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HOME SPECIAL 今日を愉しむモノゴト 人生のヒントを小説に学ぶ。困難なときに思い出せば前を向ける厳選4作
人生のヒントを小説に学ぶ。困難なときに思い出せば前を向ける厳選4作

VOL.29 人生のヒントを小説に学ぶ。困難なときに思い出せば前を向ける厳選4作

小説には人間が人生で直面するあらゆることの情報が詰まっている。今日は、ふいに人生の困難に直面したとき、乗り越えるヒントを与えてくれる小説を紹介する。寂しい思いをしたとき、不安になったとき、戸惑ったとき…これを読めば、しばらく余韻に浸ったあと、きっと前を向ける。

目次

    ① 自分の中に感じた「これだ」を信じればいい。白石一文『ほかならぬ人へ』

    白石一文『ほかならぬ人へ』(祥伝社刊)

    人には直感というものがある。確かな根拠があるわけではないけれど、なんとなく「これだ」と思う何かが存在する。誰かを好きになるときもそう。言葉では説明できないけれど、“何か”によって導かれるような感覚になることがある。白石一文の直木賞受賞作『ほかならぬ人へ』は、その“何か”を「におい」として描いている。
    主人公は上司の「におい」に導かれるように、挫折や困難を乗り越えて、ともに人生を歩み始める。妻になった上司には不幸が待っているが、夫婦ふたりで過ごす幸せで穏やかな時間は、何物にも代えがたい価値があることを教えてくれる。自分が感じた「これだ」という何かが、人生を切り開いて幸福な瞬間を運んでくることがある。そう思えば、誰に理解されなくとも、自分の感覚を大事に生きていける気がする。

    ② 胸の中の「大事な言葉」が原動力になる。西加奈子『サラバ!』

    西加奈子『サラバ!』(小学館刊)

    西加奈子の直木賞受賞作で、「僕」の人生が上下巻(文庫版は上中下の3巻)でたっぷりと綴られている本作。父の赴任先であるイランで生まれ、大阪、エジプトと移り住み、帰国してから東京へ移るなど、さまざまな舞台で出会いと別れを繰り返して「僕」は成長していく。人生に出会いと別れはつきものだが、この主人公はとりわけその経験が多い。だからか、どこか人間関係を淡白にとらえ、人と深くは付き合おうとしない。そんな姿勢がのちに彼を孤独感で包むのだが、それまでの彼の人生を考えると、同情と共感をせずにはいられない。幼い頃から変化の激しい環境に身を置き、両親の不和から離婚に至るまでの経緯を間近で見ていれば、誰だって人と深く関わることに及び腰になってしまうだろう。だからこそ、子どもの頃に出会った唯一の友と呼べる人と交わした言葉を胸に踏ん張る姿に、心から応援したくなるのだ。もし、辛いことや苦しいことがあったとき、自分の胸の中にある「大事な言葉」が前を向かせてくれる。そして、自分にもそんな言葉がきっとある。そう思える作品だ。

    ③「誰もが幸福になる」道はきっとある。辻村深月『朝が来る』

    辻村深月『朝が来る』(文藝春秋刊)

    晩婚化に伴い高齢出産や不妊治療が増える一方、15歳未満の若年層による妊娠・出産も年間数十件に上るといわれる。本作は、そんな対極の立場にいる人間同士を描いた物語だ。子宝に恵まれないアラフォーの夫婦と、望まない妊娠をしてしまった14歳の少女。特別養子縁組という制度が双方をつなぎ、子どもの命と暮らしを守るのだが、少女の心には大きな傷をつけてしまうことになる。誰かが幸せになる一方で誰かが不幸になるという構造は、生きていれば誰もが感じる世の中の不条理だろう。でも、誰もが幸福になる道筋もちゃんとある、ということを本作は気づかせてくれるのだ。物語の最後に少女が浴びたような希望の光が、きっとすべての人にも注がれる。今苦しくても、きっといつか心から笑顔になれる朝が来る。そう勇気づけられる作品だ。

    ④どんな人だって「この世にいていい」存在だ。朝井リョウ『正欲』

    朝井リョウ『正欲』(新潮社刊)

    朝井リョウの作家生活10周年記念となる書下ろし長編の本作。人間が生まれ持った「性癖」「性的指向」のかたちはさまざまで、そこに正常も異常もないのではないか――そんなことを考えさせられる作品だ。
    多様性が礼賛され重視される時代。まだまだ途上ではあるけれど、LGBTQへの理解は着実に広がっている。結婚観や働き方、生き方そのものが従来の枠組みに縛られることなく自由になってきている。しかし、これらの多様性は、自分たちが想像し得る範囲内の多様性でしかないのではないか? 自分たちが想像し得ない、想像の範囲外の多様性は無視し排除してしまっているのではないか? そんな気づきを与えてくれる。
    物語には、水に性的な関心を持つという人物が登場する。「あってはならない感情なんて、この世にはない」。このメッセージが、生きづらさを感じているすべての人の胸に温かく染み渡ることだろう。