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HOME SPECIAL 今日を愉しむモノゴト 落語の魅力にとっぷり浸かる。初めてでも気軽に楽しめる傑作落語4選
落語の魅力にとっぷり浸かる。初めてでも気軽に楽しめる傑作落語4選

VOL.24 落語の魅力にとっぷり浸かる。初めてでも気軽に楽しめる傑作落語4選

落語を聞いていると、ただ笑えるだけではなく、自分の存在が肯定されているような気がしてくるのが面白い。不思議と聞いた後にはなんだか心が軽くなっている。今日はそんな落語の魅力を、初めて落語を聞く人でも感じられる噺を紹介する。ぼーっと聞いて、くすりと笑うひととき。

目次

    ① 怪談噺かと思いきやゴリゴリの滑稽噺『お菊の皿』

    夏といえば怪談である。「いちまーい、にまーい…」と皿を数える怪談を、なんとなく聞いたことのある人も多いのではないか。古典落語の演目『お菊の皿』は、その「皿屋敷」という怪談が下敷きになっているのだが、展開がどんどん滑稽になっていくので聞き始めと聞き終わりの感情のギャップが激しくて面白い。
    お菊という女中の幽霊が夜な夜な井戸端に出て、恨めしそうに皿を数えていく様はたしかにぞっとする。9枚まで数えるのを聞くと狂い死にすると言われていて、怖いもの見たさに見物に来た人は早々に逃げ帰ってしまうのだが、お菊はとても美しく、それが評判になって見物人は日に日に増えていくのだ。ここからがおかしくなる。怪談噺かと思って聞いていたら、どんどんエンタメ感が増してきて、しまいには「いやいや、どういうことだよ」「お菊何してんの?」と突っ込みたくなるような展開になる。特に、柳家喬太郎バージョンはお菊のはじけっぷりが楽しいので聞いてほしい。
    噺家によって同じ演目でも味わいが変わってくるのも落語の魅力のひとつだ。夏にぴったりの噺を柳家喬太郎の話芸で楽しんだら、きっともう「次は誰の噺を聞こう」と落語の魅力に取り憑かれていることだろう。

    ② 人間の“業”そのもの「色恋」にまつわるトラブルを描いた『紙入れ』

    画像:iStock.com/Kavuto

    「落語とは、人間の業の肯定である」とは七代目立川談志の有名な言葉だ。人間の愚かさやどうしようもなさなんかを全部「人間ってそういうもんだよね」と肯定してあげるのが、落語という芸術なのだと。そんな“業”の代表格といえるのが「色恋」だろう。古典落語の演目『紙入れ』は、古今東西誰もが一度は経験するであろう男女の修羅場を滑稽に描いた噺である。
    新吉という青年が、奉公先の旦那の留守中におかみさんに誘惑されてしまう。こんなことはよくないと思っていたところ、突然旦那が帰宅して大慌て。なんとかその場はおかみさんの機転で脱出できたものの、部屋に紙入れを置き忘れていたことに気づく。この紙入れにはおかみさん直筆の手紙が入っていて、旦那に見つかれば浮気(未遂)がバレてしまう……。
    面白いのは、新吉の焦りとは対照的なおかみさんの落ち着きっぷりだ。そして、旦那の滑稽なまでの能天気さ。もし自分が新吉だったら。おかみさんだったら。旦那だったら――。それぞれの立場になって聞いてみると、「ああ、自分もそうなるかな」と感じてきて全員が愛らしく思えてくる。「人間ってそういうもんだよね」としみじみ感じて、「自分もこれでいいんだな」と思える。

    ③とにかくだらしなくてどうしようもない親子が憎めない『親子酒』

    画像:iStock.com/Wako Megumi

    これまた“業”の代表格といえるのが「酒」にまつわることだろう。酒を飲む人なら、一度は酒で失敗したことがあるのではないか。『親子酒』は、大の酒好きの親子のどうしようもなさを滑稽に描いた古典落語の演目だ。
    商家の大旦那が、息子の酒癖の悪さを心配して「ともに禁酒をしよう」と持ちかける。この時点で、息子だけに禁酒させるのではなく自分も一緒に禁酒するという姿勢に、愛を感じてほのぼのする。しかし、2週間もしないうちに大旦那は我慢できなくなる。息子の留守中ついに酒に手を出してしまい、久しぶりの美酒にしたたかに酔っ払ってしまうのだ。すると息子が帰宅するのだが、息子は息子でベロンベロンに酔っ払っていて……。
    このあとのやり取りが『親子酒』の見せ場なのだが、やはり噺家によって味わいが全然違う。しかし共通するのは、本当にどうしようもないこの親子に不思議と共感して、憎めなくて愛らしく思えてくるところ。「やっぱり人間ってそんなもん」と、自分の酒の失敗も気にならなくなるだろう。

    ④自分のことしか考えられないのは人間の本能か?立川志の輔の傑作『みどりの窓口』

    最後に紹介するのは、立川志の輔の新作落語『みどりの窓口』。新作落語は別名「創作落語」ともいい、古くから演じられている古典落語に対して、主に大正時代以降に創作されたものである。『みどりの窓口』は作家・清水義範の原作を元に立川志の輔が作り、新作落語では傑作といわれている演目だ。
    JRでお馴染みの「みどりの窓口」を舞台に繰り広げられるのは、自分のことしか考えていないような客と困惑する駅員のやり取り。「あーいるいるこんな人」とトンチンカンな客に駅員目線で共感しながら噺を聞いていると、後半では一転して目線がトンチンカンな客たちと同じになる。この落差と転換が見事な構成と話芸で表現されていて、聞き終わったあとにはどちらの立場にも共感している自分がいる。もちろんサゲの伏線回収も笑えるのだが、思わず人間の本質のようなものを考えさせられてしまうのが面白い。
    「あーいるいるこんな人」と迷惑に思っていた人間と自分は、実は同じなのではないか? 自分も、自分のことしか考えていないのではないか? 『みどりの窓口』を聞けば、そんな自問が頭をもたげてきて、落語の持つ深い魅力にさらにはまり込んでいくことだろう。