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HOME SPECIAL 行きつけにしたい映画館 「草間彌生」という宇宙の奥深さに圧倒される77分間。-『草間彌生∞INFINITY』
「草間彌生」という宇宙の奥深さに圧倒される77分間。-『草間彌生∞INFINITY』

VOL.1 「草間彌生」という宇宙の奥深さに圧倒される77分間。-『草間彌生∞INFINITY』

渋谷PARCOの8階に新しくオープンしたミニシアター「WHITE CINE QUINTO」。こけら落としの作品として選ばれたのは、世界的天才芸術家・草間彌生のドキュメンタリー『草間彌生∞INFINITY』だ。彼女の名前を知っている、水玉模様のアートも目にしたことがある、でも芸術家としてどんな人生を送ってきたのかは意外と知られていない……天才と言われる“草間彌生”の人生は、壮絶でドラマチックで刺激に満ちていた!

あの水玉アートはどうやって生まれたのか。
天才芸術家の苦悩と再生を描いたドキュメンタリー

草間彌生と聞いて、多くの人が真っ先に思い浮かべるのは無数に広がる水玉のアートで、なかでも特に知られているのは水玉模様の南瓜の彫刻ではないだろうか。1994年に直島(香川)の野外彫刻制作をきっかけに世界中で野外彫刻を制作するようになり、いまではすっかり草間彌生を代表する作品のひとつとなった。そして2011年以降は、ポンピドゥー・センター(パリ)、テート・モダン(ロンドン)、ホイットニー美術館(ニューヨーク)、国立国際美術館(大阪)、ハーシュホーン博物館と彫刻の庭(ワシントンD.C.)など、世界の名だたる美術館で展示を行っている。

Yayoi Kusama, Infinity Mirrored Room-Love Forever, 1966/1994. Installation view, YAYOI KUSAMA, Le Consortium, Dijon, France, 2000. Image © Yayoi Kusama. Courtesy of David Zwirner, NewYork; Ota Fine Arts,

しかし、今年90歳の草間彌生の人生を回顧して見えてくるのは、決して順風満帆ではなかったことだ。どんな苦労があったのか、どんな挑戦があったのか、ドキュメンタリー『草間彌生∞INFINITY』には、絵を描くことが好きな少女時代から現在まで、草間彌生の人生が収められている。

驚かずにはいられない壮絶な人生。
草間彌生の90年間が凝縮された77分

このドキュメンタリーを観て思うのは、いかに草間彌生は先駆者であったかのかという驚きだ。芸術への情熱が理解されなかった幼少期、単身アメリカへ渡った挑戦、苦悩と困難の連続だったニューヨークでの創作活動、成功からの転落、作品が認められるまでの道のり、脅迫神経症という病との戦い……もう、とにかく壮絶で、ドラマチックで、映画は77分とコンパクトな尺ではあるのだけれど、最初から最後までスクリーンに釘付け! 知らないことだらけ! ドキュメンタリーはとかく眠たくなるものだけれど、この映画に関しては77分じゃ足りないくらいだ。90年分の草間彌生の人生が凝縮されている、そんな77分。

Director Heather Lenz and artist Yayoi Kusama in KUSAMA – INFINITY, directed by Heather Lenz. © Tokyo Lee Productions, Inc. Courtesy of Magnolia Pictures.

草間彌生本人のインタビュー、彼女を知る芸術関係者の声、そして創作活動を記録した貴重な映像や写真、もちろんこれまでの作品も見ることができる。

どうして正当に評価されてこなかったのか──。
ヘザー・レンズ監督が10年かけて伝えたかったこと

どれも驚くべきエピソードなので、ぜひ映画館で彼女の人生を追体験してほしいのだけれど、ひとつ例を挙げるとしたら、超有名なあの芸術家も草間彌生が生み出す作品に影響を受けていたことだ。アンディー・ウォーホルの「複製・反復・繰り返し」の手法、クレス・オルデンバーグの「ソフト・スカルプチャー」、ルーカス・サマラスの「ミラー・ルーム」、どれも草間彌生の作品と類似しているのに、そもそもの発案者である彼女には光りは当たらなかったのだ。それは、草間彌生が東洋の女性だったから──。本来、評価されるべき人が評価されていない、アメリカ美術界にこれだけ貢献しているのに記録本がほとんどない……草間彌生のアメリカのアート界への貢献はもっと理解されるべきだと疑問をもったひとりが、この映画の監督ヘザー・レンズだった。10年かけて完成させた。

Portrait of Yayoi Kusama in her studio. Image © Yayoi Kusama. Courtesy of David Zwirner, New York; Ota Fine Arts, Tokyo/Singapore/Shanghai; Victoria Miro, London; YAYOI KUSAMA Inc.

ヘザー・レンズ監督は語る。

「草間さんがアメリカへ渡ったのは、(もっといい絵を描きたいという情熱のほかに)自分自身が日本にハマっていないと感じていた、それも理由のひとつにあると思うんです。どんな理由にしても、とても勇敢な行動ですよね。だって、今の時代でも、自分の夢を形にするために渡米すると聞いたら、なかなか大胆だって思うのに、あの時代に──女性は結婚して子供を生むのが当たり前の、お見合い結婚の時代に、草間さんは飛び出してアメリカに渡ったんですから。とはいえ、劇中でも描かれているように、渡米したことで色々な問題に直面することにもなった。でも、どんな問題にぶつかっても、苦境に立たされても、彼女は前に進み続けた、そこに感服します。草間彌生さんが有名なアーティストになっていく道のりのなかで、どんな体験をしたのか、彼女の経験をすべて理解してもらいたくてこの映画を作りました。そして、いかに彼女が先駆者であるのか、いかに彼女が粘り強いのか、草間彌生というアーティストを多くの人に知ってほしいのです」(2019年10月の来日時に取材)

Artist Yayoi Kusama drawing in KUSAMA – INFINITY. © Tokyo Lee Productions, Inc. Courtesy of Magnolia Pictures.

この映画を観る前は、草間彌生から生まれるあの水玉や網の目、花模様の世界は、ちょっと不気味で可愛いアートとして映っていたが、この映画を観た後、どうやってあの世界観が生まれたのかを知って作品を見ると、草間彌生という宇宙の奥深さに圧倒される。そして、ヘザー・レンズ監督も言っているように、草間彌生の挑戦する勇気と諦めない粘り強さに、ただただ心を打たれる。本当にすごいドキュメンタリーだ。

取材・文/新谷里映

【草間彌生∞INFINITY】
2019年11月22日より渋谷PARCO8F WHITE CINE QUINTOほか全国にて公開中