さまざまな人と“好き”でつながる体験を提供するシェアリングサービス「TABICA」でパラレルキャリアに挑戦し、人生を充実させる“何か”を探すこの企画。第三回目は、モデルの谷奥エマさんが、フローラルウォーター作り体験にチャレンジ。
香り良く、見た目麗しく、ときには料理にも使えるハーブ。お気に入りのお店でハーブを購入し、収集する愉しさもあるけれど、その先には、消費するだけではない、見つけ、育て、慈しむ、深い深い「ハーブのある生活」が待っている。ハーブを始めている人も、ちょっとだけ興味を持っている人も、谷奥エマさんと一緒に「ハーブにハマる世界」をのぞき見にしてみよう。
ハーブは、とても繁殖力が高く一度に沢山採れるため、さまざまな活用術が生み出されている。特に、フローラルウォーター(芳香蒸留水)を抽出する「ハーブの蒸留」という作業は、いちど覚えると幅広く活用できる。特にガーデニング好きに人気のある活用術なのだがで、抽出されたフローラルウォーターは、保湿効果や殺菌効果があり、ガーデニングだけでなく、化粧水やルームフレグランスなどにも応用することができる。手間のかかる活用術だが、じっくりと時間をかけてつくる愉しさも発見できるはず。
しかし、フローラルウォーターを作るためには専用の蒸留器が必要なため、自宅での作業が難しい。そこで訪れたのは、練馬駅から徒歩9分、ナリワイ型賃貸集合住宅「欅の音terrace」。ここでは、一般人でも購入できる小型の蒸留器を使ったフローラルウォーター作りが体験できる。
教えてくれるのは、アロマ・ハーブのワークショップやハンドメイド雑貨を扱う「scapi」のオーナー・渡辺さん。元々営業マンとしてキャリアを積み重ねてきたものの、慢性的な疲労によって退職を余儀なくされた。その後、母親が生業としていたハーブの世界に入ることに。今ではハーブの香りに包まれている自宅兼アトリエで、ワークショップを行い、ハーブ活用術を提案している。大好きなハーブによって豊かな生活を手に入れたひとりなのだ。
今回の体験者である、モデルの谷奥エマさんも日々ハーブの香りに助けられているそう。実家が花屋を営んでいたこともあり、小さいころからお花の香りが大好きだった。上京した現在は、緊張するオーディション前や就寝時に、アロマを焚いてリラックス。近々アロマの検定を受けるために勉強中なんだとか。
「教科書のなかに、ハーブの蒸留のことも載っていて、いつかやってみたいと思っていたんです。家に植物を飾るのは好きで、ドライフラワーにしたり簡単な活用はしていましたが、今日はもっと幅広く学べそうなので楽しみ!」
エマさんのように、アロマ系の資格が欲しいと思っている人なら材料をすべて揃える前にワークショップから始めるのも手だ。
早速、ワークショップがスタート。はじめにフローラルウォーター作りに必要なハーブ50gを準備。各ハーブの効能や特徴などを相談しながら自分好みのバランスに調整していく。
ハーブをハサミでカットすると、ハーブそのものの香りがフワッと香る。
「手までハーブのいい香り。50gって結構量が多くて迷っちゃいますけど、大好きなラベンダーはマストかな」(エマさん)
「防腐剤を使わないので、抗菌作用のあるローズマリーも入れるといいですよ」(渡辺さん)
余計なことは考えずに、感覚を頼って、自分の好きな香りを選ぶ時間も、リラックスできる瞬間だ。
というのも、視覚、聴覚は理性の脳、それに対して香りは野生の脳に働きかけるとされている。香りは、それだけダイレクトに訴えてくるいい刺激ということだ。さらに、ハーブに触れて自分で作ることでリフレッシュ効果も高まる。つまり、作っている時間そのものが大切な癒しの時間になるのだ。
