式WEB: https://ningen-matayoshi.jp/