Harumari TOKYOメンバーが、いつもと全く違う業界の仕事を一日体験する「仕事旅行」の連載。今回、編集部・青木が選んだのは「フラワーサイクリスト」になる旅でした。みなさんは、この肩書を耳にしたことはありますか?
自転車でお花を売って回るのかな……? 正直な話、はじめに私の頭の中に浮かんだのはこんなイメージ。そして、その未知なる仕事の内容が気になったのが、この旅を選んだきっかけでした。
実は、この「フラワーサイクリスト」という働き方自体、今回の旅のホストである河島春佳さんが生み出したもの。河島さんは、花屋の売れ残りやイベント装飾などで役目を終えた‘廃棄される花’を加工して、新たな作品として生まれ変わらせる活動をしています。
捨てられてしまう花の命を蘇らせるだけでなく、その作品を手にした方の喜びにもつながるし、廃棄が減れば環境にも優しい。そういった素敵なサイクルを作り出すアーティストが、フラワーサイクリストなのです。
今回の旅は、河島さんになったつもりで人生を追体験するようなプログラム。たっぷりお話を伺うことができました。
今の世の中、仕事観や人生観が問われる機会が増えたような気がします。就職活動や働き方改革、そういったものを通して「働く意味」や「自分のやりたいこと」に嫌でも向き合わざるを得ないのです。でも、納得いく答えにたどり着くのは難しいもの。好きなことをして生きている人はうらやましいけれど、「それだけで生きていけるほどの好きなこと」って、なかなか見つけられるものではありません。
しかし今回、河島さんのお話を聞いて「好きなことを仕事にする」ことの力強さを目の当たりにしました。好きなことにとことん向き合えば、新しい道を作ることだってできるのです。では、彼女はどうやって好きなことを見つけ、仕事にしたのか。その最大のポイントは、「考えて悩む前に、まず動いた」ということでした。
「私、小学生のころからものづくりが大好きで。6時間ぐらいぶっ通しで編み物をするぐらいだったんです」(河島さん・以下同)
そんな驚きの集中力を持つ子どもだった河島さんは夢を追って東京家政大学に進むものの、時は就職氷河期。アパレル業界への道は、断念せざるを得ませんでした。そして就職後、時がたつにつれて、改めてやりたいことや好きなことを見つけたいと感じるようになります。
「コピーライターやパティシエ……好きなことを仕事にしている人たちがいっぱいいて。話をしていくうちに、自分にもできることがあるって気づいたんです」
当時、河島さんは毎週1本ペースで部屋にお花を飾っていました。捨てるのがもったいないと吊るしてドライにしていくうちに、かなりの量になっていたそうです。そこで、そのドライフラワーを使ってリースやキャンドルを作るワークショップを自宅で開き、友人たちを招待しました。すると、SNSで大きな反響があったと言います。
この活動が、いまの仕事の原点になりました。
「誰かに喜んでもらえると嬉しいし、意外にも自分は人前で話すことが嫌いじゃないって気づいたんです(笑)」
それが、2014年の年末のこと。そこから河島さんは、どんどん動き始めました。
翌年4月には、阿佐ヶ谷のカフェで一般の方向けにワークショップを実施。友人・知人を含めて12名ほどが集まり、サシェを手作りしたそうです。その時の参加者の中にアウトドアイベントの企画運営をしている男性がいて、後々そのご縁で新宿中央公園でのイベントに出展したこともあるのだとか。
河島さんの魅力は、全ての行動の根底に「好き」が溢れていることです。いろいろなものから刺激を受けるたび「これ、何かに使えそう!」という思考になる。自分の好きなもので、人を幸せにしたいと想う。決して、自分を殺すような無理をしていないのです。
好きなことを仕事にする最大のメリットは、このポジティブサイクルを生み出せることではないでしょうか。
そうしてお花の仕事が増えてきたころに、初めて課題にぶつかります。河島さんは花屋で働いたことがないため、生けたり、ブーケをアレンジしたりといった生花を扱う技術がなかったのでした。お花についてしっかり学びたいと考えた河島さんは、すぐに動きます。
「これから本格的にお花を仕事にすることを考えると、海外で学んだ方が、自分の経歴に箔がつく。依頼人が私を選ぶ理由になると思ったんです」
そうして海外留学の道を選んだ河島さんは、前々から気になっていたという、パリで働く日本人フローリストの方にアプローチ。その本気度を武器にして、マンツーマンで学びたいと直談判します。そこからわずか、2か月ほどで渡仏することを決めたのでした。
そのころ、WSだけでは利益が出にくいことから、生花店での短期アルバイトをスタート。ここでも後の河島さんの活動に大きな影響を与える出来事がありました。
「12月25日までの間、私のいたお店ではプロポーズ向けの赤いバラを大量に置いていたんです。でも、26日を過ぎると、一気にお正月商品に入れ替え。バラは全て廃棄されることになっていました。
そこで、ワークショップで使いたいのでバラを持ち帰りたいと申し出たところ、『え、ゴミになっちゃうもので、いいの?』と返されたことがショックで……」
なんとかならないかと必至に考えた河島さんは、とあるアイデアにたどり着きます。廃棄される花を「ロスフラワー」と名付け、どこから運ばれてきたのかもあえて明示した上で生まれ変わらせたら、それ自体がストーリーになって、逆に商品価値にできるかもしれない、と思いついたのです。
この「ロスフラワーを無くす」というコンセプトが、河島さんのその後の活動にとって大きな指針となりました。そして、彼女はその意志をもって「クラウドファウンディング」で海外留学をするという信じられないことをやってのけます。留学で学んだことを活かして世の中を少しでもよくする活動であれば支援してもらえると信じ、Facebookを使って告知。目標の20万円をなんと2日で達成し、その後も支援は増え続けました。
「人からお金をもらって留学に行くなんて、友達が減るだろうという覚悟で挑みましたが、予想に反してポジティブな反響が多かったんです。クラウドファウンディングという手法を選んだメリットは、活動の宣伝になること、応援してくれるファンがつくこと。この時のリターンとして用意した生け込みの仕事は、今でも続いています」
留学から戻ってきた河島さんは「ロスフラワー」を活かした作品作りを続け、評判は広がっていきます。世の中のSDGsへの注目が高まっていることも追い風となり、企業からの依頼やweb、テレビでの紹介も増えました。
この強いコンセプトを見つけ出した結果、彼女は唯一無二の肩書と、人々がシェアしたくなるようなストーリーの両方を手に入れたのです。
河島さんの行動をシンプルに表すと、「動いて、感じて、見つける」を繰り返しているということが分かります。自分の好きという気持ちを原動力にしてまず動けば、そこで感じたものをヒントにして次にすべきことがわかる。これも、好きを仕事にした時のポジティブサイクルではないでしょうか。
そして、これは働き方においての話だけではありません。何事も頭の中で考えすぎると、一歩踏み出すのに勇気がいる。そんな状態を自分で作ってしまっているかもしれないのです。「まず行動」とはよく言われますが、ここができるかどうか、が大きな分かれ道。河島さんの話は、それほど説得力のあるものでした。
旅が終わった今、私は、多くの方にこの記事を届けたいと感じています。河島さんのストーリーが誰かに届いて、その人が何かにトライするきっかけになったら嬉しい。いつの間にか、私もポジティブサイクルの影響を受けたようです。
取材・文:青木 優(Harumari TOKYO 編集部)
【取材協力】
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