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HOME SPECIAL 東京30min.アート 写真と言葉の物語。その罠にハマり始める30分/『ソフィ カル-限局性激痛 原美術館コレクションより』
写真と言葉の物語。その罠にハマり始める30分/『ソフィ カル-限局性激痛 原美術館コレクションより』

VOL.4 写真と言葉の物語。その罠にハマり始める30分/『ソフィ カル-限局性激痛 原美術館コレクションより』

自らの失恋体験による痛みとその治癒を、写真や言葉などで紡ぎ作品化したソフィ カルの『限局性激痛』は、1999年に原美術館で開催され大きな反響を呼んだ。そして今年、2020年末に閉館が予定されている同美術館でフルスケールの展覧会として復活する。

ソフィ カルは、「視覚」や「認識」をテーマに、写真と言葉による物語性の高い作品を発表するフランスの女性現代美術家。

写真、付随する言葉、それらが羅列されることによる物語性という点では、とても親しみやすい表現形式だが、作品で取り上げられる題材は衝撃的だ。

「パリからヴェニスまで、見知らぬ男性を尾行する」、「生まれつき目の見えない人に、これまでに見た最も美しいものは何かと質問する」-などなど常軌を逸した行動で、人間の観察や記録をし、見ること、世界を認識すること、といったテーマを探求し続けている。

ソフィカル近影Photo:Jean-Baptiste Mondino

そのソフィ カルが日本滞在をきっかけに起きてしまった失恋の体験をベースに作品化された個展『限局性激痛』が、1999年の初開催以来、20年ぶりにフルスケールで再展示されている。この伝説的展覧会の魅力について原美術館館長・内田洋子氏に話を聞いた。

原美術館館長 内田洋子氏

「日本に滞在した3か月が直接的な理由となって体験した手痛い失恋というのがテーマということで、とにかく最初の発表は日本で、しかも原美術館で発表したいという本人の意向もあり、この『限局性激痛』がここで初めて展示されました。ソフィの場合、基本的にはフランス語か英語のテキストと写真で作品が発表されるんですが、この作品に関してだけは、最初に日本語のテキストで作品が出来上がりました。しかもこの原美術館に展示する前提で、ソフィ自ら美術館に足を運び、作品のサイズやプロポーションを決めていきました。」(内田氏・以下同)

Sophie CalleExquisite Pain, 1984-2003© Sophie Calle / ADAGP, Paris 2018 and JASPAR, Tokyo, 2018

展示の構成は大きく2つ。人生最悪の日までの出来事を最愛の人への手紙や写真で綴った第一部、そして、失恋の日からはじまり、その不幸話を他人に語り、代わりに相手の最もつらい経験を聞くことで、自身の心の傷を癒やしていく様子を美しい写真と布に刺繍された日本語のテキストで綴った第二部の構成だ。

「『不幸』や自分が経験した『失恋』がテーマになっていますが、こうした『なぜ傷つくか』という人間心理は、少なくとも20年経っても色あせないのだなと。だから彼女の主題は、どの時代でも人の心に迫ってくるものだということを改めて感じました。ただ、前向きに解決する『癒し』の方法というのが、なかなか他の人はやらないエキセントリックな方法ではありますが(笑)」

Sophie CalleExquisite Pain, 1984-2003© Sophie Calle / ADAGP, Paris 2018 and JASPAR, Tokyo, 2018

『限局性激痛』は、もちろん30分ではすべてを体験しきれない。しかし、美術館に足を運び第一部を見始めると、最初の30分、いや10分とたたないうちにソフィ カルが紡ぐ写真と言葉の物語に引き込まれていく。

その第一部では、日本滞在時の出来事を、母国で待つ彼に手紙を送るような形式になっている。写真には、「70days to unhappiness(不幸の日まであと70日)」というスタンプが押され、見る側は「69days」「68days」と、カウントダウンするように彼女の出来事を追っていく。内田氏は、それを「罠にハマる」ような体験だと語る。

