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東京30min.アート

西洋美術から先端アート、そして街中の壁画まで。東京のあらゆるアートを’30分で’気軽に楽しむためのコツを、ナビゲーターが伝授。今まで知らなかった、アートの新たな魅力に出会う、30分の旅。

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‘犬猫押し’の30分で気分が前向きに/『ピエール・ボナール展』

オルセー美術館特別企画 ピエール・ボナール展

アートの世界への第一歩として、なじみのある犬や猫に注目してみよう。作品との距離が一気に縮まるはずだ。第1回はフランスの画家ピエール・ボナールの世界へ。

ピエール・ボナール(1867‐1947年)は日常生活に溶け込むような、やさしいタッチで描いた犬や猫、その他の動物の作品を数多く残している。

2015年にオルセー美術館で開催されたボナール展では51万人を動員し、同館における企画展入場者数の歴代第2位を記録したという。その大回顧展となる「オルセー美術館特別企画 ピエール・ボナール展」が、東京・六本木の国立新美術館で2018年12月17日(月)まで開催中。

仕事帰りの30分間で、ボナールの動物愛あふれる絵画を存分に楽しむ鑑賞法を、担当学芸員の米田尚輝さんに聞いた。

米田尚輝さん

 

絵画に隠れている犬猫を探して楽しむ

――ボナールはそんなに動物が好きだったんですか。

はい。1匹の猫と4匹の犬を飼っていたと言われています。実際、生涯で残した2,300点あまりの絵画のうち700点ほど、すなわち約3分の1の作品になにかしらの動物を描き込んでいます。ジュール・ルナールが書いた子ども向けの動物図鑑「博物誌」にも、ロバやニワトリ、クジャク、シカ、ウサギなどのイラストを寄せており、動物への偏愛がよくわかります。

ただ、たくさん動物を描いてはいますが、それを主として全面に描いた作品は少なく、特に動物に意味を持たせていたわけではないようです。端的に動物が好きだったんでしょうね。

――30分で回るとして、「これは絶対に押さえるべき」という動物の作品を教えてください。

まず個人的に好きな作品は「ル・カネの食堂」。ル・カネは南仏の小さな町。ここをボナールはとても気に入って家を購入しました。この作品には猫がいますが、画面に溶け込んだように描かれています。色彩がとても美しいですよね。

「セーヌ川に面して開いた窓、ヴェルノンにて」という作品も、一見したところ何が描かれているのかわからない、けれどもよく見ると動物たちが隠れているという、ボナールの作品の特徴がよく表れています。思わぬところに動物がいるのでぜひ探してみてください。他の作品もどこに動物が隠れているか考えながら鑑賞するとおもしろいと思います。

「日本かぶれ」のボナール、浮世絵風の作品にも……

――ボナールの犬や猫の作品を見ると、日常生活にいつもそばに犬や猫がいたことが想像されます。

ボナールは動物もよく描きましたが、26歳のときに出会い、後年妻となるマルトも好きなモチーフとしてたくさん描いています。「猫と女性 あるいは 餌をねだる猫」(本稿1枚目の作品)のように、マルトと一緒に動物を描いていることも多い。1日に何度も入浴するお風呂好きのマルトや他の愛人をモデルにした裸婦像も、時間の許す限りぜひ鑑賞していただきたいと思います。

また、ボナールは19世紀末のフランスで活動していたポール・ゴーギャンを師とするナビ派の一員ですが、日本美術を愛好し、「日本かぶれのナビ」の異名を取っていました。浮世絵に影響されたとみられる装飾的な作品のなかにも動物がたくさん出てくるので、お見逃しないように。

本展覧会は、油彩、素描、版画・挿絵本、写真などさまざまなジャンルの作品を130点超、そのうちの約30点は初来日となる作品で構成しています。動物を描いた作品の他にも、巨大な風景画など見どころはたくさん。この機会にぜひボナールの世界をのぞいていただきたいと思っています。

年の瀬を意識しだす今日この頃、仕事に人生に考えることがたくさんあってモヤモヤしがち。そんな時に、動物たちを生活の一部として描いたボナールの作品を見れば、なんだか心がじんわりとあたたかくなり、「一回、考え込むのをやめて気楽にいこう」と気づかせてくれそう。

難しく考えなくていい。たった30分、かわいい犬猫を通して異国の世界を想像するだけで、がらっと前向きな気分になれる美術展なのだ。