看板猫と店主ののんびりした空気は、店にも客にも伝染する。そこにあるのは新宿のど真ん中なのに、昔ながらの人情溢れる街の喫茶店の風景だった。
新宿のど真ん中に、不思議な場所がある。その名も「カフェアルル」。
店主の根本治さんが1978年に始めた喫茶店だ。絵画の収集の趣味があった根本さんが「それを飾るために喫茶店を始めた」というゆるーいはじまり。
「だからこだわりとか、想いとか、聞かれると、照れくさいっていうか、恥ずかしいっていうか。なんとなく始めたんだよね」と、なんともゆるいはじまりである。
店内は絵画のみならず、たくさんの猫グッズや、お客さんやスタッフや看板猫の写真で溢れる。
「もうさ、変なやつもいっぱいあるし、ぐちゃぐちゃだよね(笑)。でも、お客さんが置いてくれって言うからさ。全部置いてたら、こういう風になっちゃったんだよな」
笑顔で毒づく根本さん。確かに、常連なら何か持って来たくなる、「家」のような気持ちにさせる店だ。
実際にお会いするとわかるのだが、根本さんはチャキチャキの江戸っ子であり、「人情派」。この店は看板猫がいるという、猫ブームの現代においてなんともコンテンツ力の高い喫茶店。だがそこにも人情派・根本さんならではのストーリーがある。
「飲み屋街のシャッターに猫が挟まってたんだよ、もう家じゃ飼いきれないから、どうせなら店で飼おうかなって思っただけ。特別猫が好きってわけじゃなくて、本当は犬派なんだけど(笑)」
根本さんに助けられた初代の看板猫「五右衛門」は、亡くなるまでの19年間、立派に看板猫の任務を果たした。
決して人に媚びず、でも人懐っこい五右衛門はたくさんのお客さんに愛された。
「五右衛門が死んじゃって、もう猫を飼う気は全く無かったんだけど、お客さんがみんな寂しがってねぇ。いろんな人に言われているうちに、こいつらの面倒見てくれないかってお客さんに頼まれたんだよ」
それが、現在の看板猫「次郎長」と「石松」だ。
寝たり、起きたり、店の中を行き来したり、二匹は自由。看板猫というよりは「当たり前にそこにいる」。猫を飼っている人にはわかると思うが、そうそう、猫は勝手にそこにいたり、いなかったりする存在なのだ。
根本さんは何気なく始めた喫茶店をここまで続けてきた理由を、「ただ楽しいから」と言う。「いろんな人が来て、好きに過ごして。喋ってさ。なんか街の喫茶店として機能し始めたら、楽しくてね」。
従業員には若いスタッフから年配の方まで幅広く、客層もそうだ。
「最近は猫目当てで来てくれる人も増えたよ、なんか、みんな猫が好きなんだねぇ」
猫を目当てに来たお客様には、多少お眠であろう猫を抱えて連れていき、触らせてあげている。勉強しているお客さんは、そっとしておいてあげる。目線を上げたお客さんには、話しかける。まるで親戚の家に来たような、根本さんの声かけがじんわり沁みる。
よくある「猫カフェ」ではなく、ここは喫茶店に、ただ猫がいる。
お客さんも、必要以上に猫に構ったり写真を撮ったりするのではなく、「ただそこに猫がいる風景」の中で思い思いの時間を過ごしている。
おしゃべりをしたり、コーヒーを飲んでいて、ふと気づくとソファに猫たちが現れたりする。
常連さんだけでなく、一見さん、老若男女問わず、話しかけてくれる根本さん。
取材中、視覚の弱いお客さんが一人で来店中だった。「猫、触ります?」なんてスタッフが話しかけたり、退店の際は「外まで一緒に行くので捕まってください!」など、初めてアルルに来店したらしいそのお客さんに、店全体が優しい気持ちで向かっていた。とてもアルルらしい、象徴的な光景。この人情味溢れるところに、人も猫も吸い寄せられてきたに違いない。
看板猫に会いに、というよりはこの猫と根本さんのいる「人情派カフェアルルワールド」を味わいに、ぜひ足を運びたい。
エリア: | 東京 / 新宿 |
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住所: | 〒160-0022 東京都新宿区新宿5丁目10−8 |
電話番号: | 03-3356-0003 |
営業時間: |
月曜日 11:30〜22:00 火曜日 11:30〜22:00 水曜日 11:30〜22:00 木曜日 11:30〜22:00 金曜日 11:30〜22:00 土曜日 11:30〜22:00 日曜日 11:30〜22:00 祝日 〜 |
定休日: | 日曜日、正月 |
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