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2019.8.10

週末、無心で没頭できる時間を愉しむ。仏像彫り体験で心身ともにリフレッシュ

Makers’ Base Tokyo

旅行に行ったり、ショッピングを楽しんだり……。東京に暮らして疲れた心と体を、週末を使ってリフレッシュしている人も少なくないはず。とはいえ、多くの人に囲まれた空間では、かえって疲れてしまったりすることもあるだろう。そこで、今回は、新たな方法として、無心で没頭することでリフレッシュできると話題の「仏像彫り」をご提案。最近仏像に興味があったというイラストレーター・eryさんに体験してもらった。今度の週末は、彫刻刀を片手に身も心もリフレッシュしてみてはいかがだろう。

今回訪れたのは、都立大学駅より徒歩1分にある「Makers’ Base Tokyo」(メイカーズベーストウキョウ)。100を超える機器や道具がところ狭しと並ぶ、元工場を改装した空間だ。ここでは、木工、金工、陶芸、縫製、テキスタイル、デジタル加工など、さまざまなものづくりに没頭できる。さらに、専門スタッフの指導による本格的なワークショップも実施しており、予約をすれば誰でもものづくりに挑戦することが可能だ。

今回紹介する「仏像彫り体験」もそのワークショップのひとつ。指導いただくのは彫刻師の林雄一さんだ。「あらゆるものを彫刻に」をモットーに、仏像を彫る楽しさを伝えている。週に1〜3回程度開催しているというこの「仏像彫り体験」は毎回大人気で、我々が参加した回も満員。初心者でも気軽に参加できるワークショップでありながらも、リピート率が高く、なかには4年間で17体を彫ったというツワモノもいるという。

いざ、仏像彫りスタート!

左から、観音像、護法神像、迦楼羅像、観音菩薩像。

今回、はじめて仏像彫り体験に挑戦するeryさんは、比較的初心者向けの観音像からスタート。ちなみに参加回数によって、観音像→護法神像→迦楼羅像→観音像菩薩像と、シルエットが複雑なモチーフになり、作業工程の難易度も徐々に上がっていくという。4回目以降は、自分の好きな仏像をモチーフにすることもできるそうだ。

「観音菩薩像は帽子(宝冠)にももうひとつの像がいるんですね。ひとつひとつシルエットが違って見ているだけでもおもしろい!」

早速、ワークショップがスタート。まずは塗香を手にすり込み心と体をお清め。刃物でケガをしませんようにとの願掛けの意味も込めて念入りにすり込むeryさん。今回使用する木材は、なんと樹齢200年以上という檜。それをノミや木槌、彫刻刀、カッターなどを駆使して彫り進めていく。

「檜は彫った部分がツルッとなめらかになるから、学生時代に版画で使っていた素材とは違って、スルスルと彫れて気持ちいいですね」。

林先生の見本を参考に、アタリの印をつける。作業の第一歩ではあるが、林先生曰く「この作業の良し悪しが全体のバランスを決めるんです」とのこと。

「イラストレーターという職業柄、鉛筆を使った作業は得意。見本と照らし合わせながら、慎重に描かないと……」。

次はいよいよノミの出番! 木槌を使って檜をパカッと三角柱に割き、おおまかな形体を彫り出していく。リズミカルな木槌の音と、心地よいヒノキの香りがリラックスした空間を演出するのか、eryさんは、ほかの参加者と会話を弾ませながら作業に取り組んでいた。

「話を聞くとリピーターの方が多くてびっくり。みなさん口を揃えて言うのは、時間を忘れて没頭するのが楽しいということ。私も知らないうちに夢中になっていました」。

おおまかな形体を彫り出したら、彫刻刀とカッターを使って彫刻作業。eryさんを見ていると、少し難しい作業に見えたが、ワークショップ自体が少人数制なので、困っていると林先生がすぐに助けてくれる。林先生から「eryさんとてもいい。上手だね!」とお褒めの言葉をもらい、思わず笑顔がこぼれるeryさん。

「大人になると褒められることが少ないから、林先生の言葉が励みなります。このワークショップの人気の秘密は、林先生のトークにあるのかも!?」

あとは完成を目指してひたすら彫る、彫る、彫る、彫る……。彫りの最後の工程は、仏像の顔。思い描く顔を描いたら、平刀で鉛筆の線のみを彫っていく。最も繊細な作業だ。林先生いわく、「仏像は、彫った人と顔が似てくるんですよ。親子でのご参加の場合、彫った仏像の顔も似ることが多いです」。なんとも不思議な仏像の世界……。

「私の彫った仏像の顔は、優しく微笑んでいるみたい。友だちと一緒に来て、出来栄えを比較するのもおもしろそうだな」。

彫る作業が終わったら、着色をする。木の隙間にとの粉をたたき、最後にオイルの順番に重ねて塗る。オイルを纏った仏像は、凹凸や木目がよりハッキリと出て、立体感UP。

「オイルをたっぷり塗ったら、一気に仏像らしくなって、なんだかご利益も増したみたい(笑)。いよいよ形が出来上がって、愛着が湧いてきました!」。

そして、仏像の裏に願いごとを書いて完成! 筆に墨を取り、字を間違えないよう丁寧に一文字ずつ書くeryさん。そんな彼女の願いごとは「売れっ子になりたい…!」。

「イラストレーターとしてもいち人間としても、注目される売れっ子になりたいですね。ってこんな欲望ばかりでいいのかな(笑)」。

完成した仏像は、目に留まりやすい高い場所に置いてあげるといいとのこと。「eryさんのご心願も叶うと思います!」と林先生。またまたお上手なひと言(笑)。

最後はお決まりの集合撮影でフィニッシュ! 気がつけばすでに5時間が経過していた。「大きい声では言えないけれど、ものづくりにこんなに没頭したのは久しぶりかも」とeryさん。林先生も「仏像を彫る前と後では、みなさん顔つきが変わるんですよ。eryさんも表情がスッキリしてますね!」とご満悦。

時間を忘れものづくりに没頭する。日常生活ではなかなか味わえない経験が詰まった「仏像彫り体験」の後、eryさんがイラストを描いてくれました。

「面倒なことは忘れて、仏像を彫ることだけに集中することで、こんなにリフレッシュするとは思わなかったですね。普段はイラストレーターとして平面で表現しているので、立体的な作業も新鮮でした!」と、eryさんは語ってくれた。週末は仏像彫りを通して自分の世界に没頭し、ストレスや消極的な感情を解放。スッキリとした気持ちで翌週を迎えてみてはいかがだろうか。

 

[プロフィール]

(左)ery

1994年生まれ。東京都在住。日本大学芸術学部デザイン学科卒業後、イラストやグラフィックデザインを中心に活動。クリエイティブユニット「ニュージュゴン」のメンバーでもあり、ライターの伊藤紺とともに活動の幅を広げている。

(右)林 雄一

1976年生まれ。東京都出身。大学時代から「あらゆるものを彫刻に」をモットーに活動。彫刻家であり、仏師でありたいという思いから、自らを「彫刻師」と名乗っている。現在は仏像を彫る楽しさを伝えるべく、週に1〜3回ほどワークショップを開催している。

 

取材・文:長浜優奈

撮影:山本恭平