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はじめての隈研吾。エンタメ視点で楽しむ名匠の建築

VOL.31 はじめての隈研吾。エンタメ視点で楽しむ名匠の建築

『隈研吾展 新しい公共性をつくるためのネコの5原則』が絶賛開催中である。なぜネコ?このタイトルにこそ建築をより身近なものにしてくれる彼のクリエイティブワークの本質がある。今回は、そんな企画展の魅力を中心に、建築ビギナーこそ触れて欲しい隈研吾の世界を紹介しよう。

アイキャッチ画像:高輪ゲートウェイ駅 2020

建築鑑賞の世界に踏み込めない理由

建築物を見て「美しいな」「壮観だな」という感動をして、建築に興味をもち、名匠から名もなき迷匠まで「タテモノ」を楽しむ暮らしの一歩入り口まで来ているあなた。そこからさらに踏み込むことを躊躇している人も多いでしょう。映画や小説であれば無数のレビューがあり、様々な角度からその魅力を理解できる。建築や美術の世界も同じように、作品性や様式、歴史について様々な解説はあるにはあるが、どうも専門用語も多く、バックグラウンドとして押さえなければいけない知識が多そうでどこから手をつけて良いのやら…、と身じろぎする。
若干「学び感」がつよいのかもしれない。学びではなく、つねに「発見」するように建築を楽しめないものか。

建築ビギナーこそ隈研吾氏の言説に触れたい

そこで隈研吾氏である。国内外で三面六臂のアウトプットをしている彼は東京だけでも、かの国立競技場はもちろん、高輪ゲートウェイ駅などの最新施設から、焼き鳥屋の下北沢てっちゃんに渋谷の公衆トイレといった庶民に身近な施設まで、日々の暮らしの中で自然とその作品に出会ってしまう希有な建築家だ。
作品が身近にあるということだけでなく、彼の建築に込めるメッセージはとても敷居が低く分かりやすい。難しい専門知識や歴史認識がなくても「人が集まる場所」としてのタテモノの本質と魅力を自分の言葉で語ってくれる、その説明がとてもわかりやすいのだ。その言葉のひとつひとつが建築をより近く、深く感じさせてくれる。

『隈研吾展 新しい公共性をつくるためのネコの5原則』

現在開催中の「隈研吾展」の魅力。それはなんといっても、国立競技場を含む最新建築や世界中に点在する作品の中から選ばれた68件もの建築の模型や写真、モックアップ(部分の原寸模型)を鑑賞できるということ。さらに、そのひとつひとつについて隈研吾氏自身が自ら解説文を添えているという2点につきる。
企画展は有料のエリアと無料のエリアとにわかれていて、おすすめは先に有料エリアに行くこと。こちらでは先述の通り数々の建築の模型がならんでいてそれを眺めているだけでも楽しい。加えてタイトルの通り作品群が「ネコの5原則」に編集されてパート毎に紹介されている。「はて、ネコ?」という疑問はそのままにひとつひとつの「切り口」ついて隈氏自身の解説を読みながらその意味を体感していく。私を含めた素人だと、建築物のスケール感や精巧さなどの「見た目」にただ「すごい!」と思って終わってしまいがちだが、5原則という「ものの見方」を提示して鑑賞をナビゲートしてくれるわけだ。これほどに楽しみ方をちゃんと指定してくれる演出はあまりないかもしれない。
さらに、ネコとあって、模型をよく見ると人型のオブジェに交じってちゃんとネコちゃんも模型の中に潜んでいる。その意外性も愛らしく楽しいし、どこにネコがいるかな?と探してしまう別の楽しさも生まれる。
有料のエリアを観終わった後、無料のエリアへ。ここでは、ネコの5原則をビジュアルで体感できるCG映像があり、さきほど鑑賞した模型から実際の建築を想像しながらネコの動きや習性にかなった「場所の在り方」を再認識できるのだ。

高輪ゲートウェイ駅 2020
オドゥンパザル近代美術館 2019
スターバックスコーヒー太宰府天満宮表参道店 2011
スターバックスコーヒー太宰府天満宮表参道店 2011
ダリウス・ミヨー音楽院 2013

公式カタログを買うべし

さて、結局「ネコの5原則」とはなんなのか?それは是非展覧会でじっくり体感して欲しいのだが、その予習ないし復習におすすめしたいのが公式カタログである。
このカタログでは、「孔」「粒子」「やわらかい」「斜め」「時間」という5原則を切り口にした作品群をそれぞれ紙面で俯瞰的に感じることが出来る。紙媒体ならではのノンリニアな情報体験として展覧会とはまた違った理解が生まれる。さらに貴重なのが、イントロダクションとして隈研吾氏の手記「ネコに学び、ハコを出よう」である。
コロナ禍でこの企画展が計画、実施された彼自身の想いの深層が感じられのはもちろん、隈氏が見据えるこれからの建築の在り方、さらには社会や人と人とのつながりといった建築をとりまく世界や文化の行く末についてなど、多様な視点で彼のビジョンが提示されている。その言葉は常に分かりやすく、優しく、説得力を持ち、文筆家としての白眉さえ感じてしまう。必読である。

建築をより深く、身近に感じるために

同企画展は9月26日まで開催中。コロナ禍で入場制限があるものの余裕を持って事前予約すれば鑑賞できるのでぜひ夏の間に観ていただきたい。
建築は私たちの暮らしや思想と密接に関わり、その生活様式やカルチャーを反映するばかりか、新しい概念の建築が、暮らしや文化をダイナミックに新しくしていく。はじめての隈研吾を体感したならば、身近で奥深い建築鑑賞の入り口を通過したようなものである。ぜひ、どっぷりとその世界にハマってみよう。

『隈研吾展 新しい公共性をつくるためのネコの5原則』
会場:東京国立近代美術館 1F 企画展ギャラリー
会期:2021年6月18日(金)〜9月26日(日)
休館日:月曜日[ただし7月26日、8月2日、9日、30日、9月20日は開館]、8月10日(火)、9月21日(火)
開館時間:10:00-17:00 *入館は閉館30分前まで(金・土曜は当面の間10:00-20:00)
観覧料:⼀般 1,300円、大学生 800円
※本展は第1会場(有料)、第2会場(無料)の2つの会場で構成されています。
・第1会場のみオンラインでの予約が可能です。混雑緩和のため、オンラインでの事前のご購入・ご予約をお勧めしています。
・第2会場の混雑時には第2会場付近で入場整理券を配布いたします。

『隈研吾展 新しい公共性をつくるためのネコの5原則』公式カタログ
2,000円+税
B5変形/232頁/ソフトカヴァー/日本語・英語
デザイン:服部一成

おまけ:隈研吾氏の世界をさらに深掘りできる1冊

『隈研吾建築図鑑』は建築専門誌『日経アーキテクチュア』の編集者を長年勤めた画文家の宮沢洋が、独立後、初めて手がけた著書。編集者ならではの視点と得意のイラストで、建築家・隈研吾の30年以上にわたる活動と作品をわかりやすく解説している。
なんと言ってもイラストがかわいい。建物の構造の妙や意匠の素晴らしさについてイラストで分かりやすく解説されており理解が深まる。さらにそれぞれの建築に対する筆者の心象も綴られ、それが鑑賞ポイントとして役立つ。隈研吾氏に興味を持って、実際に彼の建築を巡ろうと思ったならば、ぜひこの本を片手に楽しんで欲しい。こちらは企画展が開催されている東京国立近代美術館のミュージアムショップでも販売中。

隈研吾建築図鑑
価格:2,640円(税込)
著者名:宮沢 洋
出版社:日経BP