Sophie CalleExquisite Pain, 1984-2003© Sophie Calle / ADAGP, Paris 2018 and JASPAR, Tokyo, 2018
Sophie CalleExquisite Pain, 1984-2003© Sophie Calle / ADAGP, Paris 2018 and JASPAR, Tokyo, 2018

「ソフィは、日本滞在の3か月間、アーティストとして助成金をもらって過ごしているんですが、作品を追うと、結局は彼のことばかりを考えている彼女が見えてくる。アーティストとして生きようという女性が、私生活に引きずられている、という心情を感じながら、さらに我々はこの時間を失恋までの3か月として受け止めていくわけです。まさに罠にハマったような感覚で彼女を追っていく」

さらに第二部では、『癒し』のために、他人の不幸話を聞いて回り、その衝撃的な内容やソフィ自身の痛みを刺繍の日本語テキストで綴っていく。

「ソフィカル―限局性激痛」1999-2000年原美術館での展示風景© Sophie Calle / ADAGP, Paris 2018 and JASPAR, Tokyo, 2018

「ソフィ自身、さらに他人の日常やプライベートな部分まで“のぞき見”をして、人間の内面を暴いていくという表現に、一瞬たじろいでしまうかもしれません。最初はそこを頑張って彼女のゲーム、彼女の仕掛ける罠にハマってみるということをおすすめしたいですね。実は、色々と巧妙に仕掛けられている表現で、非常に赤裸々に、ある意味痛いくらい正直に自分の心を曝け出しているので、共感できる人は痛みを共有できるし、『もう絶対に嫌だ』と二度と付き合う気にならない人もでてくる。そうした心を動かされること自体が、罠にハマっていくということなんです」

そして、ソフィカルの作品は、紡がれる写真や言葉にアーティストとしての美意識を感じさせながらも、どこか、鑑賞者目線、というかある種の親しみがある。

「実は、ソフィは、そもそもアーティストになろうとして写真を撮ったり、メモを書いたりしていたわけではないんです。本人の言葉を借りると『自分が生きていくのに、どうやって生きていったらいいか分からない。では、他の人はどう生きているのかを自分なりにリサーチしてみよう』ということで、他人への尾行を始めました。何もすることが無い私、誰にも会う予定が無い私、今日何をすればいいかわからない私…。尾行を一種のゲームとして、ほとんど儀式のように毎日続けたんですね。ひたすら自分がいかに生きていくかという模索の中で生まれてきた表現だったんです」

写真と言葉という馴染みやすいスタイル、失恋の痛みと癒しという普遍的なテーマ、一方で、彼女のエキセントリックな行動とその物語を通じて暴き出される人間の内面。ソフィが仕掛ける物語の罠にハマり、心を揺さぶられる圧倒的なアート体験。ぜひこの機会に美術館に足を運んで欲しい。

「ソフィカル限局性激痛」原美術館コレクションより展示風景©Sophie Calle / ADAGP Paris and JASPAR Tokyo, 2018Photo by Keizo Kioku

ちなみに、この物語にはしっかりとした「結末」がある。それは第二部の展示を俯瞰で見ればすぐに気付くので、ぜひソフィの提示した彼女なりの癒しの結末を体感して欲しい。

そしてさらに今回は、ソフィにゆかりのあるアーティストの作品も展示されている。また、エリザベス・ペイトンによる某人気フィギュアスケーターの美しい肖像画も見ることができる。そちらももう一つの楽しみとして覚えておこう。

MORE INFO:

【期間終了】「ソフィ カル ─ 限局性激痛」原美術館コレクションより

エリア: 東京 / その他
住所: 〒140-0001 東京都品川区北品川4丁目7−25
電話番号: 03-3445-0651
営業時間: 月曜日 11:00〜17:00
火曜日 11:00〜17:00
水曜日 11:00〜20:00
木曜日 11:00〜17:00
金曜日 11:00〜17:00
土曜日 11:00〜17:00
日曜日 11:00〜17:00
祝日 11:00〜17:00
定休日: 休館日:月曜(2月11日は開館)2月12日
公式WEB: https://www.haramuseum.or.jp/jp/hara/exhibition/382/