30歳の誕生日に、なんともドラマチックな瞬間に立ち会ってしまったことがある。
その時、僕は、ロサンゼルスのロングビーチでひとりでたたずんでいた。
なんていうとカッコいい感じけれど、実際のところは、満身創痍、ボロボロで、20代に勤めていた会社を辞めてアメリカをふらふらしていただけ。目的も無く無為に過ごしている間に誕生日を迎えてしまったのだ。
夕暮れ時にすることもなく、ビーチをボーッと眺めていた。すると70歳くらいのおじいさんが、砂浜になにやら大きな文字を書き始めた。ぼんやりその様子をみていたら、ふと、同じようにその姿をみているおばあさんが近くに立っていることに気づいた。
経つこと1時間、ゆっくりと1文字ずつ書き上げて出来たがった言葉は
「GOD LOVES YOU」
おじいさんが書き終えたところで、おばあさんは砂浜に降りていって、そのあと二人で手を繋いで去って行った。
なんともドラマチックな瞬間ではないか!
「GOD LOVES YOU」かあ……。TIFFANYの1970年代のビンテージアクセサリーにこの文字をつかったネックレスがあったなあ。おばあさんへの愛のメッセージかな。それとも愚直にクリスチャンとして「世界は愛に包まれている」という自分たちの幸福を祝うメッセージなのかな…。
どちらにしろ、どちらでもないにしろ、1時間かけて砂浜に愛の言葉を書くカッコいいおじいちゃんの生き様を前にして、急に自分の人生の「過去・現在・未来」の時間軸が脳内に浮かび上がってきた。
そういえば、30歳。自分はどこまでやってきて、これからどこに行くのだろう。70になったら、誰に、どんなメッセージを残せる人になっているのだろう。
30歳になったからといって、劇的に自分の変化があるわけじゃないし、歴史が次のステージに進むわけでもない。たかが数字、されど数字。このキリ番はいやおうなく、人生の過去と未来を考えさせられるのだ。だからちょっとこれまでを振り返ってみた。
思えば僕の20代は、不自由な時代だった。
社会や業界のルールを知ることから始まり、それに従うか、抗うかも含めて「選択」を迫られる日々の連続。
この頃、僕のすべてを決定するのは他人からの評価だ。会社組織だったり今だったら、SNSで繋がる人たちだったりするだろう。自己評価が高いか低いかは、大して関係ない。とにかく誰かに認められることが最優先。
だから、がむしゃらに色んなことに頑張っているつもりでも、本当に好きなことに時間を割けないでいる気がしてくる。いや、本当に好きなことがよく分からなくなっていく。
敷かれたレール、他者からの期待、与えられた選択肢、そして、進むべき道。
それらの存在は20代を安心させ、自分を成長させる糧になる一方で、確実に自由を奪い、未来の可能性を打ち消していっているのではないか。
そして、30歳になって、会社を辞めて目的も無くアメリカに行ったら、想いがけない感動に出会った。
「GOD LOVES YOU」。
「大丈夫だよ。」と言われているような気がした。まだ、なんだってできる、仕切り直しだ、と。
その後、僕は帰国して新しい会社に入って新しいスキルや知識や仲間を得るキャリアを歩み出した。
僕が今、自分が何者かであることにとらわれないで、自由に創作の仕事をしながらマイペースに世界を拡げていけるのは、30歳のあの頃に、囲われた鳥かごのサイズを変えるのではなくて、足首あたりに細くしっかり結びつけられていた糸、「安心と不自由」というダブルバインドの糸を、切り放つことができたからだと思う。
だから、順風な人生であっても、そうでなくても、誰だってこのときに過去の自分をリセットしてみる。そして、30歳からやるべき新しいことがあるんじゃないかと思うのだ。
そんな思いで、インタビューを企画した。
30歳の今を生きる黒木華さん、10年の節目を迎えたハマ・オカモトさん、30代に劇的に創作の幅を拡げていった川村元気さんの3人にお会いして、30歳の時に意識すること、意識すべきことを語っていただいた。
さらに僕や編集部のメンバーで、30歳になったからこそやるべき新しいことをリストアップし、それを実践するための人、コト、場所をキュレーションしてみた。
30歳になったら、
●他人の評価をフラットに受け入れる
●激動の時代を生き抜いていることを自分の強みにする
●敢えて目標設定をしない30歳を生きてみる
●休み方を改革する
●美しいものを日常に取り入れる
●自分の拠点をつくる
●自分の「顔」を見直す
●パラレルライフをやってみる
●エンタメで心を整える
●最先端の街でトレンドをキャッチアップする
●最新・最旬の物に触れてセンスを磨き直す
僕らがまとめた「30歳からのやることリスト」
次回から、それぞれのリストをテーマに記事を連載していくのでぜひ、参考にしてみて欲しい。これからの人生を、しなやかに、したたかに、自分本位に生きていくための処方箋として。
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