選んだハーブは蒸留器へ詰めるように全て投入。水と一緒に加熱し、蒸すように抽出する。蒸留機の上蓋についたハーブ成分を含んだ水蒸気が、氷で冷やされて水になり、管を通って、少しずつ付属のビーカーに落ちていく仕組みだ。最初の1滴が出るまで5分ほど観察タイム。
「こんなにたくさんのハーブを使うのは、もったいない気がしますね…」とエマさん。しかし植物を育てる際には、生長を促すために余計な枝葉を切る「剪定」の作業が必要。捨ててしまう部分を有効活用することができるし、さらにきちんと剪定することによって、より美しく、元気に生長するのだから、うれしいことばかりだ。
「あ、だんだんいい香りがしてきた! 見てるだけでも癒されますね!」。
フローラルウォーターが最低目標量の200ml貯まるのに、およそ50分かかるため、その間にロールオンアロマ作りを。まずは、精油選びから。6滴入れるので最大6種類チョイスできるが、エマさんはお気に入りのラベンダーを軸に4種をセレクト。
「癒しをテーマにヒノキ、フランキンセンス、イランイラン、そしてラベンダー。緊張しやすい性格なので、落ち着く香りにしてみました。ひとりで香りを選ぶのも楽しいけれど、先生に香りの効能を教えてもらえるのもうれしいですね」
ハーブづくりの魅力は正解が“ない”こと。香りの感じ方は性別や体調によって人それぞれ。基本的な知識を得たら、自分の感性に訴えかけて自由にアレンジできるのが愉しさのひとつ。
また、自宅でひとり勉強するのもいいが、ワークショップなどで他の人たちの「答え」好みを知るのも、またおもしろい。得た情報をさらに自宅での作業で生かしてみてもいいかもしれない。
スポイトを使って、ビンの中にホホバオイルを半分ほど入れた後、精油を1滴ずつポタリと入れていく。飾りに好みのドライハーブを落とし、ホホバオイルも追加して出来上がり。手首や首回りなど香水のように使おう。
「身体を動かしたときに優しい香りがほわっと漂っててステキ。小さくて持ち運びもしやすいから、オーディション前にサクッとつけるのにちょうどいいな」。
そろそろフローラルウォーターも溜まってきた様子。次は、保湿効果の高いミツロウクリーム作りだ。
シアバターとキャリアオイル、ミツロウを加え、湯煎で溶かす。液状になったら紙コップに移し、出来たばかりのハーブウォーターをよく混ぜる。粘度が高まったらケースに収め、固まりきる前に精油をオン。馴染ませるように掻き回して出来上がり。
「香りはレモンとスイートオレンジを使ったさわやか系、フランキンセンスとヒノキを使ったウッド系の2種類にしました」。
約2時間30分、時間を忘れて黙々と作業に集中していたエマさん。
「スポイトを使ったり、材料を混ぜたり、久々のものづくりは理科の授業みたいでとても楽しかったです。ハーブのいい香りを感じながら、手を動かすだけで、こんなにリフレッシュできると思わなかったですね。生活に役立つハーブの活用術も勉強できて、充実した時間でした。母や姉と一緒に、自宅でも早速やってみたいと思います!」。
残ったフローラルウォーターもボトルに詰めてお持ち帰り。ルームフレグランスや拭き掃除として使ってもOKだ。
終始ハーブのいい香りに包まれて、ハーブの効能や作る過程も学ぶことが出来た今回のワークショップ。今回のハーブの蒸留だけでなく、乾燥させてポプリを作ったり、活用法は様々にありひとつひとつチャレンジしていくのも楽しいはず。
また、観賞用だったハーブを、生活を少しだけ楽しくするためのアイテムに変身させる時間はとても有意義だ。ものづくりに没頭するその数時間は、日頃のモヤモヤとした気持ちを忘れさせてくれるリフレッシュタイムにもなってくれる。さらに、できあがった香りは、その後の毎日までも美しく彩ってくれるのだから、ハーブ好きになることで「知り、工夫し、育て、慈しむ」ライフサイクルを生む。
ハーブの世界、少しでも興味が沸いたら、ぜひ一歩踏み出して欲しい。
取材・文:金井幸男
撮影:山本恭平