韓国で今、なぜ若者たちに「詩」が人気なのか、モデルの前田エマさんとともに考えた前編に続き、後編では、実際に韓国の詩とで会える場所、韓国書籍専門店「チェッコリ」おすすめの初心者向け詩集や前田さんお気に入りの詩集をご紹介。これまで「詩=難しい」と思っていた人も、「韓国」をひとつのきっかけに、詩を読んでみてはどうだろう。
前田さんもよく訪れるという韓国書籍専門書店「チェッコリ」には、韓国語の書籍約4000冊のほか、日本語訳された書籍約500冊がそろう。詩集も充実しており、その時々にピックアップする詩人のコーナーなども。また、「チェッコリ」ではさまざまなブックトークや映画とのタイアップフェアなど、さまざまなイベントも開催している。


運営するのは韓国関連の専門出版社「クオン」。代表の金承福さんは、「本を通じ、韓国と日本、人と人をつなぎたい」と、この場所をつくったという。
「クオン」では、詩集シリーズ「セレクション韓・詩」をてがけ、ノーベル文学賞作家ハン・ガンが20年余りにわたり書き続けてきた60篇を収めた詩集『引き出しに夕方をしまっておいた』や、ミレニアル世代に圧倒的共感を得る詩人、パク・ジュンの『泣いたって変わることは何もないだろうけれど』など、これまでにシリーズから5冊の韓国の詩集を出版している。

「クオン」の広報、佐々木静代さんはこう語る。
「昨年、ハン・ガンがノーベル文学賞を受賞したことをきっかけに、これまで韓国文学を読んだことのなかった人も、興味を持つ人が増えているように感じます。ハン・ガンもそうですが、韓国では作家でありながら詩人の顔を持つ人も多く、小説と詩、どちらをも知ることで、韓国文学の全体像が見えてくるような気がします」
もともと「クオン」の書籍の大ファンだったという前田さん。「チェッコリ」で出会った本や詩集がたくさんあるという。

「韓国の本って、デザインもとても素敵なものが多くて、こうして眺めているだけでも楽しいですし、こうして実際に本を手に取って、見たり読んだりできるのはやっぱり嬉しい。つい長居してしまいます」

前田さんの言うように、棚に並ぶ本はどれもカラフルで、目を引くデザインのものが多い。さらに一見すると、詩集に見えないものもある。
「詩集『花を見るように君を見る』で知られる、詩人のナ・テジュは、イラストレーターとコラボレーションした、ぬりえ詩集や、絵の上にストーリーをのせた漫画詩集なども出していて、これは最近見られるようになった新しい詩集の形といえるかもしれません」(佐々木さん)

ただ詩を読むだけでなく、より世界に没入したり、イマジネーションを膨らませたりできるような工夫が凝らされているのだ。
韓国の詩人は、小説やエッセイを書く人も多く、「まずそうした作品に触れて、作家の世界観に興味を持ったら詩を読んでみる、というのも良いのでは」と佐々木さんは提案してくれる。

「例えば、『詩人キム・ソヨン 一文字の辞典』は、ハングルの一文字、一文字に対して、まるで詩のような解釈をつけたエッセイ。彼女の言葉感覚の面白さが味わえると思います」
ナ・テジュの詩をはじめ、韓国の詩が「読みやすい」と言われる理由に、韻律や形にとらわれない自由詩が多いということがあるかもしれない。たとえば、散文や小説のように、ストーリーやメッセージがわかりやすいものもある。
「小学生のとき、教科書で読んだ詩の記憶で止まっている人も多いと思うのですが、韓国の詩を見たら、これって詩なの? と驚く人もいるかもしれません」と、前田さん。

