昨今、街は喫茶店ブーム。若い女性や外国人観光客がカメラを構え、クリームソーダやナポリタンが熱烈に人気を集める。だが元々喫茶店は「サラリーマンの憩いの場」であったように、日常の中に自然にある存在だったはず。実はその昭和の風景がまだ渋谷にあるのだ。
金王神社の参道近く。凛とした空気を纏ったエリアに「青山壹番館 渋谷店」はある。
渋谷駅からは徒歩15分ほど青山方面へと歩くためか、観光客や買い物客はほとんど見かけない。
オフィスが入居するビルが多いエリア。たまに徒歩圏内にある大学の学生の姿がちらほら。
まさに、地域の人のための喫茶店として存在する「青山壹番館」。
アール・ヌーヴォー調の看板と重厚なレンガ造りの重厚な雰囲気。だがびっくりするほど綺麗で、手入れが行き届いていることを感じる。
このエリアにふさわしい、洗練された印象を受けるのはそのためだろうか。
喫茶店というより、ギャラリーや美術館のような外観に、ドキドキする。
1973年創業。そろそろ50年目を迎えるこのお店は、まさにこの街の人たちに長い間愛されてきている。
スタッフさんによると、「若い女性や観光客の方も、いなくはないですけど、やはりほとんどはこの辺りの方ですかね」とのこと。
「なので、夜は営業していないですし、日曜もお休みです」。
近隣で働いていいる人達がメインのお客さまなのだそう。
整然と並べられたカップや現役のサイフォン。
先端が尖っている印象的なレザー張りの椅子がこの店の雰囲気を大きく形作っている。
スタッフさんの制服、メニューを知らせる看板や、その文字のフォント。
ひとつひとつの要素がまるで美術品のように、この店の正統派喫茶店としての「格」を高めているのだ。
聞くと、「相棒」をはじめ、数々の有名なドラマのロケ地としても利用されているとのこと。それくらい「美しい場所」である。
もう都心の喫茶店でもなかなか見ない、「回転式メニュー」。ここではもちろん現役・・!
ブルーマウンテン、キリマンジャロ・・。最近流行のコーヒースタンドではお目にかかれない昔ながらの銘柄も並ぶ。
これも、年配の人にも支持される所以なのだろう。いいものは、いいのだ。
看板メニューである「本日のサービスセット」は、これでもかというボリューム。
昔ながらの喫茶店は確かにボリュームがすごい店が多く、ここも例外ではない。
サンドイッチにフルーツだけならまだしも、そこにさらにフルーツゼリーとポテトチップスまで付いてくる。
手作りのゼリーが温かみがあるのは嬉しいポイントだ。
とはいえ肝心のコーヒーの味も確かなクオリティだ。
創業以来、豆のセレクトから焙煎まで、信頼できるパートナーから仕入れているとのこと。昨今の酸味の強いコーヒーではなく、しっかりとした飲みごたえのある味わい深いコーヒーだ。
ひとり客や男性客が多く、おじいさんが新聞を広げてトーストをかじる。
喫茶店でも見ることが減ってきたその風景が、ここにはまだ現役で広がっている。
店内通路を挟んで奥は喫煙席となっており(2019年6月現在)、近隣の愛煙家たちに喜ばれている。
店内のディスプレイやメニュー板、文字のフォントやカップやお皿。
このお店にあるひとつひとつの要素がまるで美術品のよう。
静かに流れるJAZZが心地よく、そこは「昭和レトロの非日常体験」というより、「落ち着く日常空間」なのだ。
金王神社周辺の凛とした空気に触れ、青山壹番館の「昭和の日常」に触れる。
一人でのんびりしたい時、渋谷でぜひおすすめしたいコースに間違いない。