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東京30min.アート

西洋美術から先端アート、そして街中の壁画まで。東京のあらゆるアートを’30分で’気軽に楽しむためのコツを、ナビゲーターが伝授。今まで知らなかった、アートの新たな魅力に出会う、30分の旅。

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叫んでいるのは誰?初来日の《叫び》(1910年?)を30分で楽しむ方法/『ムンク展』

ムンク展ー共鳴する魂の叫び

あらゆる絵画のなかでも、トップクラスの知名度を誇る作品のひとつが、ムンクの「叫び」だろう。その超名作がいま、来日中だ。やっぱりあの迫力は、生で観るとぜんぜん違う。そして画家・ムンク自身の人柄も知れる興味深い内容。

そんな大人気の展覧会を、はじめての人でも30分で楽しめる方法を紹介しよう。

『ムンク展』は上野公園内の「東京都美術館」で、2019年1月20日(日)まで開催中。「叫び」のほか、約60点の油彩画に版画などを加えた約100点を展示している、100%ムンク作品の展覧会だ。

行くならばやはり、「叫び」を存分に楽しんでもらいたい。そこでまずは、ムンクについて事前知識を持って行こう。

実はこじらせ男子だった?

フルネームはエドヴァルド・ムンク。1863年にノルウェーで生まれた。不安や孤独など、近代的な人間の感情を強烈なまでに描き出した独自の表現は、20世紀における表現主義の潮流の先駆けに。そこには、病弱だった幼少期に母や姉など身近な家族の死を体験したことなどが影響している。

それゆえに、性格は繊細。一方で強い信念ももっていた。そのひとつが、表現者は孤独でなければいけないというポリシー。結果として独身を貫くが、ある意味“こじらせ男子”だったといえるかもしれない。
エピソードとして、交際していた彼女から結婚を迫られ、気持ちの相違からもみ合ううちに銃が暴発し、ムンクの左手中指が撃ち抜かれるという事件があったり。この場合は彼女がこじらせたのかもしれないが。

自画像に見る、ムンク

ミステリアスにも思えるムンクは、「私の芸術は、自己告白である」と述べていると同時に、自画像も多数残している。「ムンク展」でも展示されているので、ぜひ注目したい。しかも描かれた年を追うごとに変化が見られ、彼の心象をうかがい知ることもできるのだ。たとえば、次の2枚を比較しただけでも明らかな違いがわかる。

「地獄の自画像」は指を失った1902年の翌年ということもあってか、自身の表情が険しく描かれている。また、背景には炎と影。ここにもムンクの苦悩が表現されているといえるだろう。

一方で、「自画像、時計とベッドの間」は晩年の作品。明るい色彩で、筆遣いも軽やかだ。ムンクの状況としては、自身の全作品をオスロ市に遺贈する遺言状を作成したころで、終活の思いが時計やベッドに表れているといえるかもしれない。

ムンク作品にインパクトがあるワケ

自らの内面を、作品を通して “さらけ出す”画家だった、ムンク。

ムンクの作品は、鮮やかな色彩を用いて、単純化した形をはっきり描くことが大きな特徴である。それが視覚的なインパクトや、伝わりやすさ、わかりやすさにつながっているとも言える。その手法は、代表作「叫び」でも顕著だ。

3つの「!?」で深める、ムンクの「叫び」

ハリウッド映画のキャラクターや表現の参考にされるなど、あまりにも有名な作品だが、ぜひ知ってほしい3つの「!?」がある。

1つめ:叫んでいるのか、いないのか!?

「叫び」におけるムンクの手稿によると「私は自然をつらぬく叫びのようなものを感じた」とある。このため、「描かれている人物=ムンク自身」とも考えられ、人物が耳をふさいでいることから「叫んでいるのは人ではなく自然」とされている。
しかし、この人物は口を開けてもいるため、叫んでいる、声を発して自然の叫びに共鳴しているとも考えられる。

結論、各人の見方に委ねるしかないようだ。

2つめ:「叫び」は実験であった!?

今回の来日作品は一般的に用いられるカンヴァスに油彩という技法はなく、厚紙にテンペラ(顔料を、卵と糊で練った絵の具)と油彩で描かれている。カンヴァスより絵の具が定着しづらく保存性も悪いにもかかわらず、あえて厚紙で独自の表現を模索したのかもしれない。

ときに斬新で、実験的な表現方法を用いることもあったムンク。それはつまり、絵画の研究者であったともいえる。

3つめ:「叫び」はいくつか存在する!?

「叫び」は複数点あり、現存する絵画は4つ、そして版画も存在する。制作時期もそれぞれ異なる。今回お目見えするのは、後年の作とされているもの。

「叫び」の出展はその1点のみだが、「叫び」と同じ構図を採用し、人物を物憂げな男に置き換えた「絶望」を観ることができる。

その違いを比較できるのも「ムンク展」の醍醐味だ。

2019年、何か新しいことを始めるパワーが欲しい。正月明け、ガツンと刺激が欲しい。そんな時は、年はじめのムンク展をおすすめしたい。

取材協力:東京都美術館 ムンク展担当学芸員 小林明子氏
取材・文:中山秀明
作品はすべてオスロ市立ムンク美術館所蔵 All Photographs ©Munchmuseet