例えば2024年のノーベル文学賞受賞者として話題の作家ハン・ガンの作品も、詩と散文の間のような表現が魅力だと前田さん。
「ハン・ガンは、もともと詩人としてデビューしたこともあって、詩のような物語のようなエッセイのような、そのすべての間を行き来するように描く、独特な世界観が特徴で、私も衝撃を受けました。もっと彼女の作品世界に触れたいと手にしたのが、詩集『引き出しに夕方をしまっておいた』(斎藤真理子・きむ ふな訳、クオン)です」
2013年に韓国で出版されたこの詩集には、1992年から2013年までの時の流れが、60篇の詩の形となって収められている。
「小説とはまた違う柔らかさと強さを感じて、彼女の作品の根源に触れられた気がしました」
日本の詩も人気だという韓国。特に、BTSのメンバーがSNSで茨木のり子の詩『自分の感受性くらい』をシェアしたことなどもあり、今、韓国では茨木のり子人気が高まっているそうだ。
前田さんは、留学中に開いた朗読イベントで、詩人茨木のり子の代表作を集めた詩集『はじめての町』(봄날의책)を、日本語と韓国語で読んだという。

「もともと茨木のり子さんの作品が大好きでよく読んでいたのですが、彼女のエッセイ『ハングルの旅』で、韓国の国民的詩人、尹東柱(ユン・ドンジュ)についても知りました」
韓国では尹東柱をはじめ、詩人はとても尊敬され、愛されている。詩人の顔のイラストが表紙を飾る「文化と知性詩人選」シリーズも、韓国ではお馴染みのようだ。

「このシリーズは、デザインも素敵だし、1000円台と手頃なこともあって、プレゼントにも人気です。この2冊はそれぞれ韓国の友人がプレゼントしてくれたもの。『私が好きなのはこの詩だよ』と、付箋を貼ってくれたのも嬉しかったです」
改めて前田さんに詩を読むことの魅力について聞いてみた。
「私は詩の言葉のリズムや間合いに魅力を感じます。だから、あえて声に出して読むこともあって、そうすると言葉がまるで生き物のようにいきいきと感じられるんです。特に韓国では “詩と声に出して読むことはセット”という感覚があって、留学中にも詩を朗読したり、聞いたりする機会がたくさんありました」

その背景について前田さんは、「詩を声に出して語り継ぐことで、韓国の人々は結束してきたのではないか」と考える。
「詩を声に出して読むことは、応援歌みたいな役割もあったのではないかと思うんです。実際、韓国で詩の朗読に触れるたび、言葉はわからなかったとしても、何か熱量のようなもの、パワーが伝わってくることに驚きました」
前田さんは、詩を声に出して読むことで心を落ち着つかせたり、奮い立たせたりすることもあるという。
「私にとって詩を読むことは、“おまじない”のようなものでもあるかもしれません」

不安なことも多い今の時代。SNSで簡単に人とつながれるはずなのに、なぜか孤独は深まるばかりだ。だからこそ、韓国の詩を読んでみてはどうだろう。たくさんの悲しみを経験して、それでも希望を捨てずに生きていくこと。想いを共有すること。それは同じ時代を生きるすべての人に必要なことだと思える。そして、好きな詩に出会ったら、ぜひ声に出して読んでみよう。今を生きる力が湧いてくるかもしれない。
韓国カルチャーがこんなにも身近になった今の日本だからこそ、その根底にある“想い”に心が動くことがあるだろう。K-POPや韓国ドラマが、新鮮な喜びを与えてくれたように、詩もまた、私たちに新たな世界の扉を開いてくれるはずだ。

前田エマ
1992年神奈川県⽣まれ。東京造形⼤学在学中にオーストリア・ウィーン芸術アカデミーへ留学。モデル、ラジオパーソナリティなど、活動は多岐にわたる。2023年、韓国・延世⼤学韓国語学堂に留学。著書に、⼩説集『動物になる⽇』(ちいさいミシマ社)、『アニョハセヨ韓国』(三栄)がある。
【info】
前田エマさんによる初のエッセイ集『過去の学⽣』(ミシマ社)が6月17日に発売。規則や規範に縛られ生きづらさを感じていた学生生活。30歳で韓国留学をし、自ら学生になったこと。「学校」をテーマに綴ることで、過去の傷をそっと癒していく。チェッコリ
出版社「クオン」が運営する、韓国書籍専門書店。韓国の作家やアーティストらを招いたトークイベントも開催する。
https://www.chekccori.tokyo/
撮影:長田果純
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